エルソル飛脚ブログ ~Run 4 Fun~

四万十川周辺をチョロチョロしている飛脚の記録です。

エルソル大阪物語■26■「笑顔」

2018年01月19日 | エルソル大阪物語

■26■


「とてもいい人」の長島先生は、
クラスを僕に任せっきりで教室に入ってこなくなりました。

それでも授業の進行にも慣れてきて、夏を迎えました。

生徒は夏休みに入り、職員はまったりと雑務をこなしていました。

学校には「実習室」といってカット料金600円で生徒の実習を兼ねたお店がありました。
僕はそこでインターンの資格を取るのです。

僕は実習室の600円散髪に精を出していました。
「夏休み中は生徒の実験台にならない」ということで、結構お客さんが来ました。

といっても難波にはワケ有りの路上生活者が多く、
散髪よりも洗髪を喜んでいる感じで、僕の下手クソなCUTでも十分に通用しました。

続けて頑張っていると指名客も付きます。
僕の散髪人生初の指名客は、首に赤いスカーフを巻いた浮浪者のオジサンでした。

実習室に長島先生が飛び込んできました。
長島先生「上田、今日の夕方職員全員参加の講習があるらしいで」

  上田「何の講習ですか?」

長島先生「笑顔講習って言ってたな~」

  上田「何ですかソレ」

2階大教室に全職員が集合しました。

教室に入る時に「えがお新聞」というものを配られました。

少しして、【日本えがお協会】の「会長」という、
如何にも胡散臭いオッサンが会心の笑顔で登場しました。

オッサン「こんにちは!」
    「今日は講習が終わる頃には素敵な笑顔になって頂きます!」
    「あっ、もう既にいい笑顔の方がいますね~」

竹中先生「ホホホホホ!」

オッサン「あっ、素晴らしい笑顔!お名前は?・・竹中?」
    「ハイ、彼女のように普段から素晴らしい笑顔が作れれば」
    「言うことなし!」
    「笑顔は自分が幸せな時に出ます」
    「そして相手をいい気持ちにさせ、幸せを与えます」
    「笑顔最高ー!」

  上田「・・・」(胡散臭いワ、オッサン)

オッサン「さて、笑顔を作るのが苦手な方はいますか?」
    (片手を大きく上げて挙手を求める)

手を挙げる素直な古尾先生。

オッサン「ああ、随分と苦手そうですな~」

教室に笑いの渦。

オッサン「では、どうしても笑顔が作れない人のために・・」
    「とっておきの秘策を伝授します!」

    「ウォホンッ!!」(大袈裟に)

    「朝、顔を洗いますね~」
    「洗った顔をタオルで拭きとり・・」
    「ハイ、アナタ、その後どうされます!?」

長島先生「鏡を見ます」

オッサン「そうですよね~、・・鏡を見ます」
    「おそらくみなさんが毎日されている作業です」
    「その鏡を見た瞬間に笑顔を作ってください!」
    「まずは1日1回!」
    「洗顔後に鏡に映った自分を見て笑顔を作ってください!」
    「ただそれだけです!」
    「ちょっとみなさん、今、会心の笑顔を作ってみて下さい!」

職員一同「い~~」
  上田「い~~」(恥ずかしすぎる・・)

オッサン「素晴らしい!」
    「その笑顔を洗顔後の鏡の自分に送ってあげてください」
    「1週間後、そろそろ実践開始です」
    「洗面所だけでなく、鏡を見たらニコッと笑顔を作ってください」
    「みなさんは美容学校ということで鏡はたくさんあります」
    「ナルシストと思われても構いません」
    「鏡の自分を見たら笑顔です」
    「ハイッ!どんな笑顔でしたか!?」

職員一同「い~~」
  上田「い~~」(くそ~・・)

オッサン「鏡の自分を見たら笑顔」
    「その次はガラス・・」  
    「車のガラス、電車のガラス、ショーウィンドウのガラス」
    「自分を映すあらゆる物に笑顔を・・」
    「水溜りでもいいですよ~」
    「スプーンでもいいですよ~」
    「自分が映った瞬間に笑顔です!」
    「ハイッ!どんな笑顔?」

職員一同「い~~」
  上田「い~~」(・・・)

オッサン「ここまで来たらもう大丈夫」
    「みなさんはそれぞれモノを映し出す道具を持っています・・」
    「瞳です!」
    「相手の眼を見て喋ってください」
    「あなたの顔はきっと素晴らしい笑顔になっていることでしょう」

職員一同「パチパチパチ」(い~の顔のまま)
  上田「・・・・・・」(い~の顔のまま)

オッサン「では最後にみなさん一人一人、」
    「私と握手をしてお別れしましょう!」  
    「必ず眼を見てくださいね~~」

職員の皆がぎこちない笑顔を作りながら退場しました。

近くで見たオッサンの眼は白内障のように濁っていて、

僕の笑顔は悲しく濁りました。

■26■


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