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河鍋暁斎記念美術館

2006-12-19 23:57:57 | Weblog
12月18日(月)晴れ【河鍋暁斎記念美術館】

埼玉県に蕨市というところがある。このあたりに時々法事に伺うのだが、地図を見るたびに気になっていた表示がある。それは「暁斎美術館」という文字である。ほぼ10年以上もいつかこの美術館に寄ってみたいと思い続けていた。それが先週ついに叶った。この美術館のすぐそばの家の法事があり、時間的にも丁度美術館に寄ることができる余裕があった。

法事の家の人は15分もあれば観られますから、駐車場をお使い下さい、と言ってくれた。しかし美術館にも駐車場が十分に余裕があったので、そちらに一応移動しておいた。それはまことに正解であった。15分と言われたが、私はなんと一時間半もここで過ごしてしまったのである。

「河鍋暁斎かわなべきょうさい記念美術館」には幕末から明治にかけて活躍した絵師、河鍋暁斎(1831~1889)の作品を中心に展示されている。實は私は暁斎については全く無知であっった。展示室に入ったとたん、絵の中から今にも踊り出してきそうな人物が何人も描かれた下絵に目を瞠った。絵に描かれる人物像がこれほどに躍動的な感じであるのを私は今まで見たことがない。

しかしほとんどが下絵のようである。他には暁斎の娘、暁翠(1868~1935)の描いた天の岩戸の絵があったように思う。同じ構図で暁斎が描いたものを暁翠も描いたようだ。素戔嗚尊すさのおのみことの悪戯が非道いので、天照大神が天の岩戸に隠れてしまった。それを鈿女うずめが踊って岩との周りで騒いでいるのを影から天照大神が覗いているような絵であった、と思う。

暁斎は三歳から蛙の絵を描いたそうで、長じてからも蛙は題材としても好んだようだが、展示室の一画に蛙の石行燈が置かれていて、これに蝋燭を入れて庭の一隅に置きたいものだと、一目でそんな気がした。

第二展示室では暁斎の作品解説のビデオを見せて貰った。絵を描くことにあまりに熱中する周三郎(暁斎の幼名)を、この才能を伸ばしてやろうと思った父親は、浮世絵師一勇斎国芳の元に7歳のときに入門させた。10歳の歳には狩野派に学び、19歳の時には洞郁の画号を授かっている。しかしその頃すでに江戸幕府は崩壊の寸前なので、狩野派の絵師としてのお抱え絵師のお役目は終わっていた。また暁斎自身ただ模写するだけの作業にはあきたらず独自の境地を開き、どのような画題にも生きた物語を吹き込まなくてはいられないようなエネルギーを持っていた絵師のようである。

ただなぜ暁斎のすぐれた絵師としての伎倆に対して、日本では正当な評価を得ていないのか。それは彼の腕前を海外の人々が見抜いて、その作品が多く海外に流失してしまっていることにも、その因があるかもしれない。また高官や世俗的に力のある者に迎合しなかった生き様にもあるかもしれない。また批評家になびかなかったことにも、その因はあるかもしれない。

このログを書くために、私も少し暁斎について書かれたものを読んで学んでみたのであるが、かなりの絵師であったのではなかろうか、と思う。将来再認識される時が来るのではなかろうか。曾孫の河鍋楠美さんという方がこの美術館の館長を務め、暁斎の偉業の顕彰につとめている。

鹿鳴館を設計したジョサイア・コンドルに『河鍋暁斎』(岩波文庫)の一書がある。コンドルは八年間、暁斎の弟子として教えを受けている。暁英という雅号までも貰っている。またかなりの作品を買い受けたようで、コンドル・コレクションがある。画題の対象は豊富であり、多岐に及んでいる。、観音菩薩像のある反面、幽靈の図があり、百鬼夜行図があり、蛙の絵がある。蛙は特に好んで描いたようである。蛙を戯画的に描いている。鳥羽僧正の鳥獣戯画は有名であるが、それに比する作品は暁斎にも多くあるのではなかろうか。

世の中で評価されているものを、人々はそれだけで尊ぶが、自分の目で見て再認識したほうがよいのではなかろうか、という画家や作品は、多く市井に埋もれていると思う。この度は10年来気がかりであった美術館に寄ることができ、じっくりと味わう時間を得られて幸運であった。

暁斎は龐居士や龐居士の娘霊昭女や禅僧も題材として描いている。これらは個人の所蔵となっている。いつか暁斎美術館に展示されるチャンスもくるだろう。

このブログをお読みの方々にも是非「暁斎美術館」にお立ち寄り頂けますように
*河鍋暁斎記念美術館:開館: 午前10時~午後4時
           休刊日:木曜日毎月二六日~年末年始
           入館料:300円
           住所:蕨市南町4-36-4(JR西川口下車)
           電話:048-441-9780 

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2 コメント

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うさじいさんへ (風月)
2006-12-20 22:23:59
いせ辰のいくつかのパターンをたしか描いています。「まねき」についてはちょっと分かりません。
かなり多くの作品を描いた方ですので、気をつけるとあちこちにあるのかもしれません。

禅録に題材をとった作品について一つ禅録の内容も合わせて、少し明日書き足してみたいと思っています。

朝倉彫塑館には私もいったことがありません。東京及び近郊のあちこちにいろいろな場がありますね。うさじいさんのお住まいの所にも文化的な施設が、いろいろとあるのではないかと存じますが。
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私も行ってみたい (うさじい)
2006-12-20 17:30:06
「いせ辰」が好きで、千駄木のいせ辰によく行きました。その時に、似たような絵を見たような記憶があります。
あと「まねき」と呼ばれる、昔のチラシにもこのような感じの絵がありますね。同じ方でしょうか?

私の行きたくて、なかなか行けないところは「朝倉彫塑館」です。そのそばのせんべい屋さんは、3回目でようやく買うことができました。
朝倉彫塑館は、行くたびに休みだったり臨時休館だったりと、どうも縁がありません。
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