これも良書。
著者は国立医薬品食品衛生研究所安全情報部第三室長(なんだか後半はインテリジェンス部門みたいだが)。
一言で言えば、
「健康食品」というものは健康上の効果が科学的に証明されてはいない。
「食品」だから副作用がないとも限らない。
厳重な承認手続きを経た医薬品と普通の食品との間にあるものは、各国でさまざまな(中間的な)規制を受けている。
中でも日本では健康食品の広告表示の規制や「トクホ(特定保健用食品)」「機能性表示食品」などの基準も緩いのは問題である。
という注意喚起の本。
たとえば、日本でトクホとして許可されているものでEFSA(欧州食品安全機関)の評価では科学的根拠がないとして却下されたものが複数ある。これは必要とされる科学的根拠のレベルが相当違うためである、など、各国の制度や実際には効果がなかったり逆に有害だった健康食品の具体例や誤解を生じさせる広告表示の例をこれでもか、というくらいあげている。
また、「国際学会」や「学術出版」といっても実態の伴わない詐欺的なものは世界中いたるところにあり、広告の謳い文句に使われているという話。
さらにドイツの学者が意図的に欠陥を含ませた論文を投稿した実験では、大手出版社や大学(それも神戸大学)の雑誌にも掲載され、それらの雑誌でもピアレビューが機能していないことがある、など、最初から最後までコテンパンである。
同じサプリメントやトクホ製品を買うにしても、こういうことを知っていた上で買う方が、極端に入れ込むよりも経済的にも精神衛生的にもいいと思う。
最後にいくつか象徴的なものを抜粋。
(英国の消費者向け助言:「誰がサプリメントを必要としているのか」)
・妊娠を予定している女性にとって葉酸
・高齢者や肌の色の濃いイスラム教徒、授乳中や妊娠中および6か月未満の子どもにちってビタミンD
・医師から処方された人 それ以外の人は必要ない。
・ビタミンCや亜鉛が風邪を予防するという根拠はない
・グルコサミンやコンドロイチン硫酸に関節への効果はない
・朝鮮人参やイチョウが高齢者に有効だという根拠はない。しかし有害影響はあり得る
・どうしても使用したければ十分な情報を得て、医師に相談してから。
(米国FDA(食品医薬品局):詐欺を見破るための6つの方法)
・一つで何にでも効く:そんなに都合の良いものはまずない
・個人の体験談:科学的根拠がないことを白状している
・簡単に問題が解決できる:たとえば食事制限や運動なしで痩せられるなど
・オールナチュラル:天然物が安全とは限らない
・魔法の治療法:革新的や新発見という用語には警戒
・陰謀論:医薬品業界や政府が情報を隠している、という主張は消費者に不信を抱かせ(業者にとって都合の悪い)正しい情報を遠ざけるために使われる
(著者:「抗酸化作用」について)
・・・がんや慢性疾患の原因は酸化だから、抗酸化物質を摂れば病気予防になる、という説です。確かに一部の発がん物質は酸化反応で生じますし、DNAやたんぱく質のような生体内高分子が参加的影響を受けて機能を損なうことはあります。しかし酸化還元反応は生体の機能にとって必須の反応であり、それをすべて抑制することはできません。 (中略)
いつ、どの組織で、どの反応が問題なのかを同定することなく「抗酸化」が良いと言っていること自体、科学ではないと白状しているようなものですが、一般人のみならず研究者にもこの手の主張に疑問を持たず受け容れているように見える場合があります。
さてその抗酸化作用に関連して、野菜などの食品の抗酸化活性を測定し評価しようという試みがありました。その一つが1990年代に米農務省(USDA)と国立老化研究所の研究者らにより開発された酸素ラジカル吸収能(ORAC)です。 (中略)
ところが2012年、USDAはこのデータベースをウェブから削除します。 以下が削除の理由です。
最近、USDAの栄養データベースを提供している栄養データラボ(NDL)は、ポリフェノールを含む特定の生理活性化合物のヒト健康影響に、抗酸化能を示す指標が関係ないことを示す根拠が増加したため、USDAのORACデータベースをNDLのウェブサイトから取り下げた。 (中略)
ORAC値は食品やサプリメント業者によって製品の宣伝に常に誤用されてきた。(中略)
ポリフェノールをたくさん含む食品の健康への良い影響が、抗酸化能によるという根拠はない。(中略)
我々は今や、食品の抗酸化分子には幅広い機能があり、その多くがフリーラジカルの吸収能力とは関係ないことを知っている。