片野道郎
3 SEP 2009
河出書房新社
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「私が毎日1時間半前には着いているのに、選手が遅刻するのを受入れるわけにはいかない。これはシンプルな論理だ。重要なのは、練習を10時から始めると伝えたら、練習は10時から始まらなければならないということだ。全員が揃っていれば完璧だが、揃わなくとも練習はスタートする。遅れて来た者は、家に戻らなければならない。試合の日にも家に送り返されるだろう」
という本を読みました。ジョゼ・モウリーニョを本当にすごい監督だと思ったのは、09-10シーズンのチャンピオンズリーグを制した時でした。ポルトとチェルシーでの実績を見れば、その才能に疑いの余地はないのですが、新天地イタリアで同じような結果を得られるのか?自ずと興味は増幅されました。インテルを率いるという自らに課した命題を見事にクリアしたカリスマは今、更なる高みを求めてレアル・マドリーを頂点へ導こうとしています。
インテルがバルサを破った準決勝は、戦術論を巡って大きな話題となりました。ボール支配率はバルサが68%、インテルが32%だったと思います。完全にゲームを支配されても勝ったのはインテルでした。それも狙い通りと言わんばかりのモウリーニョ采配は、超守備的に戦ったとして非難の対象とされました。それでも勝ったのはインテルです。チャンピオンになったのもインテルです。歓喜に包まれたのもインテルです。
この試合をきっかけに自分の中の価値観が少し変化しました。それを具体的な言葉であらわすと「結果こそ全て!」ということになります。その言葉には、以前思い描いていたイメージとはちょっと違ったニュアンスが含まれるようになりました。結果のためには手段を選ばずということではなく、結果を求める手段にこそ価値があるという考え方です。インテルで結果を出すためにモウリーニョが示したのは、まさにこのことだったように思います。
準決勝のバルサ戦を評して、こんなコメントもありました。「全員が引いて自陣を固める超守備的な戦術を採用しながら、最後までFWの選手をピッチに残したところに、フットボールに対するリスペクトを感じ取ることができる」つまりモウリーニョは「手段を選ばず」ということはしなかったわけです。ここが大切。これが超一流というやつです。