朝の「おはよう」という挨拶や、「ありがとう」と言う、言わないというのは、個人の性格だけではなく、地域性に根ざした「ものの言い方」すなわち基本にある考え方である、ということを、豊富な事例から解き明かした本。
言い回しの違いなら単に「方言」ですませられがちだが、「言い方」にまで遡った分析が面白い。
『大阪的』で言及された「話の水位の調整」のような、話者の姿勢に関わるところである。
本書ではさらに分析的に以下のような切り口を用意している。
・口に出して言う地域と言わない地域
・決まった言い方をする地域としない地域
・細かく言い分ける地域と言いわけない地域
・間接的に言う地域と直接的に言う地域
・客観的に話す地域と主観的に話す地域
・言葉で相手を気遣う地域と気遣わない地域
・会話を創る地域とつくらない地域
前者は近畿圏を中心とした地域(と東京圏)、後者は北関東・東北と九州・沖縄地方に特徴的だという。
このへんは社会的・文化的背景、県民性、行動様式などの要素が混然となっているので、因果関係についての想像力がふくらむ。
著者の指摘で示唆に富むのは「難しいのは、ものの言い方は礼儀やたしなみの問題として、しつけや教育の対象とされる点である」というところ。
ものの言い方の地域差を大切にするといっても、現代人のこうした価値観や規範意識があるかぎり、なかなか難しい。しかし「メンコイ」や「ハンナリ」は味わい深い言い方だから残しておこう、でも、ものの言い方は変えていかなければいけない、というのはある種のご都合主義である。方言は総体として存在する。発音も単語も文法も、そしてものの言い方も揃っていてこそ、その土地の方言と言える。もし、そのうちのどれかの要素、例えばものの言い方が変えられてしまえば、方言の他の側面もそれと連動して、一気にその土地らしさを失っていく恐れがある。
この問題は、保護・継承と教育・しつけとの狭間にあって、簡単には結論が出せない。ただ、一つの価値観や基準でものの言い方を強引に変えていこうとすれば、それは地域文化の衰弱につながることは確かである。
★3.5