一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『大きな鳥にさらわれないよう』

2019-03-26 | 乱読日記
川上弘美はセンセイの鞄くらいしか読んだことがなかったのだが、こういう話を書く人とは想像していなかった。

出だしはふわっと始まるのだが、だんだんこれが人類の未来を描いたデストピア小説の様相を呈してくる。
というよりデストピアなのかユートピアなのかの判断を読者にゆだねながら、断片が少しずつ明らかになっていく。
そこでは「人類とは?」「自分とは?」、種の維持・存続のために異なる存在をどこまで許容するか、が常に問いかけられる。

残念なのは、最後の種明かしがちょっと性急だったところ。
確かにずっと宙ぶらりんの状態に置かれたまま読み進めるのは骨が折れる経験であったが、そのまま時間がかかったとしても最後まで物語としてまとめれば(自分も含めて読者がそこまでついていければ)すごいものになったのではないかと思う。

★3

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『孤狼の血』

2019-03-24 | 乱読日記
盤上の向日葵の柚月裕子つながりで。

こちらは広島の暴力団抗争を舞台にした刑事の話。
作者得意の「頭は切れるものの態度が下品という年配男」であるベテラン刑事の迫力はこちらの方が上かもしれない。
部下の若手刑事やヤクザとの掛け合いの広島弁も生き生きとしているし、息をつかせない展開も見事。

こちらは第69回日本推理作家協会賞受賞作。納得。

★4.5

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『盤上の向日葵』

2019-03-23 | 乱読日記
最近小説は本屋大賞、このミスや気になったレビューに頼ることが多いが、これは2018年本屋大賞第2位。

身元不明の白骨死体と30年前の少年の話、プロ棋士の世界と掛け将棋で生きる「真剣師」の世界が将棋の駒を介してつながる、という話。
筋書きは後半に入ると大体読めてくるのだが、会話や心理描写のディテールの上手さで最後まで一気に読ませる。解説で「頭は切れるものの態度が下品、という年配男」を書くのが上手いと言われていたがまさにその通り。

ちなみにまったく将棋を知らない人はさておき、へぼ将棋の身でも十分楽しめる。

★4

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『破門』

2019-03-02 | 乱読日記
黒川博行つながりで、つぎは直木賞受賞作の『破門』。

これは既に7作刊行されている「疫病神シリーズ」の5作目。

建設コンサルタントの二宮と「疫病神」ことヤクザの桑原の二人を中心にストーリーが展開する。

登場人物のキャラクターも確立されていて、掛け合いはこっちの方がさらに面白い。

二宮はギャンブル好きでいつも金に困っているダメな奴で、疫病神扱いの桑原の方が(特にシノギに関しては)段取りや先読みが利く、というデコボコ度合も面白い。

エド・マクベインの「87分署シリーズ」をちょっと思い出した。


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『迅雷』

2019-03-01 | 乱読日記

『K氏の大阪弁ブンガク論』でセリフの壮絶さを絶賛されていたが、確かにその通り。

「わしはあれを見て、これや、と手を打った。裏の世界でシノギしてるやつから金をとったら、被害届なんか出えへんがな」思わせぶりな笑みを浮かべて、稲垣はつづける。
「――で、わしは極道を誘拐することにした」
「よう考えてみい、極道は金持ってて懐がルーズや。不健康な生活しとるから体力はないし、バッジ見せたら怖いもんはないと思とるから挑発に乗りやすい。おまけにあちこちで恨みを買うてるから、身柄(ガラ)をさらわれても相手のめぼしがつかん。身代金をとるには最高の獲物やで」

という話。

とはいうものの、筋書き通りに話は進まず、主人公たち犯人グループと誘拐された極道達の立ち回りが続くのだが、設定柄、主人公と誘拐・拘束されている極道たその部下とは会話・電話でのやりとりだけになるので、確かに台詞回しがポイントになる。

ストーリー自体もディテールが凝っていてとても面白い。
土地勘がないところで展開される物語なので登場人物が行き来する地名をGoogleMapを横に置きながら読んだらリアリティが出てより楽しめた。

 

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『K氏の大阪弁ブンガク論』

2019-02-28 | 乱読日記
内容的にはみんなのミシマガジンのコラムとして連載していた当時に読んでいた。

大阪弁で描かれた小説を大阪人が論評するので、東京者としては脇から面白がって眺めているしかない。

読み物としては、著者と津村記久子の対談の『大阪的』の方が腹におちる部分は多い。

あちこちで「大阪弁の身体性」が言及されるにつけ、自分自身の日常で使っている言葉が仕事とTwitter的なノリの言葉に二分されて、つまらなくなっていることに反省しきり。

★3

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『紙の月』

2019-02-27 | 乱読日記
横領をした銀行の契約社員の女性を軸にした人生とお金についての話。

実は日常の積み重ねのちょっとした延長として横領という行為に手を染め、それがエスカレートしていくプロセスの描き方が上手い。

目隠ししてジェットコースターに乗って、上り坂をゆっくり登りながら、どこまで上るのか、いつ破綻がくるのかという不安感を味わえる。

★4

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『舟を編む』

2019-02-26 | 乱読日記
2012年の本屋大賞で、既に映画化もされているのに、今頃初めて読んだのだが、人気になっただけのことはある。

辞書の編集のやり方とか言葉へのこだわりなどは思ってたよりさらっとしていたが、こういう語り口の青春小説(に入るんだと思う)って久しく読んでいなかったので新鮮だった。

★4

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『兄弟の血』

2019-02-25 | 乱読日記
『熊と踊れ』の続編。

登場人物の全員が怒りを抱えて生きている、その怒りの中心にある「家族」前作以上に重くのしかかる。こういう重い話は嫌いではない。

大胆な犯罪の構想やスピード感には相変わらずの冴えを見せているが、最後ちょっと辻褄あわせ感が出たのが残念。

★3.5

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『地下道の鳩: ジョン・ル・カレ回想録』

2019-02-24 | 乱読日記
ジョン・ル・カレの自伝。小説同様人や人生に対するシニカルな見方に小さなユーモアが加わってとても面白い。

スパイとして(正式に認めたのははじめてらしい)、またスパイ小説の大家としての経験や交友関係の広さとともに、歳をとっても現地でのリサーチを欠かさない姿勢(そのきっかけの出来事も書いてある)にも感嘆する。

★4

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