1月3日(金)
3年前の6月だったか、膵臓ガンで亡くなった元NHK記者の近藤彰氏が書いた「どーもの休日」という本を紹介した事がありますが、今回紹介する「書かずに死ねるか」という本も朝日新聞の記者であった野上祐氏が書いた闘病記です。
日本人の2人に1人が罹るガンは今やありふれた病気と言えますが、余命を宣告される末期ガンとなれば話は別で、よほどの奇蹟でも無ければ遠からず死を迎えるという惨酷な病気です。
末期ガンの闘病記は生命の尽きる事をもって幕を閉じるので、涙を誘う悲しく切ない作品が殆どですが、末期の膵臓ガン患者であった野上記者が書いた本は些か趣きが異なります。
ある時受けた人間ドッグの結果から、不意打ちにように末期の膵臓ガンであると知らされる。ここから彼の3年余に渡る闘病生活が始まる。「自分の病気を取材する。」と本の中に書かれているとおり、その後の闘病記録は感情を交えず淡々と書かれて行く。
人間はあまりに衝撃的な出来事に遭遇すると、感情抑制のリミッターが作動して意外と冷静でいられると聞いた事がある。でも人間の感情はさざ波の如く揺れ動くので、野上記者も絶望感に打ちひしがれた瞬間があった事は間違いないだろう。
しかし本の中の彼は命尽きる最後まで弱音を吐かず、自分の病と対峙して毅然と記者の役割を全うする。その強い精神力は、記者魂とでも言うのだろうか。最後に彼は自分が関わった多くの人々へ、「皆さん本当にお疲れさまでした。」と挨拶を残してペンを置く。
「例え末期ガンに侵されても、最後まで人間らしく生きられる。」とこの本は世の人々を勇気づけてくれるような気がします。何かの折に是非ご一読を。