「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

転倒してしまったAさん (1)

2011年02月04日 19時26分11秒 | 介護帳

 Aさん (男性) は 意味のある言葉を 発することができず、

 コミュニケーションを取るのが とても難しい人です。

〔参考記事 : http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/60766415.html 〕

 普段 車椅子ですが、 支えがあれば 立って少し歩くことはできます。

 でも  “帰りたい願望” が起きて 不穏になると、

 スタッフを叩いたり つねったり、 対応が非常に困難になります。

 言いたいことが伝わらない苛立ちや、 不安になると 周りが敵に見えたりすることが、

 暴力的な行為になるのでしょう。

 僕たちも初めは 本当に苦労しましたが、 わずかずつ接し方を学んで、

 Aさんが不穏になることが 少なくなっていました。

 ところが昨年、 僕以外のスタッフが 全員入れ替わってしまい、

 新しいスタッフになって、 しばらく経ったころのことです。

 僕が休みで、 慣れない若い女性スタッフ 二人だけだった日、

 Aさんが不穏になって、 立ち上がろうとしたり、 殴ってきたり、

 スタッフの制止にも拘らず、 手が付けられなくなってしまったそうです。

 そして、 ついにAさんは転倒し、 頭に傷を作ってしまいました。

 Aさんの奥さんは 我々を信頼してくれているのですが、

 娘さんがこの一件で  (事後の報告に 不手際があったこともあり)

 不信感を抱かれてしまいました。

 それ以後、 興奮を抑える薬を 飲むことになりました。

 今まではずっと うちの施設では 飲まないようにしてきたものです。

 この薬は 抑制的なものなのか、

 あるいは 飲むことによって 本人も気持ちが落ち着いて 楽になるものなのか、

 恐らく 量によるのでしょうが、 一応 後者なのではないかと思います。

 その結果、 Aさんが不穏になることは あまりなくなりましたが、

 娘さんの不信は拭えず、 週2回だった利用が 週1回になり、

 そしてとうとう、 別の施設に 移っていってしまいました。

 僕らが当初から苦心して 信頼を築いてきたと思っていたのに、

 たった一回の出来事で それを失ってしまったのだとしたら、 誠に残念でなりません。

(次の記事に続く)
 
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