海自潜水艦「そうりゅう」が魚雷回避用デコイを亡失したことが報じられた。
デコイは本来、狩猟の際に獲物をおびき寄せるために使用する剥製などの”おとり”を指していたが、狩猟者の少ない日本では軍用の欺瞞装置を指す場合が多いと思う。デコイの歴史は古く、トロイの木馬や諸葛孔明が空船で敵の矢を集めた故事もデコイの1種と呼んでよいかもしれない。現在のデコイは、相手攻撃武器の追尾誘導の手段をかく乱して偽の目標に誘導したり誤爆させることを目的としており、電波追尾のミサイル電波かく乱を狙った”チャフ”や熱源追尾ミサイルを誤誘導・誤爆させる”フレア”が有名である。今回”そうりゅう”が亡失したデコイは、音源追尾の魚雷を誤誘導させるために潜水艦の疑似音を発生させるもので、映画「レッドオクトーバーを追え」でラミウス艦長が使用したものと同じ物と思う。冒頭の報道では、デコイが1発4000万円することに力点を置いているが、デコイが他国の手に落ちた場合には海自潜水艦の防御能力が明らかになり、他国が防御を破る方法の開発に繋がるおそれがあることの方を重視しなければならないと思う。想像であるが、デコイには”そうりゅう”の音紋が組み込まれており、さらに他の艦艇の音紋に変更するシステムにもなっているかもしれない。海自ではデコイが海底深くに水没したと確認するまで捜索を続けるものと思うが、防衛省が亡失した艦名まで公表したことは、もしデコイが他国の手に落ちた場合の不利益を考えれば如何なものであろうか。
どうも日本には情報公開の基準と対応があいまいである様に思えてならない。官僚や政治家の不祥事の際に開示される情報は海苔弁以上の黒塗りで、理由として個人情報の保護を言い立てる一方で国防に影響するかもしれない事柄でも個人に責任が及ばない事柄は平然と公開する。なんとかならないものだろうかと慨嘆するものである。