政府はコロナワクチンの輸送等の詳細は公表しない方針である。
今月3日には、官房長官が記者会見でワクチンの輸送・数量・保管場所等に関する報道自粛を要請していることもあって、既に12日にはベルギーからファイザー社ワクチンが成田に到着しとされるが、政府は公式には認めていない。政府がワクチン輸送の詳細を公表しないことと報道自粛を要請した理由は、製薬会社との契約、国内における無用の混乱と不測の事態を避けるためとしているが、この処置を巡っても「日本特有の反対意見」が有るらしい。自分では、政府の方針は極めて妥当なものと考えるが、反対意見として取り上げられた立教大教授(メディア論)は「ワクチン接種は義務でないために国民は情報を知った上で判断すべきであり、その材料を与えないのは本末転倒」と述べているらしい。揚げ足を採るようで申し訳ないが、義務であれば情報提供は必要でないとも取れるもので学者の論旨として如何なものであろうか。更にワクチン接種を受けるか否かの判断材料として輸送や数量の詳細という情報が必要なのだろうかも疑問に思う。
また、教授は報道自粛要請についても「報道自粛を判断するのはメディア側の話」と続けられているが、大新聞でさえも誤報や心ない報道が後を絶たない現状からジャーナリストの質的低下が問われ、SNSもメディアの一部と捉えられる状況下でメディアの信頼性が著しく低下している中にあっても、教授はメディアの正常な判断力を信じているのだろうか。
現在、ワクチン接種は比較的先進国で行われているためにワクチン奪取や輸送妨害などは行われていないが、これらの国にあっても接種が受けられない不法滞在者などがテロに奔る可能性も考慮する必要があり、日本への供給計画の詳細を政府が公表しメディアが拡散することでこれらの人々を刺激するケースも考えられる。このことを考えれば、教授の言う「国民に知らせるべき事項」が「他国には知らせてはならない事項」に該当する場合もあり、情報がリアルタイムに拡散する現在にあっては自国民のみ念頭に置いた情報管理は極めて危険であり、メディアにその選択を委ねることは適当ではないように思える。
今回の情報非公開等に対する反対意見を「日本固有の意見」と書いたのは、日本の識者やメディアが情報の持つ真の意味、特に他国に対する影響を全く考慮しないことを書きたかったのである。かって朝日新聞が書いた「慰安婦強制連行」は、朝鮮人慰安婦の人権のためではなく単に軍人の蛮行を国内の反軍・反戦運動に繋げたかったものであろうが、世界中に抜き差しならぬ影響を与え、クマラスミ報告によって世界認識まで拡大した苦い経験を持っている。大手新聞記者が、自国の防衛装備について隣国の同意を問うという「メディアのガラパゴス化」が確実に起きている日本にあって、我々も知る必要がないことには目をつぶる自制が求められてもいるように思う。