晴れ。最低気温3.3℃、最高気温6.8℃。
生田原町は山に囲まれた盆地です。山が近いので、日の出は定刻よりも遅く、日の入りは早まる傾向にあります。今朝は東の空が紅黄色に染まる朝焼けが見られました。
朝焼けについてネットで検索すると、『ブルタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説』によると「朝焼け あさやけ morning glow」とは以下のように書いてありました。「日の出のときに東の空が紅黄色に染まる現象。日の出や日没時には,太陽光線は最も厚い大気の層を通過して地上に達するが,散乱光の強さは入射光の波長の 4乗に反比例するため,波長の長い赤色が最後まで散乱されずに残り,赤い空が生じる。本文は出典元の記述の一部を掲載しています。」
《朝焼け 6:55撮影》
この重く垂れこめた雲の色を見ていると、北国の11月という時期が不安定さをともなう独特の雰囲気を持っているのではないかと思えてくるのでした。ぞれは、日没が早まっていくことや雪が降ったり解けたりを繰り返しながら辺りがまるごと冷やされていく過程にあり、生活の仕方をがらりと変えざるを得ないからなのかもしれません。
それはともかく、この雲をみていると、11月27日の日付を持つ「永訣の朝」の中で、賢治さんが「うすあかくいつそう陰惨(いんざん)な雲」、「蒼鉛(さうえん)いろの暗い雲」と表現していた雲のイメージと重なって見えました。みぞれは降ってこなかったので、かすっている程度の類似なのでしょうけれど。
永訣の朝 (宮澤家所蔵手入れ本)
けふのうちに
とほくへいつてしまふわたくしのいもうとよ
みぞれがふつておもてはへんにあかるいのだ
(あめゆじゆとてちてけんじや)
うすあかくいつそう陰惨(いんざん)な雲から
みぞれはびちよびちよふつてくる
(あめゆじゆとてちてけんじや)
青い蓴菜(じゆんさい)のもやうのついた
これらふたつのかけた陶椀(たうわん)に
おまへがたべるあめゆきをとらうとして
わたくしはまがつたてつぽうだまのやうに
このくらいみぞれのなかに飛びだした
(あめゆじゆとてちてけんじや)
蒼鉛(さうえん)いろの暗い雲から
みぞれはびちよびちよ沈んでくる
ああとし子
死ぬといふいまごろになつて
わたくしをいつしやうあかるくするために
こんなさつぱりした雪のひとわんを
おまへはわたくしにたのんだのだ
ありがたうわたくしのけなげないもうとよ
わたくしもまつすぐにすすんでいくから
(あめゆじゆとてちてけんじや)
はげしいはげしい熱やあえぎのあひだから
おまへはわたくしにたのんだのだ
銀河や太陽、気圏などとよばれたせかいの
そらからおちた雪のさいごのひとわんを……
…ふたきれのみかげせきざいに
みぞれはさびしくたまつてゐる
わたくしはそのうへにあぶなくたち
雪と水とのまつしろな二相系(にさうけい)をたもち
すきとほるつめたい雫にみちた
このつややかな松のえだから
わたくしのやさしいいもうとの
さいごのたべものをもらつていかう
わたしたちがいつしよにそだつてきたあひだ
みなれたちやわんのこの藍のもやうにも
もうけふおまへはわかれてしまふ
(Ora Orade Shitori egumo)
ほんたうにけふおまへはわかれてしまふ
あぁあのとざされた病室の
くらいびやうぶやかやのなかに
やさしくあをじろく燃えてゐる
わたくしのけなげないもうとよ
この雪はどこをえらばうにも
あんまりどこもまつしろなのだ
あんなおそろしいみだれたそらから
このうつくしい雪がきたのだ
(うまれでくるたて
こんどはこたにわりやのごとばかりで
くるしまなあよにうまれてくる)
おまへがたべるこのふたわんのゆきに
わたくしはいまこころからいのる
どうかこれが兜卒の天の食に変って
やがてはおまへとみんなとに
聖い資糧をもたらすことを
わたくしのすべてのさいはひをかけてねがふ
註 ※あめゆきとつてきてください
※あたしはあたしでひとりいきます
※またひとにうまれてくるときは
こんなにじぶんのことばかりで
くるしまないやうにうまれてきます