美容器具として、ミストシャワーノズルのCMが放映されている。
CMでは頬に付着した油性インクをミストシャワーで落とす様が演出されているが、本日は艦艇における入浴と水事情に関してである。
艦艇の大型化と長期間の滞洋監視活動が求められる運用法の変化から、いささか現状とは異なるかも知れないので老兵の思い出話として受け取ってもらいたい。
自分が最初に配属されたのは米軍から貸与されたパトロールフリゲー艦(PF)であったが、真水搭載量は60トンであったと記憶している。また、海水を蒸留する造水能力も低くボイラ水の補充が精一杯で飲料水に回せる余力は無かった(注)。そのため節水は至上命令で、航海中の入浴は3日に1回であり、何等かの事情で真水補給が受けられなかった際には、1日に洗面器1杯の水しか配給されなかったことも度々ある。
最後に乗艦した護衛艦は当時の最新鋭艦で200名強の乗員に対して200トンを超える真水を搭載、造水能力も15t/日と向上していたが、それでも2日に1回の入浴を例としていた。号令についても浴槽を使用できる場合は「入浴許可」で真水が逼迫している場合は「シャワー許可」と分けられ、乗員の多くは「入浴許可」の号令を期待して耳を凝らしていたものである。
真水使用量を比べると、シャワーは入浴の半分程度で済むので一般家庭でも参考にできるものかも知れない。
楽しみは外洋に出た際の海水風呂で、水虫の治療効果もある?のみならずリラックス効果は絶大で、一般にも「入浴用の塩」愛好家が多いと聞くのもうなずける。
日米の艦種別の真水保有量を比較すると、米艦は自衛艦の半分程度しか真水を保有していない。原因として考えられるのは入浴文化の違いと、日本の米食にあるのではないかと思っている。シャワーが入浴の半分程度しか真水を使用しないことは前にも述べたが、米艦艇はミストシャワーを装備して更なる節水を実現しているらしい。想像であるがミストシャワーは通常のシャワーの半分程度しか真水を消費しないのかと思うが、日米共同訓練時に交換乗員として米艦に派遣された隊員の話では、シャワーは何時でも使用できるもののミストシャワーでは風呂に入った気にはなれなかったそうである。
米食については、現在市販されている米を美味しく炊くためには、1~2度軽く流せば十分で米を洗う必要や濁りが消えるまで漱ぐ必要はないとされているが、艦艇搭載の米は古米で更には高温多湿の米麦倉庫で長期間保管されるために、糠臭があり1食分の洗米に護衛艦では1㌧近い真水を消費するように思う。1日3食で3㌧、シャワー1回分に近い真水を消費すると思っている。
船乗り社会では、「カネ(鉄)と水(海水)には事欠かないが、カネ(銭)と水(真水)には事欠く」と洒落ている。21世紀以降の有力な武器は化石燃料ではなく水資源と云われるように、地球人口100億人時代に世界を制するのは水であるかも知れない。モンスーンの恩恵で、水の有難味を実感しない日本人は浪費を「湯水のように」と形容するが、「湯水」は贅沢や羨望の形容として使われる時代が来るのかも知れない。
節水を教育された海自OBであるが、その反動からであろうか棲家を陸に移した今「水の流っし放し」を新艦長(山の神)に厳しく教育されている。反省・反省!!
注:ボイラ水は塩分濃度4PPM以下の純水に近いものが必要であるが、これは味も素っ気も無い水で飲料水としては不興である。そのために現在では、蒸留過程でミネラルを注入して飲用に適する水を造水していると聞いている。