先日ふれた
『文明崩壊』で現代の中国とオーストラリアの農業の持続可能性について触れた部分が面白かったので追記。
中国
・人口ボリュームが国土の環境負荷の限界を超えている。具体的には水資源、森林資源、耕作適地(地力)が問題
→三渓ダムにより下流水域の水供給(結果としての栄養供給)が細ったこと、非効率な灌漑・施肥などの耕作技術など、工業による環境汚染を除いて農業政策としても問題がある。
・現在でも熱帯雨林の輸入など環境破壊を輸出しているが、さらに先進国並の生活を求めるとなると、他国への影響が懸念される。
←人口問題はよく言われていることではあるが、一方で地力を細らせている方向に政策がとられているのであればさらに深刻。
豪州
・もともと豪州は農業に向いていない。
→もともと土壌の栄養は火山の噴火や氷河の浸食などによって長年堆積して得られるものだが、豪州大陸にはそれらがなく、限られた表土しかなかった。しかも小雨のため塩害で農地は年々浸食されつつある。
・その中で英国からの入植者が樹木を伐採し、羊を放牧し、外来種を導入したたことで貴重な表土が失われた
→羊の過放牧による草地の砂漠化、羊のこのまない外来植物の繁殖、ウサギ(天敵がないため加速度的に増殖し植生へのダメージ大)・キツネ(在来種の捕食)の導入などが原因
・その結果、豪州で農業は単独では成り立たない産業になっている。
→たとえばオレンジはブラジル産の濃縮果汁に席巻されてしまったし、ベーコンなどはカナダ産との価格競争に勝てない。農業に適した土地はパース周辺とアデレードなどの南部の一部に限られている。また、土壌の栄養価が低いので沿岸漁業も資源の再生産力が低い。
TPP議論などで豪州の輸出競争力への対抗とか日本の農業の生産性強化が議論されているが、この辺を読むと「農業の六次産業化」とか生産性の向上以上に「サステナブルな農業生産力の維持」が重要になってくるように思う。
特に日本は水資源や土壌の栄養(その結果近海漁業資源)にも恵まれているという意味では中国や豪州(それに水資源の点では米国西海岸)よりもアドバンテージがあるわけで、長期的な国家戦略としてはその部分を強化する(少なくとも短期的な経済原理だけでは放棄しない)ことが大事なのではないか。
もっともこれは昔ながらの棚田や小規模農家を守れという話ではなく、河川の水利権や地下水利用について農業・工業・家庭利用含めた最適化をするとか、流域全体の化学物質のコントロールや富栄養化対策をはかるとか、森林の維持コストをどう社会で負担してゆくかというあたりを含めて議論すべき問題だと思う。
『里山資本主義』もそれがさかんになった場合の自然資源の地域における配分が(もし盛んになった場合には)次の問題となってくる。著者にはそのあたりの分析も期待したい。
「食糧安全保障」というと生産力(≒担い手の維持)に、「国際競争力」というと価格と品質にフォーカスされるが、もう少し広い枠組みでとらえることも必要なのではないか。