防衛相が、中・小型輸送艦4隻の建造と海上輸送部隊の新編計画を公表した。
発表では、2,000㌧級の中型輸送艦一隻と数百㌧の小型輸送艦3隻を令和5年度末までに建造するとともに、艦艇の就役に合わせて海上輸送部隊を新編し、島嶼防衛のための人員部隊や軍需品の輸送に充てるとしている。
本ブログで複数回紹介したことであるが、アメリカは海軍の輸送部隊とは別に、MSC(Military Sealift Command:軍事海上輸送司令部)という機能があって、策源地以降の上陸支援は海軍の強襲揚陸艦が、戦闘海域に展開する艦隊への補給支援は海軍が直接行うものの、本国や後方基地から策源地までの輸送はMSCが行っている。有名なところでは英領ディエゴ・ガルシアには、中東紛争に備えて1個旅団の展開に必要な軍需品を搭載したMSC所属の船舶が常時待機しているとされている。また、MSCは輸送船の他にも、音響測定、電波情報収集、測量、海洋観測等の海事・対敵情報収集に当たる船も保有しており、弾が飛んでくる可能性は低いものの、一般商船よりは危険の高い任務に当たっている。
自分が後方支援を担当した僅かな経験からであるが、MSC所属船舶の乗員には退役軍人が多いようで、特に船長を始めとする高級士官は全て退役軍人であるように思えた。海軍の作戦に密着して運航するためには、海軍の用語、手順に通暁することが必要であり、特に海軍の護衛を受ける場合には海軍の戦術や通信・運動規則に従う必要があることから、退役軍人を中心として運航しているのであるのだろう。
戦時輸送の歴史を辿れば、大東亜戦争開戦時には商船の半分を軍事輸送に充てるとしたものの、特に海軍による護衛等は行われなかったが、中期以降アメリカが潜水艦による通商破壊や戦時輸送阻止に注力して日本の船腹被害が増大したために、軍事輸送に関しては船団護衛方式とし輸送船団には海軍の連絡将校を、各輸送船には予備役の下級将校を乗船させて海軍との連携を図かったが、有効には機能しなかったと理解している。
尖閣水域での紛争拡大を想定すれば、今回の海上輸送部隊構想では、沖縄までは民間船で、それ以降の戦闘海域に近く港湾施設が貧弱な島嶼への輸送は海上自衛隊が担任する構想であろうが、沖縄までの輸送にも少なからぬ危険性が有るので、民間商船が運航を拒否する可能性が残る。作戦部隊に対する作戦資材の海上輸送に関しては現有艦艇や建造予定の輸送艦で遣り繰りするとしても、戦闘地域住民への食料品を始めとする民生品については、船舶の徴用や乗組員の軍属雇用ができない日本の法体系の限界から民間船舶に依存しなければならいが、戦時(有事)の海上輸送の一部を民間の善意に期待することは危険で、万一乗員に被害が及んだ場合の補償等には問題があるように思う。やはり、策源地(沖縄)までの海上輸送を含めた輸送体制を整備することが必要であるように思うので、今回の防衛省構想を一歩進めて、輸送運航を一元管理できるとともに乗員にも自衛官と同等な任務を付与した組織とすべきではないだろうか。