もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

性風俗業は正業か否か

2020年09月24日 | 社会・政治問題

 デリバリーヘルス事業者がコロナ持続化給付金の支払いを求めて提訴したことが報じられた。

 コロナ対策として国が支給する持続化給付金や家賃支援給付金の対象から、性風俗事業者が除外されていることを始めて知ったが、訴えは「給付金は社会保障であり、性風俗業者を除外するのは差別である」とするものであるが、性風俗業を支援の対象から外すことは、5月の衆院予算委員会で経産相が「社会通念上、公的支援の対象とするには国民の理解が得られにくい」と説明して、決定されたものであるらしい。
 提訴の理非は司法が判断することになるが、野次馬としては興味あるテーマである。
 コロナ関連の公的支援を、国民の生命を守るための福祉的補償と見れば法の平等に従って性風俗業者と雖も除外すべきではないだろうし、経済政策と見るならば性風俗産業の存続に国家が手を貸す行為は外聞の悪いものであるようにも思える。
 現在では職業に貴賤は無いとされているが、明治以前については「往来物」に記載されていない職業は、社会からは正業として受け入れられなかったように思う。性風俗業が商売往来に記載されていたかどうかは定かでないが、お妾さん・遊郭・出会い茶屋・混浴・・等々、性に対するタブーが比較的緩やかで、性風俗通いが大目に見られたことから、性風俗業も市民権を得ていたのではないだろうか。
 商売往来という言葉を知ったのは、随分昔の落語か講談で、風流に現を抜かす若旦那に対して小言幸兵衛が「商売往来に載っている正業に就く」ことを説く場面であった。また、芸能人の不祥事に対して、という言葉を使用する老人ものいたので、商売往来とについて勉強した。
 ウィキペディアによると、「商売往来とは、江戸時代に流布した往来物のひとつで、商業に必要な語彙やそれに関する知識、そして商人の心構えを説いた初等教科書」とされており、平安時代後期に公家の書簡を纏めた文例集に由来するとされていた。その後多くの往来物が作られたが、江戸時代に入ると、農業(田舎往来、農業往来、百姓往来)、商業(商売往来、問屋往来、呉服往来、万祥廻船往来)、歴史(武家往来)、のように士農工商の身分に合わせた知識や慣習を盛り込んだものの他にも、習字用の「字尽し」、地理・歴史・道徳的な要素を盛り込んだものなど、多彩な形式の往来物が生まれ、特に寺子屋の教材として作られた、日常生活に必要な実用知識や礼儀作法を記した往来物は、識字率(欧米でも30%程度、日本50~70%)を高めるなど近世までの日本の高度な庶民教育を支える原動力となったものとして、日本の教育史上高く評価されているとされていので、現在では、まだ字の読めない幼児に与えて字を覚える動機付けとする各種図鑑のような役割であったのかも知れない。
 については、江戸時代の歌舞伎が京都四条河原で小屋掛け興行されていたことから歌舞伎役者の蔑称として生まれ、次第に人気商売全般に拡大し更には屠畜業種なども含まれるようになったとされている。

 現在の正業か・正業でない職業かが、何を指して、何の基準によるものか曖昧であるが、明治以前(大戦以前かも)にあっては「正業」の概念が何となく定着していたのだろう。そこには職業による差別や人別に因る差別が窺えるものの、市民生活を平穏に営む上での必然から生まれた簿外の基準と見ることもできる。果たして現在の性風俗業は、公的支援の対象であるか否か、正業か否か、裁判所も大変な判断を強いられるものと同情を禁じ得ない。