一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

「量刑の基本的な考え方」

2009-05-22 | 裁判員制度

最高裁が「量刑の考え方」作成…21日から裁判員制度
(2009年5月21日(木)03:03 読売新聞)

最高裁は、裁判員裁判で、被告の刑を決める評議の進め方や重要なポイントを示した「量刑の基本的な考え方」を作成し、全国の裁判官に配布した。  

模擬裁判では量刑を巡る議論がまとまらないケースが多かった(中略)このため、最高裁の作成した「考え方」は、量刑は被告や被害者の社会的地位に応じて変化してはならないという原則を確認。「被告の前科や反省の度合い、被害感情などは、刑罰を決める上で副次的なもの」と指摘した。  

そのうえで、量刑を決める評議の手順を示した。まず、〈1〉タクシー強盗か路上強盗かといった「犯行の態様」〈2〉被害者は死亡したのかけがをしたのかといった「犯行の結果」〈3〉保険金目的か 怨恨 ( えんこん ) かなどの「動機・計画性」--といった点に着眼。これらの本質的な要素から、事件の類型を見極める。  

その後、類型ごとに過去の事件の量刑が調べられる検索システムで、大まかな量刑分布を把握。さらに、被害者の落ち度や遺族感情、被告の犯行後の行動や反省の度合い、被告の更生の見通しなどを検討し、最終的に刑を決めるとしている。  

僕自身の模擬裁判の経験からも量刑は素人には難しいと思うのですが(参照)、一方で過去の量刑の相場をベースにするのでは市民感覚を刑事裁判に反映させるという裁判員制度の目的からははずれてしまいかねないので難しいところです。

裁判員も国民の義務だと割り切れば、評議を要領よくまとめるのでなく、まとまるまで評議をする、というやりかたでもいいんじゃないでしょうか。
中にはとても頑固で自説を曲げない人もいるでしょうけど、議論を十分尽くした後にやむを得ず多数決をとるのなら仕方がないと思います。
裁判長には要領よく評議をまとめる技量よりも、十分評議を尽くさせたうえで打ち切りどころを見極める技量が必要なように思います。


ところで「量刑は被告や被害者の社会的地位に応じて変化してはならないという原則」とありますが、被告人の職業や業務内容が注意義務や責任の有無に結びつくこともあるんじゃないでしょうか。このへんあまり詳しくないのでよくわからないのですが、少なくとも副次的には考慮された「○○という地位にありながら」という刑事事件の判決もありますよね。



あと、新聞記事へのつっこみですけど、細かい話ですが民事事件では「被告」といいますが刑法では「被告人」という表現が正しいと思うのですが。

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久しぶりに裁判員制度の報道

2008-03-17 | 裁判員制度

市民とプロになお隔たり 模擬評議で浮き彫り
(2008年3月16日(日)22:29 朝日新聞)

模擬裁判員をやって以降関心を持っている問題です(私の感想のまとめはこちら参照)。

上のリンクの先のasahi.comの記事には2つエピソードが載っています。

市民裁判員役の20代の女性は、被告の母親が「この子が出所したら、家族として迎え入れて普通に暮らしたい」と述べたことに強く反発。「他人の家族を壊しておいて、『普通に暮らす』とは虫がよすぎるんじゃないか」との理由だった。  

この様子を別室のモニターで見ていた検察官や弁護士は驚いた。「身元引受人がいるのは被告にとってプラスの情状のはずなのに」「僕らのこれまでの常識が通用しない。裁判官より裁判員の方が犯罪に厳しい」

これは「身元引受人がいるのは被告にとってプラスの情状」というのは法律には書いてないわけですが、にもかかわらずそういう相場が出来上がったのには合理的な理由があるはずで、被告人に有利な情状なら弁護士が、不利な情状なら検察官がそれを説明する必要があると思います。
そのために一般国民を裁判員にしたわけですし、国民感覚と慣行がずれていないかどうかを検証するためにも必要だと思います。
私の体験では 「予備的反省」というのがどうもしっくりきませんでした(参照)。

検察側の求刑は懲役10年。それぞれが量刑を投票した結果、判決は「懲役7年」となった。だがその後、裁判官が過去の同じような事件の判決を紹介。再び投票したところ、量刑は「懲役8年」に。裁判長は「できるだけ市民の意思を尊重した」としながらも、「どこかで過去のデータを示さないと、同種事件で裁判所ごとに判決が変わってしまう」と指摘する。

量刑については正直言って素人には難しいと思いました(参照)。
国民の感覚を反映といっても、人生で1回しか行わない量刑を、法定刑の幅の中で決めろと言われても、一般の相場がないと自分の価値観との比較にしかならなくなります。
特に日本の法定刑は幅が広いので、そもそも殺人に懲役5年相当のものと死刑相当のものがある、ということ自体「市民感覚」(少なくとも私の感覚)からはずれていると思います。
アメリカのように構成要件を細かく分けて、それぞれに範囲の狭い法定刑を定めるような方式でないと混乱しそうな感じがします。


最近マスコミ報道でもあまり話題にならないのですが、このままいきなり「裁判員に選ばれました」と言われるようなことにはならないことを願います。

 

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まとめ (模擬裁判体験記 20(完))

2007-12-25 | 裁判員制度
最後に裁判所地下の食堂で、模擬裁判の関係者(裁判所、検察官、弁護士)合同での懇談会がありました。

皆さんが簡単な自己紹介と感想を述べられ、あとは懇談。

弁護人側はそれぞれ別の事務所に所属する弁護士がチームを組んでいたとのことでした。主任弁護士は元検察官の方だそうです。
感想で「皆さん忙しい中で準備する時間がなく」という発言が聞かれました。
特に最終弁論は直前に議論して内容を変更したのだとか。
そのへんが資料の練れ具合で検察側のほうが優れていたように見えた原因だったのかもしれません。

事前に読んだ記事(参照)などでは検察官が「調書主義」を維持するのではないか、という懸念がみられましたが、今回は模擬裁判ということもあってか、そんなことはありませんでした。
かえって検察官のほうが原則に忠実で、プレゼンテーションの技術についても工夫をしていたようにも思えます。


考えてみると、刑事弁護というのは経済事件とか暴力団組長のような被告人が金持ちの場合以外はあまりお金にはならないので、専門の弁護士というのは少ないのかもしれません。
(先の弁護士の「皆さん忙しい中で準備する時間がなく」という発言を聞いて、裁判員制度についても弁護士会としていろいろ発言はするものの結局本業の民事事件に時間を取られるので、実態は検察官OBなどの刑事を比較的得意としている一部の人に頼っているという感じで、選挙に強い小沢一郎頼りの民主党と似たようなものかな、という印象を持ってしまいました。)
そうだとすると、専門特化している検察官のほうが人的資源や経験上有利になるのは否めないのかもしれません。


********************

ということで、長々と続いた模擬裁判のシリーズもどうにか年内で終えることができました。
最後に裁判員制度についての意見と感想を少し。

1.量刑まで裁判員が行うのは難しいのではないか

量刑の評議のところでもふれましたが(参照)相場がわからない中で議論をするのはかなり難しいです。逆に相場を提示されてしまっては裁判員制度の意味がないのかもしれませんが、刑事裁判システムにおける量刑全体とのバランスというのも重要なように思います。

また、もっと素朴に言って、目の前の人間に刑を宣告することへの抵抗というのはかなりあると思います。
特に死刑判決というのは相当プレッシャーになると思います(法務大臣が執行を嫌がるくらいですから。)。
また逆に、マスコミ報道が先行した事件など場合によっては厳罰化にふれることもあるかもしれません。

量刑には経験が大きな要素なのではないかと思いました。


2.プレゼンテーションについて

裁判員は何の訓練もなくいきなり実戦に放り込まれるので、何をどういう順番で聞いて理解すればいいのか自体がよくわかりません。

なので、裁判官からは手続きの事前の説明を詳しくしてもらった方がいいと思います。全体の流れ、それぞれの手続きの意味合い、それぞれの手続きにおける論点と判断すべき内容について、最初だけでなくそれぞれの手続きの直前にも説明してもらった方がわかりやすいと思います。

検察官と弁護人も、何を主張したいか、どこを聞いて欲しいかをメリハリをつけて(必要に応じて何度も繰り返す等して)説明したほうがいいと思います。
スライドを見て話を聞きながらメモをとるという作業を集中力を維持しながら続けるのはかなり難しいです。
できればメモをとらず、手元の書類も見ずに、しかし重要なことは記憶に残る、というような説明ができると理想かと思います。
その意味ではスライドなどを使わずに、丁寧な書面を配ってそれを見てもらいながら説明してもらった方がわかりやすいと思います。
(少なくともプレゼンを充実させるためにOffice2007にバージョンアップする必要は全くないと思います。)

多分期日前準備手続きで争点を整理してしまっているがために、逆に裁判官・検察官・弁護人と裁判員の間での事案への理解度のギャップがより大きくなりがちなのかもしれません。
プレゼンテーションはできばえの美しさでなくユーザー・フレンドリーなことが重要だと思います。


3.自分が被告人になってしまったら

今回思ったのは、映画と違って犯行自体を証拠や証言から完全に再現するのは不可能だ、ということです。
なので万が一自分は何もやっていないのに誤認逮捕された場合は、間違っても罪を認めるべきではありません。
実際にやっていないのであれば決定的な証拠は出るはずもなく、本人が自分に不利な供述をしなければ、起訴までされることはないんじゃないかと思います(いわゆる「国策捜査」のターゲットになったのならそうもいかないかもしれませんが、そういう人ならそれなりの防御装置を持っているでしょうし。)。

また、実際に犯罪を犯してしまった場合には、弁護士に罪を軽くするためのできるだけの努力をお願いすることになります。
しかし「何があっても有能な弁護士が無罪にしてくれる」というような映画の世界は現実的ではないです。
そもそも奇跡をもたらすような有能な弁護士がいたとしてもそういう人を探し出すのは難しいでしょう。また、刑事事件については検察官はフルタイムで従事し日々研鑽をつんでいますが、おそらく弁護士で刑事事件にフルタイムで従事している人はそう多くなく、もともと同じ司法試験を通っていて能力についてもさほど違わないのだとしたら、「相手の意表をついて一発逆転」とか「黒を白と言いくるめる」などというのは普通に考えれば期待すべきではありません。
先日のDNA鑑定の信憑性を覆したイギリスの判決も、被告人がIRAの活動家なので多分きっちりとした弁護団が真剣に取り組んだからだと思います。
たとえば国選弁護士がそこまでやってくれるかと言えば、正直言って期待できないでしょう(それも無理もないと思いますが。)。

もっとも一度弁護を依頼した以上は、弁護活動が有効に機能するように協力したほうがいいのは当然だと思います(どうすればよりいい結果が出やすいのか-または大した違いがないのか-は経験がないのでわかりませんが。)。

さらに裁判員制度ではやはり印象が影響することは否定できないと思いますので、できるだけ真摯に反省し謙虚な姿勢で臨んだほうがいいと思います。
そのほうが弁護士も情状酌量を主張しやすいでしょうから。
実際、思ってもいないのに縁起をしたら見抜かれてしまうのかもしれませんから、本当に真摯に反省することが必要だと思います。



なので、当たり前ですが

  犯罪は起こさないのが一番

です。


刑事事件で裁判所に行くのであれば、裁判員として行くほうが百万倍ましです。



***********************


最初はブログネタに格好、などと思っていたのですが、体験記として書き始めると長くなってしまい、忘年会シーズンに突入したこともあり途中で放り投げたくなる誘惑に何度も駆られましたが、無事年内に終わりまでたどりつくことができました。

ご愛読いいただいた皆様、ありがとうございました。

あまり興味を持てなかった皆様、また、いつもどおりのヘタレなエントリに戻りますので、引き続きご愛顧お願い申し上げます。


(おわり)
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評議 その4 (模擬裁判体験記19)

2007-12-23 | 裁判員制度

休憩後は量刑です。
検察官の求刑は「懲役6年から9年の間」という幅を持ったものでした。

最初に裁判長から法定刑の説明があります。

殺人罪の法定刑は「死刑又は無期若しくは五年以上(上限は30年)の懲役」です。
未遂罪は減軽といって刑を1/2にすることができ、また情状酌量による減軽も同様です。
これで何がちがってくるかというと、3年以下の懲役であれば執行猶予をつけることが可能になります。
また、今回銃刀不法所持による銃刀法違反(最大1年半の懲役)もあります。
しかしこれが加わる効果は法定刑の上限が上がることで、今回の求刑はそもそも殺人罪の法的刑の範囲内なので(刃物を持っていたということが考慮の要素にはなるものの)懲役の年数計算において形式的には考えなくていいことになります。

つまり、殺人未遂の場合、理論的な下限は[懲役5年×1/2×1/2=1年3ヶ月+執行猶予]になります。

<参考:刑法>

第百九十九条 (殺人)
 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。

第二百三条  (未遂罪)
 第百九十九条及び前条の罪の未遂は、罰する。

第四十三条 (未遂減免) 
 犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。 

第四十四条  (未遂罪)
未遂を罰する場合は、各本条で定める。 

第六十六条 (酌量減軽)
 犯罪の情状に酌量すベきものがあるときは、その刑を減軽することができる。 

第六十八条  (法律上の減軽の方法)
 法律上刑を減軽すべき一個又は二個以上の事由があるときは、次の例による。

一  死刑を減軽するときは、無期の懲役若しくは禁錮又は十年以上の懲役若しくは禁錮とする。
二  無期の懲役又は禁錮を減軽するときは、七年以上の有期の懲役又は禁錮とする。
三  有期の懲役又は禁錮を減軽するときは、その長期及び短期の二分の一を減ずる。
四  罰金を減軽するときは、その多額及び寡額の二分の一を減ずる。
五  拘留を減軽するときは、その長期の二分の一を減ずる。
六  科料を減軽するときは、その多額の二分の一を減ずる。 

 第七十一条 (酌量減軽の方法)
 酌量減軽をするときも、第六十八条及び前条の例による。 

第二十五条  (執行猶予)
 次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その執行を猶予することができる。

一  前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二  前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者

2  前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。


といわれたものの、そもそも量刑の「相場」などまったくわからないですし、逆に今までの相場をあてはめるのでは裁判員制度の意味がないのかもしれません。

ここは裁判長も粘り強く(半分は興味しんしんで?)議論を見守ります。


そもそも検察官の求刑自体が相場に沿ったものなのかもわかりません。
商談なら「若干のフトコロを見て求刑の2割引くらいで」などという考えもできるのでしょうが、そういうわけにもいきません。

といういことで、検察官の主張の根拠と弁護側の主張の根拠を比べることに。

<検察側>
・ 被害者は動脈を損傷し4.5Lもの輸血を必要とし、まさに生死の境をさまよった。
・ 被害者としても職を失い、体調も優れない。厳しく罰して欲しいといっている。

<弁護側>
・ 被害者は経過も良好で既に退院している。
・ いままでまじめに働いていた被告人がここで実刑になると社会復帰の道は現実的に閉ざされる。社会の中で更生をさせるべき。


当初の議論では、被告人に同情的な意見が多く出ました。
ひとつは目の前の人間を刑務所送りにする、ということへの抵抗がある(少なくとも私はそうでした)のと、特に被告人役の人が非常にいいキャラクターで、証言席でしょんぼりと立って訥々と話す姿は裁判員の同情をひきました。
一方で被害者役の人はけっこう若く、被害者の感情というのがあまりリアリティをもって伝わって来なかった部分もあります。

このへん正直言って見た目の印象というのは大きいと思います。
今になって思えば、配役が逆だったら当初から被告人に厳しかったかもしれません。
また、被害者の証言で、「刺された傷跡がまだ痛むんです」などとシャツをまくって傷跡を見せられたら印象も大きく違ったように思います(でもそういう「演出」っぽいことはルール違反なのでしょうか?)。

そうはいっても、あまり被告人への同情に傾きすぎるとちょっと行きすぎでは、と思うもので、やはり人を刺しているわけで、「いい人だから」「かわいそうだから」という理由で執行猶予、というのもどうなんでしょう、という意見が出だしました。
このへんは大勢で議論することのメリットでしょう。

つぎに、被害者にも落ち度がなかったのか-被害者も包丁を持ち出しているし、どっちもどっちだったのでは?という指摘。
しかし、志村は包丁は抜いたもののタオルを巻いたままだったし、被告人も志村が包丁を抜いた記憶がない。少なくとも防御行動とか包丁を持った同士の喧嘩ということではない(このへんは殺意の議論の蒸し返し風な感じになってしまいました)ので、被告人の行為だけを評価すべきでは、という反論がでました。

更に被告人は刑務所に入ったら更生するのか。いや、それは刑務所や個人の問題で、社会全体としてはやはり実刑は意味がある。と刑事政策的な議論にまで話が広がってきます。

予定の判決宣告の時間が近づいても一向にまとまる気配が見えません。

そこで裁判長が

実は個人的には評議が結論にまで達しない可能性があると思っていました。今回は模擬裁判なので、評議をギリギリ時間まで進めたうえで、判決宣告なし、と言う形で終わってもいいかなと思っています。

と救いの手を。
評議の内容はビデオで法廷の傍聴席に中継されているので、結論でなく裁判員がどういう考えをするかのほうが重要と考えてのことのようです。


だんだん議論は執行猶予をつけるか、つけないか-懲役3年か4年か-というあたりに修練してきました。

一応時間切れの直前に裁判員で採決をしたところ、4対2で3年・執行猶予付き派が多数を占めました(僕は4年・実刑派でした)。


*********************

このあと関係者が待ち構えている法廷に。

議論のあらましと結論に至らなかったことを裁判長から説明したあと、意見交換。
司会者の人が質問をし、裁判員が順に答える、という風に進みます。

今度はこちらかまな板の上の鯉になります。

私は、スクリーンの映写と手元資料と発言のバランスが悪く、集中しずらかったこと、全体の流れがよくわからなかったので、最初から全力で集中すると肝心のところで集中がとぎれそうになってしまったことなどを話しました。

意見交換会はかれこれ1時間くらい続き、けっこう疲れました。

********************

意見交換会が終わって評議室に。

裁判長から、「皆様おつかれさまでした」とねぎらいの言葉をかけられました。
そして、参考までに、と最近の同様の事件の量刑の結果をまとめたものが配られました。
刃物で人を刺して重傷を負わせた事件で、大体懲役4~6年(ということは実刑)というのが相場だそうです。

では、これが配られたら評議が効率的に進むのかというと、そうも限らないと思います。

僕がこの表を見て思ったのは、それが同種の事件の相場かもしれないが、なぜその相場が形成されたのかがわからない、ということでした。
つまり、同種の事件でこれくらい、というのでなく、より思い罪やより軽い罪とのバランスで相場が形成されているのではないか、ということです。
たとえば人を刃物で刺して重傷を負わせて懲役3年の執行猶予となってしまうと、殺人未遂より法定刑の軽い犯罪(傷害とか窃盗とか覚せい剤取締法違反)の刑が軽すぎることになるのではないか、またはそれを量刑で逆転させるための事情というのを考える必要があるのではないか、ということです。

そのへんの情報をどこまで裁判員に事前に入れるか、逆にそのことが裁判員を誘導してしまい、裁判員制度を導入した意図と反してしまうのではないか、というあたりは難しいところだと思います。


(つづく)

 

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より道 (模擬裁判体験記 おまけ)

2007-12-22 | 裁判員制度

模擬裁判の話はようやく終わりが見えてきました。
シリーズ物は覚悟が必要だ、ということを学びました。

さて、今回はちょっと寄り道。

今朝の「世界のニュース」でイギリスの爆弾テロ事件の裁判でDNA鑑定の証拠能力が否定された、というニュースが流れていました。

DNA test halted after Omagh case
(Friday, 21 December 2007, 18:14 GMT BBC News)

Police have suspended the use of a controversial DNA technique following the Omagh bomb verdict.
Earlier, the Crown Prosecution Service said it would review live prosecutions in England and Wales using Low Copy Number (LCN) DNA testing.

Omah Bombというのは1998年にアイルランドで起きて大量の一般市民が巻き添えになった有名な爆弾事件だそうです。
今回の裁判で犯人特定の決め手になったのは「LCN」という方法で、ごく微量のDNAを複製・増殖させ犯人のDNAを復元する方法のようですが、この増殖・復元の過程に問題があり、もとのDNAと一致しない可能性がある、ということのようです。


これで思ったのは、裁判員制度でこんなのにあたったら大変だろうな、ということでした。

また逆に、専門知識を持った裁判員がいた場合、その人の知識を用いることがいいのでしょうか。
その裁判員の知識が弁護側か検察側の主張・立証の不十分な点を補強するようなものであった場合、証拠の後だし(横だし?)のようなことにならないでしょうか。
また、その裁判員が製薬メーカーなどその技術に利害関係を持つ人である場合、途中で排除することになるのでしょうか(でも黙っていたらわからないですよね)

裁判員制度のコンセプトである「市民の意見の反映」というなかに、市民の専門的知見、というのも含まれるということなのでしょうか。
それとも通常一般人としての判断が期待されているのでしょうか。


実は今回の模擬裁判でも、「殺意の有無」酔って激高したとはいえ包丁まで持ち出すか?という疑問に、元居酒屋経営の女性が、酔っ払いは気が大きくなるもので、すぐに「殺してやる」とか言って包丁を手に持とうとするので喧嘩が始まると必ず包丁は隠していた、という話をされ、なるほどと一同感心したようなこともありました。


各論になるといろいろ課題が出てきそうですね。

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評議 その2 (模擬裁判体験記17)

2007-12-19 | 裁判員制度

午後も評議のつづきです。

まずは論点のひとつ「刺突行為の有無」(=刺したのか刺さったのか)に関して証拠からどのような判断ができるのかについて検討します。


被害者である志村証人は「被告人が刺した」と明言しています。
一方弁護側は「もみ合いの中で偶然刺さった」と主張しています。
その理由として弁護側は、①傷が浅いこと②まっすぐに入っていないことを主張しています。

※この「まっすぐ入っていない」というのは最終弁論で弁護側が言い出したことで、被害者の断面図から傷を説明する図の提示はルール違反だったそうですが、この論点自体は排除して考えろ、という指示はありませんでした。証拠の提示方法がルール違反なだけで、主張をすること自体は適法、ということなのでしょうか。

裁判員の意見としては

・ 「すぐ刺した」というが志村が加東の部屋を出てから加東が部屋を出るまで2,3分かかったのだから、それなりのやり取りはあったのではないか。
・ 2,3分というのは本人の印象なのであまり厳密に考える必要はないのでは。
・ 「もみあい」というのが具体的にどういうことを言うのかわからない(単なる言葉のあやのような感じもする)。
・ 志村証言でも1mくらいの距離があったといい、加東証言や通行人の証言でも被告人が志村の肩を押さえていた、といっており、抱き合うような形ではなく距離があったので、やはり「刺す」という積極的な行為はあったのではないか。
・少なくとも志村は抜き身の包丁を持った被告人ともみ合ったり(=自ら刃物に体を寄せる)するだろうか。
・傷の浅さは逆に距離があったことの証左では?
・志村は被告人の右手を押さえ、助けを呼んでいる(これは加東も聞いている。)

なんとなく被告人役の男性がかなりいい味を出していたのが印象に残り、若干成績は応じて利益分配がなされるかもしれません。
議論がひとしきり出た後で、裁判長がまとめます。  

事実は細部までは再現できないので提示された証拠の中から何が言えるだろう、と考えて判断してください。

というようなことを言われます。

ということで、被告人が積極的に刺したかについてそこで裁判員と裁判官の意見を確認した結果、「偶然刺さった」のではなく「刺した」という意見に全員が一致しました。


次に殺意の有無について。
裁判長から配られたレジュメをもとに簡単な説明があります。

殺意の有無で殺人未遂罪か傷害罪かがわかれる。ただし殺意にも強い殺意(相手を殺してやろうという明確な意思)と弱い殺意(相手が死んでしまうかもしれないけどそれでもかまわないという意思)があり、弱い殺意でも「殺意あり」ということになる。
ここについてはいろいろな意見が出、また私も含めてそれぞれの意見が二転三転しました。

そもそも裁判員全員「『相手が死んでしまうかもしれない』という程度の行為」を見たりした経験がないので、どのレベルの行為が「殺意あり」というのかいきなり聞かれても判断に困る、というのが正直なところだと思います。 

さらにその後

・「志村を殺す」という発言の重さ、逆に興奮状態で口走ったともいえないか。
・加東が駆けつけたとき、加害行為は止めていた。興奮して刺してしまった、ということはないか。
(興奮していれば殺意がないのか?とも思ったのですが、そこは深く突っ込みませんでした)
・しかし、被告人は血を流している志村を手当てしようともしていなかった。
・深く刺さっていないことをどう考えるか。振りかぶってとか踏み込んでではない。
・しかし包丁を握る手には力が入っており、手をはがすのに大変だった。

などという議論がでたあと、誰かが「志村が出血多量で死んでいたとしたらどうなんでしょうね」とするどい疑問を呈します。
そうすると志村は証言できないわけでまさに「死人に口なし」になってしまう、というのもおかしな話であります。


これをうけて裁判長がまた解説します。
被告人と志村の間に実際に何が起こったのか、どう考えていたのかについては完全には解明はできない。その解明できない部分が検察側の主張、それが立脚している志村証言に疑問を抱かせるかを判断していただくことになります。

そこで皆で志村証言をおさらいしたうえで(繰り返しになるので省略)、殺意の有無を議論することに。
意見としては

・2回刺した、という点で少なくとも弱い殺意はあったのではないか。
・「外に出ろ」といってすぐに包丁を取り出したあたりからも殺意は感じられる。
・いや、酔っ払いは気が大きくなるもので、すぐに「殺してやる」とか包丁を手に持とうとする(元居酒屋経営の女性談。「喧嘩が始まると必ず包丁は隠していた」という実体験をふまえ非常に説得力ありました。)
・殺すために呼び出したのなら「何の用だ」といわれてカッとなったりはしないのでは?
・いや、かっとしてそこで殺意がわいたということもある。

などいろいろ出たのですが結局ひとつにはまとまらず、多数決をすることになりました。
結果は「殺意あり」が多数になりました。


個人的にはこのあたりの判断に迷いました。刃物で相手を刺す(切る)という行為をすることで当然に殺人があると認定されるのか(それもちょっと厳しすぎるような)、逆に相手を刺しても殺意がないと認定される場合はどのような場合か、というところは何のガイドラインもなく判断にまかされています。

アメリカのように構成要件を細分化して、たとえば刃物を持って相手に切りつけたら第○級故殺、という風に刑法に定められていれば楽なのでしょうが、殺意の有無を常識で判断しろ、と言われてもそもそも本気で人を殺そうと思ったこともなく、また刃物でどこをどう刺すなり切るなりすれば人は死ぬかという経験もない中で殺意の有無を認定しろというのはけっこう難易度が高いと思います。

逆に上に出たように被害者が死んでいた場合は、殺意を認定しやすい心理状態になってしまうのではないかとちょっと心配です。
 

(つづく)

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評議 その1 (模擬裁判体験記16)

2007-12-14 | 裁判員制度
弁護側の最終弁論が思いのほか長かったので午前中の評議の時間は1時間弱くらいしか残されていませんでした。

検察側は論告において証言の信憑性については特に言及しませんでしたが、弁護側は志村証言の信憑性について疑義を呈しました。まずは証言をもとにどのような事実があったのかから議論することに。

最初に検察側弁護側双方にあまり議論のなかった加東証言ですが、裁判員の間ではけっこう議論になりました。

原因は、被告人の「志村を殺す」云々の部分だけが妙に細かいところにあったようです。
最初志村に止めに入ってくれと言われたのに放っておいて、でも心配になって外に出たこと、30mくらいの距離なのに駆けつけるまでは現場のことを見ていないという一方で、被告人の発言だけは鮮明に覚えているといいます。
その辺から、加東は野次馬的にかかわっていたのではないか、事情聴取を受ける中で自分なりにストーリーを組み立てているのではないか、などという疑問が呈されました。

逆に、加東は被告人とも志村とも親しく、どちらかに偏っている(味方している)という感じではない。加東が被告人の発言を「作る」までの理由はないのではないか。
「志村を殺す」という発言はインパクトがあるので鮮明に覚えていても不思議ではない。
被告人は加東証言のままの発言をしたわけではないかもしれないが、似たようなことを言ったのではないか、という意見もでました。

さらに、通行人の証言でも、被告人は志村の胸倉をつかんで組み合っていた、ということだし、そこに加東が(逆に野次馬ならばより)何も訊かずに割ってはいることもないのではないか。
すくなくとも「何をするんだ」という問いかけはして、それに対して被告人も何か答えたはず。そうでなければ普通は怖くて被告人の持っている包丁を引きはがすこともできないだろう、などという議論も出ました。

結局加東証言自体は、「殺してやる」と言ったかはともかく、被告人を止めた加東に対し被告人も何らかの発言をした(それは二番目の論点である心神耗弱=事理弁識能力を欠いているとまではいえない、というほうにもつながっていきます)というあたりのコンセンサスを得たところで昼休みに入りました。

午前中の評議は時間が少なかったこともあり、議論の仕方の予行演習という感じでした。
しかし、裁判員は全員かなり活発に発言し、しかも同じ証言を聞いていてもけっこう印象が異なるということに、改めて感心しました。

また、こういう風に一つ一つつめていったら、評議がまとまるまでにどれくらい時間がかかるのだろう、と少し不安にもなりました。


(つづく)
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論告求刑・最終弁論 (模擬裁判体験記15)

2007-12-13 | 裁判員制度
2日目はちょっと遅く9時45分集合。

裁判所のロビーには傍聴マニアと思しき人々が今日開催される期日の一覧表の前に人だかりをつくっていました。
なぜか20代後半(推定)の女性ばかりでしたが、サークルでもあるのでしょうか。

10時からの開廷の前に簡単な感想の交換。

裁判官からは、犯行当時については志村証言・加藤証言の信憑性が争点になるので論告・最終弁論ではそれを争うことになるだろう、という示唆がなされました。

また、犯行は過去の事実なので、事実の細部までわかることは刑事事件では少ないが、その中で判断していく必要がある。
証拠や証言をあわせても細かい部分に1,2穴があくので「この辺はこう判断していいだろう」ということを積み重ねて、最後に全体について判断していく、というプロセスを取ることになる、という話がありました。

確かにすべて細部までつまびらかにならないと有罪にならない、というのでは犯罪者を有罪にするのは不可能でしょうし、そこと「合理的な疑いの余地」の有無の間の判断が難しそうだな、と思いました。
本件は被告人が持っていた包丁で被害者を刺したこと自体は争いがない(殺意があったか、刺さったのかは争いがあるが)のでまだいいですが、事実自体に争いがある場合は大変だと思いました。


法廷に入ると、今回も傍聴席は満員です。志村証人、加藤証人役の人も傍聴席にいます。

今回もスクリーンが2つ立っています。

最初は検察官の論告求刑

例によって資料配布+スライド映写です。
検察官の主張は冒頭陳述とほぼ同じです。
そして
・殺意の有無は具体的な行動から判断するものであり、被告人は被害者を2度も刺し、ひとつは動脈にも達していることから、明らかに殺意があったといえる。
・被告人は普段から酒が強く、当日の酒量も多くない。また犯行後の呼気検査で検出されたアルコール量も心神耗弱状態といえるほどではない。
として殺人未遂の成立を主張します。

そして、求刑として、殺人罪の法定刑は「死刑または無期もしくは5年以上の懲役」(未遂罪は減軽することができる)であり、今回は未遂に終わったものの包丁を持ち出したこと、被害者は4.5Lもの輸血を必要とするなど生死の境をさまよい、結果加療3週間もの重傷を負ったことなどを勘案し、「懲役6年から9年の間」の刑を求めました。

幅を持った求刑ができるとははじめて知りました(昔からできたのでしょうか?)。
でも、幅の下限ってあまり意味がないようにも思うのですが、幅を示すことで裁判員の議論のレンジを絞り込もうという工夫なのかもしれません。


つぎに弁護側の最終弁論

こちらも例によって細かめのレジュメが配られます。
「要旨」のほかに「台本」といってもいいくらいの資料も配られます。

最終弁論の中で弁護側は被害者志村のTシャツにあいた刃物の跡と、傷口の位置のズレを指摘し、正面から一気に刺したのではない、たまたま刺さったんだ、という主張をしました。
この中で、スライドに①Tシャツへの刃物の跡(正面からの図)②傷口(正面からの図)③刃物の跡と傷口の関係(横から見た図)を映写しました。
ここで検察側が何か異議を言おうとしたのですが、裁判長によると、①②は証拠として提出されたものだが③は今回いきなり出てきた図表で、厳密に言えばルール違反なのだそうです。(アングルを変えずに単純に合成したものならいいのかとも思ったのですが、そのへん細かく確認はしませんでした)
映画で見るアメリカの裁判だと、相手方がすぐ異議を述べて、裁判官が「異議を認めます。陪審員は今の発言はなかったこととするように」などというシーンをよく見るのですが、今回模擬裁判だからそのへん大目に見た、ということなのか日本の裁判制度自体そこまでうるさくないのか、そのへんはよくわかりませんでした。

弁護側は傷害罪の成立は認め(あまり正確ではないですが、包丁を持ちだして対峙したという時点で傷害罪は成立するようです)るものの心神耗弱による減軽を主張し、さらに被告人は深く反省していること、被害者は高齢でもあり、ここで実刑を受けると出所後の生活の基盤がなくなることなどを主張し、執行猶予を求めます。

ただ、被告人が高齢だとか再就職の道が閉ざされる、というのが、「やむにやまれず犯行に及んだ」というような事件ではない本件のような事案にも量刑の情状の考慮要素になるというのは、個人的にはどうもピンときませんでした。

しかも最終弁論にたった一番年長の弁護士は「台本」以上に熱弁をふるい、繰り返し、言い換えなどを多用して長々と話します。
当初の時間割り当ては検察側弁護側各30分で、検察側は時間を残して簡潔にどおり終わったのですが、弁護側は時間をはるかに超過して50分近く話していました。
正直この点だけでも、反証の論拠の薄い部分を言葉でカバーしよう、という印象的を持ってしまい、逆効果だったと思います。


これであとは評議を残すのみとなりました。

(つづく)
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中間評議 (模擬裁判体験記14)

2007-12-10 | 裁判員制度
初日のプログラムがひととおり終わり、おつかれさまでした、というところで、裁判長から「ちょっとお時間をいただいて今までのおさらいをしたいと思います」とのひとこと。

明日はほぼ丸1日評議が行われるので、頭の整理をしておきましょう、と。

最初に評議に当たっての心構えとして「裁判官の合議では『乗り降り自由』という言葉があります。自分の意見もおかしいと思ったらいつ修正・変更してもいいし、他人の意見に対しても賛否が変わってもかまいません。何が正しいと思うかを中心に考えてください。」というお話をいただく。
確かに仕事でも「誰が正しい」モードになると為にする議論になってしまいがちなので、これは大事だと思います。

まずは大きな流れだけ整理しておきましょう、ということで、犯行前後の事実関係について皆で復習しながら、若い裁判官が被告人、志村、加東の3人の証言を3段に並べてホワイトボードに書いていきます。


志村が加東の部屋に来て「被告人に呼び出された、けんかになるかもしれないので止めに入ってくれ」といわれる。被告人は高架下で既に待っていた。(加東証言)

寮からでてきた志村が被告人に向かい「何の用だ」といい、被告人はむかついた。(被告人証言)

加東は2,3分後に心配になって寮を出た。(加東証言)

被告人と志村は1mくらいの距離に近づき、被告人は包丁を取り出しいきなり志村の左胸を刺した。志村は被告人の右腕を押さえ「加東さん来てくれ、助けてくれ」と叫ぶが、更に右胸を刺され、血が吹き出てきた。そのあとは力が抜けて覚えていない。自分の包丁をいつ抜いたかも覚えていない。(志村証言)
もみ合って大声を上げた記憶はあるが覚えていない(被告人証言)

加東が寮を出たところで叫び声がしたので駆けつける。「木村(=被告人)、何をするんだ」「志村を刺した、止めないでくれ、志村を殺す、俺はどうなってもかまわない」被告人は志村の胸倉をつかんで、志村は自分の胸を押さえていた。ただし、追加の加害行為をする様子はなかった。(加東証言)

加東は被告人の手から包丁を引き離した。包丁を持つ手には相当力が入っていた。(加東証言)
加東が来て手を押さえられた。(被告人証言、ここではじめて記憶が戻る)

志村を横にし、被告人から引き離した。被告人は逃走する様子はなかった。そのうちに警察が来た(加東証言)
※警察は通行人が呼んだ。


とまあ、こんなところですね。
加害行為に殺意があったかなどの争点や論点は、明日の論告求刑と最終弁論の後に十分時間をとってありますのでそこで議論しましょう。
お疲れ様でした。


ということで1日目は解散しました。


さすがに丸一日、慣れない話を集中して聞いていたので疲れました。
運動した後の筋肉痛同様、脳味噌の普段と違う部分を使った感じがします。

帰り道、『七人の侍』のDVDを借りようか(特に加東大介の役が気になって仕方がない)、とか、コンビニに寄って被告人が酩酊状態になったといわれる「缶入り水割り2本+缶チューハイ2本」を空腹状態で飲んでみようかなどという不埒な考えも頭をよぎったのですが、ちょっとそこまでの元気は残っていませんでした。

かわりに検察側弁護側両方から資料がいっぱい配られ、整理もできない状態だったので、とりあえず紙ファイルに順番に綴じたうえでインデックスをつけてみて(インデックスは評議室の事務用品になかったのですがあると便利だと思いました)、もう一度読み返してみました(少々お酒を飲みながら^^;)。
裁判員全員、家に帰ってからもいろいろ考えたそうで、特に元居酒屋経営の女性はなんと深夜2時までかけてそれぞれの証言についてメモに整理したそうです(本当にこの女性の姿勢には頭が下がりっぱなしでした)。

実際の裁判員制度では、資料を家に持ち帰ってはいけないのでしょうが、自分なりに資料を整理して頭も整理する時間がないと、翌日までの間、とてももやもやした気分になりそうです。


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被告人質問 (模擬裁判体験記13)

2007-12-07 | 裁判員制度
ようやく1日目最後の予定の被告人質問までたどり着きました。

被告人が証言台に立ちます。
最初は弁護側からの質問。

例によって質問事項をそのまま書いた詳細な書面が配られます。
でもそれをそのまま質問せずに、飛ばしたり詳しく訊いたりするので、かえって混乱してしまった感もあります。

質問内容は被告人が事件を起こした廃品回収業者で働くようになった頃からの話、志村さんとの昔からのつきあい、疎遠になった事情(被告人はよくわからない)というあたりから入ります。

そして当日の行動をまずは飲酒量を中心に質問するところから入ります。

仕事から帰ってきてから食事をせずに缶入りのウイスキー水割り(250ml)を2,3本飲んだあとに、飲みたりないのでコンビニに寄ったところ(そこで缶チューハイ(350ml)を2本飲んだ)志村さんが自分と別の友人と楽しそうに酒を飲んでいたことに腹を立てた心境などを語ります。

そして
・コンビニから帰ると、志村の部屋に行った。詳細何を話したかは細かくは覚えていないが、一度話をつけようと思った。
・包丁を持ち出したのは脅かしてやろうと思ったため。
・寮から出てきた志村さんは被告人に「何の用だ?」とぶっきらぼうに訊いたので、被告人は腹を立てたものの、そのときちょうど殺意があったとは言えない。
・また、被告人は志村さんを刺して傷つけてしまったが、最初から「殺してやろう」という意図は全くなかった。
・刺した瞬間のことは記憶がない。おそらくかなり酔っていたせいだろう。
・志村さんには申し訳ないことをしたと思っている。
・今回実刑になると廃品回収会社をクビになってしまう
と話しました。

弁護側の主張「普段より酒に酔っていた。犯行自体は詳しくは覚えていないが、殺す意思はなかった」ということをきちんと主張していました。


次は検察官の質問。
これもレジュメが配られます。
こちらは例によって簡潔な項目に分けて。
裁判ではなくて仕事のスタイルとしては、私は検察官の方が好感を持てます。
また、前に触れた判例時報の座談会の下馬評に反し「書面主義から口頭主義・直接主義に」というスタイルの変化を検察官の方がきちんと踏襲しているのが印象的でした。

質問内容は

・酩酊度合いについて
仕事が終わったあと居酒屋で飲んだ(16時頃)あと、一度寮に帰って、加東さんに豆腐の差し入れをし、そのあとなじみのホームレスに空き缶をあげに行った、という被告人の行動を確認します。最初の飲酒と二度目の飲酒の間に時間が開いていたこと、間にきちんと正気の行動を取っていたことを立証し世としています。

・コンビニから戻った後包丁を持ち出した心境
コンビニで知らない人と楽しげに酒を飲んでいる志村さんを見て不愉快に思ったこと。外に呼び出すときになぜ包丁を持ち出したか。
少なくともそのときに脅そうというつもりはあったんでしょう?という質問に対し被告人は「はい」と答えました。

・現場でのやり取り
刺したことを「覚えていない」というが本当か、弁護側の主張のように「もみ合いになって刺さった」というのならもみ合ったことは覚えているのか、と、ここのところは執拗に尋問します。
被告人も最後に「もみ合いになったような記憶はある」と認めるに至ります。

・加藤さんとのやりとり
加東証言を補強するような尋問内容です。

・現場に到着した警察官とのやりとり
ここにくると被告人の記憶がなぜか戻ります。


最後に裁判官・裁判員の質問

肝心のところだけ記憶がない、というところに質問が集中します。
かけつけた加東さんに「志村を殺す」と言ったことについても(加東さんがかけつけてきて止めに入ったこと自体)覚えていない、と言います。

証言内容自体は不自然なのですが(まあ、模擬裁判なのである程度は仕方ない部分もありますが)被告人役の受け答えからは訥々とした人柄がしのばれ、そんなに悪い人ではないのではないか、という印象を受けてしまいます。


ちょっといじわるな素人質問をしてみました。

「貴方は『刺したのを覚えていない』と言いますが、同時に『反省している』とも言ってます。覚えていない何について反省しているんですか?」

被告人は困った顔をして口ごもってしまいました。
傍聴席の弁護士と思しき人がのけぞってウケているのが見えます。

あとで評議室で休み時間に裁判長から聞いたところでは、この「反省」というのはお約束事で、完全否認の事件でない限りは情状を少しでも有利にしようと、必ずするものだそうです。

主張が認められなかったときの「予備的な反省」というのは、お約束事にしても妙な感じがしますが、考えてみれば妙に突っ張って有罪にされたときに心象が悪いのも不利ですよね。

こういうところにも「大人の世界」が顔を出すわけですが、皆が言うならあまりプラスの効果はないような感じもするように思いました。


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弁護側証拠調べ (模擬裁判体験記12)

2007-12-05 | 裁判員制度
休憩をはさんで弁護側(と検察側の残り)の証拠調べと本日最後の予定である被告人尋問に入ります。

その前に弁護側の証拠(「弁号証」といいます。)調べ。

1号証は被告人が被害者を刺した凶器の写真。
刃先から4cmに血痕があったことを示しています。
おそらく弁護人側は刃先から4cm「しか」刺さっていなかったと言いたいのだと思いますが、「刃先から4cm」の客観的評価がよくわからないので、とりあえず聞き置くと言う感じです。

2号証は同僚による被告人と被害者に関する証言。
「二人とも仲良かったしこんなことをする人には見えなかった」というお決まりの証言です。なんでこれが証拠になったのだろう?

3号証は現場を通りかかった会社員の証言。この人が救急車を呼びました。
会社員がとおりかかったとき、加東を含む3人がもみ合っていて、加東が被告人の包丁を持った手を押さえていた。
被告人は特に抵抗はしなかった。
志村が包丁を持っていたかどうかは気がつかなかった。
というのが証言の趣旨なのですが。ここで引っかかったのが、加東さんが上半身裸でパンツ姿だったということ。

先の証言のように心配になって寮を出た(しかも事件が起こったことを知ったのは寮を出たところだった)にしてはえらい慌てようのように思います。

個人的にはこの「パンツ一丁の加東さん」というのがどうも怪しい感じがしてしまいました。

しかも登場人物は『七人の侍』の役者から取った名前であることがここにきて効いてきます。



七人の侍の中で加東大介は左から四番目です。

拡大するとこんな人です



この、丸顔のずんぐりむっくりした男が、パンツ一丁で駆けつけたところから、『七人の侍』でふんどし一丁の上に簡単な具足をつけて、やっつけた野盗の前ではしゃぐシーンを連想してしまいました。
今思い返せば、そういうお調子者は三船敏郎演じる菊千代のキャラだったように思うのですが、「加東大介がパンツ一丁ではしゃいでいる」というのが妙に頭の中に刷り込まれてしまいました。
初日の帰り道、ずっと「はしゃいでいる加東大介」のイメージが頭から離れませんでした。

評議が翌日でよかったです(^^;


4号証は被害者を診察した医師の証言。
左胸は致命傷にはならないが、右胸を刺したときに動脈を損傷していたのでこちらは致命傷になりえた。
しかし被害者は順調に回復していて後遺症の可能性は無い。
(これも何で弁護側の証拠なのかよくわかりませんでした)

5号証は清掃作業会社の経営者の話。
被告人はまじめに働いていたが、実刑になったら解雇せざるを得ない、と言う話。
(これは泣き落としか?)

6号証は志村さんが持っていた包丁


つぎに(個人的には混乱したのですが)検察側の「乙号証」取調べ

被告人の供述調書や前科の紹介記録など。


実は正直いってこの前の休憩あたりでちょっと集中力が途切れてきました。
ペース配分をわからずに集中してきた反動でしょう。
しかも、被告人、被害者ともに酒に寄ったあげくに包丁を持ち出すし、最初に相談を受けた加東さんも酒を飲んでいて、ケンカをたしなめもせずに後から駆けつけてはしゃいでいるように思います。

要するに酒癖の悪い酔っ払い同士の諍いなわけです。

それに対して難関の司法試験を突破した優秀な裁判官、検察官、弁護士たちが真剣に役割を果たそうとし、裁判員もお勤めとはいいながら真剣に話をきかされます。


果たしてこの酔っ払いのケンカにそれほどのコストをかける意味があるのだろうか、という疑問がふと頭をよぎります。


前回の休憩のときにぽつりとそれの感想をもらしました。
「酔っ払い同士のケンカを裁くのにコストがかかりすぎるのでは?」

それに対して、元居酒屋経営のおばあさんは間髪をいれず言いました。
「こういうしちゃいけないことをした人は大小かかわらずきっちり裁かないといけないのよ。」


なにかにつけ費用対効果で考えがちな自分に対して、おばあさんの真っ当な正義感には頭が下がりました。


裁判員制度を導入する意味があるとしたら、僕のような小理屈の人間でなく、こういう人の感覚を反映させることなのかな、と深く反省しました。

ひょっとすると裁判員制度は「一般市民が人を正しく裁けるのか」という是非の問題以上に「人を裁く/人が裁かれることの意味を考える機会を国民に広く提供する」ということに意味があるのかもしれないな、とこのとき思いました。


(続く)


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証人尋問2/2 (模擬裁判体験記11)

2007-12-03 | 裁判員制度

引き続き同じ寮に住見込んでいて、事件当日現場に駆けつけた加東大介氏の証人尋問です。

これも検察側から供述調書が朗読され、そのあとあと尋がされますが、あわせてそれぞれの項目の見出しのようなレジュメが配られます。

まずは供述調書

・被告人は仕事はよくするしときどき豆腐などを差し入れてもらっているが酒を飲むと陰気になる性格。一方で被害者の志村さんは大雑把な性格だと思う。
・当日夕方も被告人が豆腐を差し入れてくれ、そのあと空き缶を集めているホームレスにあげるんだ、と出かけていった。そのときは素面に見えた。
・夜になり志村さんは上機嫌で帰ってきた。木村が帰ってくるとまもなく志村の部屋に行ったようで「外に出ろ」「テレビを見ている」「今でなければだめだ」などという声が聞こえた。
(その後現場の目撃については弁護側不同意のため朗読せず)
・かけつけると志村さんが出血していた。志村さんの手にはタオルを巻いた包丁が握られていた。被告人は道路の真ん中をうろうろしていた。

そして、不同意の部分を中心に証人尋問

・志村さんが加東さんの部屋に来て「木村(=被告人)に呼び出された。怒っているみたいだ。けんかになるかもしれないので止めに入ってくれ」といやそうだった。
・部屋の窓から外を見ると、高架下に被告人が立っていた。志村さんは「何かあったら頼む」といって部屋を出て行った。
・2,3分部屋で横になっていたが、心配になって寮の外に出た。そこですぐに「木村、何をするんだ、加東さん助けてくれ」という志村さんの叫び声が聞こえたので走っていった。
・現場(寮を出てから約30m)に着くと、被告人が志村さんの胸倉をつかみ、包丁を向けていた。志村さんのTシャツは真っ赤で、腹を押さえていた。

ここの部分は、やはり検察官の若い人を相手に位置関係や姿勢などを実演して再現します。
でも、正直いってあまりリアリティはなかったです。

・被告人に「何をしたんだ」と言うと「木村を刺した」と言ったので「包丁をよこせ」というと「加東さん、止めないでくれ、志村を殺す。俺はどうなってもかまわない」と言った。


ここでまた、裁判官・裁判員からの質問。
僕だけでなく他の裁判員も同じような疑問を持っていたらしく、今回はたくさん出ました。

・ケンカになりそうと思ったのに何で2,3分部屋にいたのか。またどうして外に出てみようと思ったのか。

ふと心配になったから。

・志村さんが部屋に来たときに被告人の場所を窓から見ていたのに、寮を出るときは窓から居場所を確かめずにいきなり寮の外へ出たのか。

そのとおり。

・寮を出たところでいきなり叫び声を聞いたと言うが、そのとき現場の方向では何が起きていたか。

現場の方は見なかった。駆けつける途中でも現場の方は見ていない。

・つかみ合っていたときに被告人の右手の包丁は見えたのに、同じ側にあったはずの志村さんの持っていた包丁には気がつかなかったのか。

そうだ。


実は後で聞いたところでは加東証言については弁護側も検察側も「木村を殺す」という発言以外は争点がないと思っていたらしく、そのため加東証人役も事前の準備をそれほど念入りにしていなかったそうです。
そこに予想外にいろいろ突っ込まれたので、なにしろ実際には経験してないことでもあり、証言に説得力がなくなってしまった感じがあります。

逆に裁判員の間では加東証言の信憑性を疑問視する意見も出ることになります。


つぎに弁護側の反対尋問
これもレジュメが配られます。これは質問内容が詳しく書いてあります。
全般的に弁護側の資料のほうが長めです。


・現場に駆けつけるまでの間に被告人が志村さんを包丁で刺したのを実際に見ましたか。

いいえ。

・現場に駆けつけてから被告人から包丁を取るまでの間に、被告人は志村さんを刺そうとしましたか。

いいえ。

・被告人は包丁を取られるときに抵抗しましたか。

いいえ。

・志村さんが以前傷害事件を起こしたことを知っていますか。

いいえ

ここについては、検察側から異議が出ました。裁判長から質問の趣旨を聞かれて弁護側は「証言の信憑性を」と(私には)よくわからない理由(なぜ加東証言の信憑性に影響があるのでしょう?)を言い、裁判長はこの質問1回だけ、と釘を刺されました。

・志村さんの包丁を見て、「おまえもこれで刺すつもりだったのか」と聞いたとき、無言で否定はしませんでしたね。

はい。


弁護側の反対尋問はちょっとストーリーを作りすぎ、という感じがしました。特に事前に手元資料を読むとその印象が強くなります。

そうはいいながら、どうも加東証言には不自然な印象を持ちました。


(つづく)

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証人尋問(1/2) (模擬裁判体験記10)

2007-11-30 | 裁判員制度

証人尋問は被害者の志村と目撃者の加東の二人です。
ほかに被告人質問(これは証人尋問とは言わないらしい)があります。

最初は志村証人。
手元にレジュメが配られます。

はじめに供述調書の朗読があります。
レジュメのタイトルに「同意部分」とあるので、弁護側と証拠とすることについて争いのない部分ということだと思います。

内容は会社での経歴や自分や被告人の仕事ぶり、二人のつきあいなどについて。
志村は木村とは仲がよかったが、木村は酒を飲むと陰気になる一方で自分も口が悪い。木村を遠ざけていた意図はなかったし被害にあう心当たりもないが、当日の言動などで気分を害してしまったかもしれない、などという背景事情が述べられます。


そして志村証人の登場

想定の年齢(60歳近く)とは全然違う、若い人が一応作業着を着て出てきます。(後で聞いたところによると裁判所の書記官だそうです。)。

最初は検察官からの尋問。

・しばらく被告人と疎遠になったあたりの事情

志村被告にはそういう気持ちはなかったが被告人は気にしているようだった

・事件当日コンビニで酒を飲んでいた相手と被告人に気づかなかった理由

特に仲がいい相手というわけではなかったし、そんなに盛り上がっていたわけではない。

・寮に戻ってからの出来事

TVを見ながら食事の支度をしていた。食事中に被告人が部屋に入ってきた。
被告人は強い口調で「話がある、外に出ろ」と言ったが、志村は時代劇を見ていたので「食事中だしドラマを見ている。話しならここで聞く」と断ったが被告人は目を吊り上げて「ここではだめだ、外に出ろ」と言って部屋を出た。
被告人はそのまま自分の部屋に戻り、それから外に出て行った(志村は部屋から様子をうかがっていた)。

志村は被告人が刃物を持ち出したのではないかと思い、自分も刃物を持っていけば対抗できるので争いにならないだろうと思い、包丁をタオルにくるんでズボンにはさんで出かけた。
今になって思えば出かけなければよかった。

・加東さんの部屋に寄る

包丁だけでは心もとないので加東さんに助けを求めた。加東は横になっていて「木村に呼び出されたけど」「行けば」「何かあったら来てくれ」「ああ、いいよ」とあまり真剣に受け止めてくれなかった。

・現場

被告人はガード下の街灯のところに立っていた。自分も怖かったので「何の話だ?」と強めに言うと、被告人はいきなり刃物を取り出し、タオルを取っていきなり左胸刺された。
被告人の右手をつかんで大声で加東に助けを求めたが、手をふりほどかれて右胸を刺された。
2回目に刺されたあと血が噴き出してきた感じがしてシャツを見ると血で真っ赤だった。そのあとは力が抜けてよく覚えていない。

この部分については、志村証人が検察官の一番若い人を相手に、どういう位置関係でどういう風に刺されたのかを実演しました。
裁判員の人数が多く横に広がっているので、全員が見れる位置を探すのにちょっと手間取りました。

検察官は弁護人からの反対尋問も想定してかいろんな角度から突っ込みます。

(検察官)「なぜ殺されると思ったのか」
(志村)「何も言わずにいきなり刺してきたうえに、2回目はかなり強く刺された」
(検察官)「あなたも包丁を持っていたが」(加東証言でも、タオルを巻いたままだが包丁を持っていた)
(志村)「いつ抜いたかは覚えていない」

最後は被害者の心情を聞きます。

入院を余儀なくされ、仕事もやめてしまった(もともと腰を痛めていたので廃品回収業はつらかったのもあるが)。今は生活保護を受けている。
自分は刺されるようなことはしていない。
どうか適正な処罰をして欲しい。


つぎに弁護側の反対尋問。
これもメモが配られます。

・過去に被告人が包丁を持ち出したようなことはなかったのに、今回相思った理由は何か。実は貴方も急に呼び出されて怒ったから包丁を持ち出したのでは?

このへん、かなり誘導的に尋問します。そして

・志村さんは3年前に包丁で人を刺して傷害罪で罰金30万円に処せられていますね。(これはメモになし)

ここで検察官から異議。裁判官が質問の趣旨を確認すると、弁護人は証人の証言の信憑性に対する疑義のため、といい、裁判官は「あまり長くならないように」と許可しました。
このへん、一瞬だけ映画やドラマの法廷物風でした。
弁護人は続けます。

・志村さんは今度は罰金ではすまないと思い、自分が包丁を持ち出したことを警察に言えなかったのではないか?

これらに対し、志村さんは「そんなことはない」と答えます。実際にそうでもそうでなくてもそれしか答えられないだろうな、という感じではあります。
ここでは、弁護人は自分の依頼者を守るためなら前科のある人への偏見を利用するような主張をするんだなぁ、とちょいと複雑な心境になりました。

・外に出る前に加東さんに声をかけたのはなぜか。殺意を感じたのならなぜ外についていったのか。被告人が包丁を出したのに逃げなかったのはなぜか。
・事件当日の警察官の調書では最初右胸を刺されて次に左胸ということだったのが、検察官の調書では左、右の順番になっているのはなぜか。
(←事件当日は動転していたが考え直してみると左→右だった)
・志村さんは包丁をいつ取り出したのか。
(←覚えていない)


弁護人は、志村さんも対決する意図があって包丁を持ち出して、もみ合っているうちに刺さったのではないか、という自分たちの主張を裏付けるべく反対尋問をしています。
また、少なくとも志村証言は細かくつめると矛盾があり、実はあまり覚えていないのではないか、自ら包丁を持ち出したことに焦点が当たると自分も困るので、ストーリーを作っているのではないか、というトーンで反対尋問をしました。


つぎに裁判官・裁判員の尋問

裁判官からは、志村さんの当日の飲酒量と普段の飲酒量について
(←普段とそんなに変わらない)

つぎに裁判員からも質問は?といわれて、皆ためらいました。
その中で「志村さんの利き腕は?」という質問が。
答えは右、だったのですが、これは私も疑問に思っていたところです。
証人尋問で実演したところで右手で右の尻のところに包丁を隠していた一方で、加東証言ではかけつけたときに包丁は左手にありました。さらに、実演では1回目に刺された後に被告人の右手を押さえたのは自分の右手でした。そうすると、いつどうやって左手に包丁を持つことができたのだろう、という疑問が浮かんだのです。

でも実際酔っていた上に興奮もあるので、皆正確には覚えていないでしょうし、志村さんも刃物で対抗した、という証拠もない(被告人は傷を負っていないし、包丁にはタオルが巻いたままだった)ので、被告人が志村を刺した(刺さったのではない)というのが事実に近いようにも思えます。
この辺「名探偵コナン」の謎解きじゃないんだからあまり細部のつじつまにこだわってもいけないのかなあ、などとも考えました。

その他2、3の質問があって、最初の証人尋問は終了しました。

(つづく)

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昼休み (模擬裁判体験記9)

2007-11-29 | 裁判員制度

やっと昼休みです。

エレベーターに乗って刑事第○部の階の会議室へ。

それにしても裁判所のエレベーターはなかなかきません。
ぱっと見築30年くらいの建物なので、エレベーターが群管理されていないのでしょう。
実は朝裁判官も「エレベーターが混んでいて」とちょっと遅れて登場しました。
裁判官は専用のエレベーター(それと被告人の移送にも使うらしい)があるようですが、やはり法廷が一斉に始まるので混むようです。


会議室には仕出し弁当が用意されています。

会議室は建物の北側で、皇居が一望できるとてもいいロケーションです。



手前の煉瓦造りの建物が法務省です。

お弁当もなかなか豪華(推定1500円くらい?)です。

言い忘れましたが、今回の裁判員モニターは日当が1日あたり5000円、計10,000円出ます。

裁判所のHPのQ&Aによると実際の裁判員は以下のとおりです。

● 裁判員(候補者)になったら,日当や交通費はもらえますか。もらえるとしたら,いくらですか。

裁判所に来ていただく日の日当や交通費のほか,裁判所から家が遠いなどの理由で宿泊しなければならない場合は宿泊費が支払われます。日当の具体的な金額は,裁判員候補者の方は,1日あたり8000円以内,裁判員及び補充裁判員の方は,1日あたり1万円以内となります。また,宿泊費については,宿泊する地域によって,7800円又は8700円になります。

裁判所のHPには、お弁当が出るかどうかまでは書いてありませんでした。
裁判所のある霞ヶ関界隈は官庁街なので外で食べるところはあまりなさそうなので、お弁当は出るんじゃないでしょうか。

裁判員と裁判官で一緒にお弁当を食べます。
さすがに事件の話は出ず、裁判員制度導入にあたっての工夫とか、刑事裁判の話とかいろいろ。

刑事部は逮捕状の請求などがあり、裁判官も当直があるそうです。
東京地裁は裁判官の数が多いので年に1回くらいしか回ってこないのですが、当直の日は都内中(正確には23区内。都下は八王子支部の管轄。)の刑事事件が全部来るので、週末に当たると、たまにテレビの特番でやる「警視庁24時」状態で、息つく暇もないそうです。

また最近刑事裁判の傍聴がブームで、ブログもけっこうあるという話になって、ああいうブログは裁判官もたまに見ているようで、訴訟指揮や判決の内容へのコメントはともかく、某裁判官は自分のことを「初老の裁判官」と書かれたのがショックだったとか。

そんなこんなで和やかに昼食を終え、午後からは証人尋問になります。

(つづく)

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証拠調べ (模擬裁判体験記8)

2007-11-28 | 裁判員制度
双方の冒頭陳述が終わった時点で休廷し、評議室へ。


評議室に戻ってしばし休憩。
「さすがに緊張しますね~」などと談笑。
トイレに行くと、さっき傍聴していた人々も廊下に出てきています。
こっちの顔などは覚えていないでしょうが、隣で用を足すのもちょいと照れくさい感じがします(そういえば裁判官用のトイレって別にあるんでしょうか?聞き忘れてしまった^^;)。


休憩が終わると裁判官から、今後の審理予定のスケジュール表が配られます。
このあとは検察側の甲号証の証拠調べがあって、昼休み。
午後は検察側証人(被害者志村、目撃者加東)の証人尋問、弁護側証拠調べと検察側乙号証、被告人質問と続きます。


つぎに、冒頭陳述の議論の整理のために争点についての主張を整理した資料が配られました。
「争点1:殺意の有無」「争点2:責任能力」について双方の主張を対比した表になっていて、3枚目以降は明日使う「殺意とは」「心神耗弱とは」を説明した資料。
証拠調べや評議のときに参考にしてください、とのこと。


それともうひとつ「証拠等関係カード」という字の小さい表が配られました。
請求者、番号、標目、立証趣旨、意見、結果、などという欄があるのですが、「標目」とは証拠の種類のことだと思うのですが「包丁」「・・・報告書」はいいとして「実(抄)」「電話」(電話での聞き取り?)「検(抄)」などの符合はよくわかりません。
「意見」欄には「同意」とか「不同意一部撤回」とか書いてあり、「結果」欄には「決定」とか「同意部分決定」などとあります。

おそらく公判前準備手続きの中で、双方がお互いの証拠の採否について議論した結果をまとめた表なのでしょうが、最後まで読み方がわかりませんでした。
裁判官も細かく解説してくれませんでしたし、この後この資料が活躍する場もありませんでした。

ところで民事訴訟では原告側の提出する証拠を「甲号証」被告側の証拠を「乙号証」というのですが、「証拠等関係カード」では検察官が請求者の証拠に(甲)(人)(乙)という符号がついてます。なので「乙号証」というと反射的に弁護側の証拠かと思っていたら違うようです。弁護側の証拠は「弁号証」と読んでました。
(生兵法は怪我の元ですね・・・)


あっという間に時間が来て、また法廷に。
検察側の甲号証の証拠調べです。

犯行現場の説明と現場見取図の映写+配布、包丁の写真と現物(実際は模型でしたが、検察官が手につまんで掲げるところは唯一テレビドラマで見た光景でした)、被告人らが住んでいた寮状況の説明と現場見取図の映写+配布、かけつけた警察官による被告人のアルコール呼気検査記録、救急隊の活動報告の説明、医師からの聞き取り・診断書の説明、被害者の刺創の場所を図示したものとTシャツに開いた穴の位置を示す図の映写+配布などがなされました。

これは「はいないなるほど」と聞いていればよいので楽でした。

ただ、遺体の写真や被害者の傷の写真を見せられたりすると、インパクトは大きいだろうなと思います(今回は模擬裁判だったので当然図でした^^;)。
特に今回のように昼食の直前だと・・・


以上で午前中の予定は順調に終了し、昼休みです。

(つづく)
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