敗戦直前のドイツ軍からの脱走兵が、偶然見つけた将校の制服を着て成りすまし、他の脱走兵や敗残兵から自らの部隊を編成して、後方の街を舞台に私設裁判まで行なうようになった、という実話を基にした映画。
実話をもとにしていると言われなければにわかには信じがたい話だし、ストーリーの展開も強引に思えるが、階級章を盲信する兵卒、自分に都合がよければ多少怪しかろうと利用する他の将校などがからみあい、こういう輩を生み出したことが描かれる。
そして、本人の小心さとその裏返しとしての残酷さのエスカレートしていくところが本作の見どころ。
エンドロールの映像もぜひ見てほしい。
本筋とは違うが、主人公たちの行き過ぎた残虐行為に、利用したはずの他の部隊の将校が「それはドイツ的でない!」と批判する場面が印象的。戦時中の日本軍にはそういう規範意識のようなものはなかったのだろうか、とふと思った。
★4
ここからが今年分。
妻に対するDVを子供の視点を中心に描いた映画。
本人は悪いことをしていると思ってないので、回りが少しでも遠慮・譲歩するとひどいことになってしまう、という救いのない日常をそのまま描いている。
回収されない伏線のようなエピソードがいくつかあるが、ドキュメンタリータッチの作品と思って観た方がいいと思う。
★3
何を今さらなんだが、話題になった当時見そびれていたのを、amazon primeで見つけたので。
映像や音楽など、当時としては相当斬新だったろうなと今さらのように思う。
今や歴史的作品の仲間入りをしているが、Brexit騒動における若者の失業の話などを聞くと、状況としては今も似たようなものなのかもしれない。
★4
これも遅ればせながら昨年飛行機で観たんだが、こちらはそれでもけっこう面白かった。
凄惨なストーリーと美しい大自然の映像が印象的。スクリーンで観たらもっと大迫力だったんだろうと、そこが残念。
★3.5
ワイオミング州のネイティブ・アメリカン居留地をとりまく貧困・犯罪の連鎖とそこから脱出することの難しさ、がサイドストーリー。
自然管理局の職員として地元にとどまりネイティブアメリカンの妻と結婚した主人公と派遣されてきたFBIの白人女性捜査官という設定がうまい。
雪に閉ざされた土地と救いのないストーリーがリンクして印象的。
★4
例によってしばらくごぶさたしてしまったが、昨年観たやつも含め映画の感想を。
これは昨年飛行機で観た。
大富豪の子供の誘拐劇と一族の軋轢を描いているんだが、ちょっとストーリーに追われている感じだった。
ただ、飛行機のモニターだといまいち入り込めないので、そこは割り引かれているかもしれない。
★3
『カメラを止めるな!』
評判を聞いて単館の時に観に行ったが、既に満員だった。
「あれ?これで終わり?」から「やられた!」までの掌の上での踊らされ感は久しぶり。
端から端まで「映画が好き」というのが伝わってくるのもいい。
★5
『ボヘミアン・ラプソディ』
Queenはど真ん中の世代なので、逆にどうやって映画で再現したんだろうとちょっと疑心暗鬼で臨んだんだが、冒頭のLIVE AIDのステージに上がる時のフレディのキュキュッとした尻の振りを見てやられた。
★5
『恐怖の報酬【オリジナル完全版】』
昔、短縮版をテレビで観た記憶があったが、確かに完全版の方が単に「ニトログリセリンを運ぶ話」でなく登場人物の背景がわかることで話が立体的になって面白い。
それにしても、1977年のCGもない時代によく作ったと思う。
★4
『ボーダーライン』
メキシコの麻薬カルテルとアメリカの攻防の話なんだが、治安の悪さ・貧富の格差・腐敗・アメリカの問答無用さ、という現実をこれでもかというくらい目の当たりにすることになる。
敵も味方も目的達成のためには手段を選ばない連中の中では誰も信じてはいけない、という救いのなさで圧倒してくる映画。
★4
『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』
上の続編。
今回は最初から前作で暗殺者役だったベニチオ・デル・トロが主役。
相変わらず暴力的で残酷だが前作のような「救いのなさ」は薄まっている。
興行収入がどれだけだったか知らないが、3匹目のドジョウをねらってより派手だけど薄まったドンパチ活劇シリーズになってしまわないことを祈る。
★3.5
『そして父になる』
福山雅治の「嫌な奴」感とリリー・フランキーの「どうしようもなさ感」をうまく生かしている。
実際、皆それぞれの部分(しかも悪い方だったりする)を持ち合わせて生きてるんだよね。
★3.5
『告白』
松たか子の人工的なところが、今風な演出と合っていて独特の雰囲気を出している。
ただ、個人的には説明的すぎる感じがした。
★3
父親は失踪した娘を探そうとして娘のパソコンでいくつものSNSアプリを開くが、そのレイヤーのなかに自分の知らなかった娘の姿が断片的に見え隠れするところの演出が上手い。
小さな違和感が大事、というのが謎解きの鍵になるが、観客にとっても謎解きの鍵はけっこう前の方に出てきていて、それに小さな違和感を感じながらもスルーしてしまったので、ちょっと口惜しかった。
★4
俳優陣の演技はどれも光るが、中でも安藤サクラが圧倒的。
ただ、歳のせいで最近耳が遠くなり、リリー・フランキーのぼそぼそとしたしゃべり、特にラストシーン直前の子供との寝床でのクライマックスの会話が、聞き取りにくいことの方に注意が行ってしまってインパクトが割り引かれてしまった。
翌朝のやり取りで想像ができたが、山場を逃してしまった感があったのは残念だった。
翌日書店でノベライズ本の最後の部分だけ立ち読みして確認したが、このセリフをその場でぶっこまれていたら最後はかなり泣いたと思う。
脚本もセリフにこめられた伏線と回収が後から考えると緻密に計算されているので、「聞き逃し問題」も含めてもう一度観てみようと思う。
(以下ネタバレあり)
冒頭は一家の特殊な構成とそれぞれの「仕事」が描かれるが、誰と誰が血のつながりがあるのか?ないならばなぜ一緒に住んでいるのかについては断片的なヒントだけ提示しながら、話は進んでいく。同時に、家族制度以外の「制度」の厳しさと戦う一家が描かれる。
祖母(樹木希林)の死をきっかけに話は大きく展開する。
なぜ、祖母の死を隠すのか、年金目当てよりはボロ家とはいえ一戸建てを相続して売却したほうがよほど金になるのに、と思いながら、最初の方で祖母が家の売却話を断り続けてきたことを思い出す。つまり、誰も相続できないのではないか。
そして、母信代(安藤サクラ)が祖母の年金を引き出して息子祥太(城桧吏)との帰り道が転換点になる。
祥太の万引き稼業についての質問への信代の「お店がつぶれなければいいんじゃない?」という答えと、万引きを見逃してくれていた駄菓子屋の閉店(実際はオヤジが死んだのだが祥太「つぶれたのかな?」と思う)、そして祥太にとって妹となった冒頭に家族に加わったりん(佐々木みゆ)を守りたい気持ちがひとつになったことで、逆に一家の崩壊が加速してゆく。
崩壊の過程は、「つながり」対「制度」の戦いの場であり、制度側が圧倒的な強さで一家を蹂躙していく。そのなかで、祥太を思う「父母」(信代と治(リリー・フランキー))の愛情とそれを受け止める祥太の関係がクライマックスとなる。
家族が崩壊した後、戸籍上の家族のつながりからはずれてしまった(ここの描かれ方も秀逸)妹亜紀(松岡茉優)が無人となった家を訪ねる。そこで、祖母も「つながり」と「場」を維持するために家を売らなかったことがわかる。
ラストシーンで虐待する両親のもとに戻されたりんの描かれ方が、制度の冷酷さを象徴している。
「制度」の側に首まで浸かっている身としては、作品のエンディングとは別に、信代が制度を利用して虐待を通報する、という後日談があることを期待してしまった。
★5