紙幣刷新と新紙幣のデザインが発表された。
新紙幣の流通は2025年頃とされていることから、自分が新紙幣を使える可能性は極めて低いので紙幣の新しい肖像について語る資格はないかとも思うが、今では貨幣に席を譲った紙幣について古い思い出を頼りに調べてみた。紙幣についての最初の記憶は1円(S21~S33:二宮尊徳)紙幣である。当時の経済状態の詳細は知らないが、通貨の最小単位である1円で10枚1シートのメンコ(生まれ在所では「パッチン」と呼称)が買えので、現実には「銭」の単位が通用していたと思う。次いで10円(S21~S30:国会議事堂)紙幣である。デザインが「米国」を示していると言われていたが、子供が目にする最高額面の紙幣であった。10円の小遣いを貰えることなど殆どなく、学校へ納める教材費等で手にするケースが殆どであった。50円紙幣(S26~S33:高橋是清)については記憶しているが使用した記憶が殆どないので、現在の2千円札と同じ様に影の薄い存在ではなかったであろうか。100円紙幣(S21~S31:聖徳太子)(S28~S49:板垣退助)であるが、100円聖徳太子時代の中頃(S25~)には千円紙幣(聖徳太子)が発行されているとされているが田舎の農村では千円札はめったに見ることはなく、100円紙幣が事実上の最高額面紙幣であったように記憶している。板垣退助時代には世の中も落ち着くとともにインフレが進行して、千円札とともに板垣100円札が紙幣の主流となり、初任給にも聖徳太子千円札+板垣100円札であったと記憶している。岩倉具視が描かれた500円紙幣も流通していたが、日常生活では板垣100円が紙幣の主流であったように記憶している。このように、我々の幼児期を彩った紙幣の全てが貨幣に代わり、パッチンを買うために垂涎の的で重かった1円も軽いアルミ貨に変わり、今では道端に落ちていても拾う人さえいない時代である。自分は、紙幣に描かれた肖像は思い出を辿るには欠かせぬものであるが、キャッシュレス時代を生きていく今後の世代は、自分史を補完するツールとして何を選ぶのだろうか。日本では紙幣は20年程度を区切りとして肖像・図案を一新している。一新の理由は「偽造防止」であり、肖像の選定に当たっては写真が残されている明治以降の文化人とされているそうである。ちなみに、各国の紙幣に描かれている肖像について調べてみたが、王族・政治家や建国・国威発揚に関わった人物が主流であるように感じた。また、中国やマレーシアのように、額面に関わらず肖像は建国を実現した人物一人である場合もあった。インフレに際して新しい高額紙幣を発行する国を除いて、アメリカのように一貫して額面ごとに固定した肖像を使用しているのが殆どであり、日本のように一定期間で図柄と肖像を一新する国は調べた限りでは見当たらなかった。
以前、陸自の服制改革について「見慣れた服装こそ国民に安心感を与える」ことを根拠として服制改革が時宜を得たものではないと書いたが、紙幣に代表される通貨に対しても同じことが言えるのではないだろうか。数年ぶりに日本を訪れた外国人は、紙幣が一新されていることから何らかの政変でもあったのかと訝しむに違いないと思うものである。肖像の変遷で記憶をたどるような高齢者はさておき、日本も紙幣の図柄は固定した方がよいのではと思う。固定するとしたら、今回の人物は小物すぎるのではとも考えるが。