コメントやTBをいただいた方々やこちらからお邪魔したサイトの皆様には大変お世話になりました。
この場を借りてお礼申し上げます。
来年も懲りずにこんな調子で続けていきたいと思いますので、引き続きご愛顧・叱咤激励よろしくお願い申し上げます。
来年が皆様にとってよい年でありますように!
もう20年以上前の話で恐縮ですが、当時中学だか高校だか(それくらい記憶が定かでない)の国語の試験問題で「(このとき主人公はなぜこう言ったのでしょうか、などという設問)の回答を、自分の言葉で(○文字以内で)書きなさい」という問題文がよくありました。
当時純粋だった僕は、一生懸命自分なりにオリジナリティのある気の利いた言葉で解答を記入してみたのですが、どうもはかばかしい点数がもらえません。
しかも模範解答を見ると、愚にもつかないありきたりの解答が並んでいて、鼻白んだものです。
それをしばらく続けるうちに、ある日、設問は「問題文から引用せずに、わかりやすい説明をしろ」ということをもっともらしく言っているだけだ、ということに気がつきました。
なんだつまんねぇ、それじゃ、試験は単なる作業じゃねぇか、と思うと同時に、なるほど大人になる(世の中に適応する)というのはこういうことか、と妙に納得した記憶があります。
前振りができの悪い「ドラゴン桜」みたいになってしまいましたが、話は試験問題の良否とか回答者の心構えについてではなく、新会社法で求められるようになった内部統制システムの構築についての話です。
新会社法では、362条5項で
大会社である取締役会設置会社においては、取締役会は前項第6号に掲げる事項(=取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備)を決定しなければならない。
と定められています。
※ちなみに、法務省令案(パブリックコメント中)がこちら
株式会社の業務の適正を確保する体制に関する法務省令案の概要
法務省令案
実は現行の商法でも取締役には他の取締役の業務執行を監督する義務があり、最近の企業不祥事においては、悪事を働いた取締役以外の責任を問うだけでなく、他の取締役に対しても監督義務違反で株主代表訴訟を提起する、ということが実際に行われています。
しかし今回の新会社法と法務省令は、他の取締役の業務執行の監督だけでなく「使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制」の構築まで求められるので、世の企業経営者にとっては
「取締役の義務が加重された、さあ大変」
という受け止め方が主流だと思います。
そして今後一番考えられる展開は以下のようなものではないかと思われます。
① さすがにこりゃ勘弁してよ、という要求が経団連などからパブコメとして出される
② 経団連とか経済産業省が「内部統制システム構築ガイドライン」を作る
③ 各企業が「右へならえ」でガイドラインに準拠した社内規則・組織を制定する
法務省で会社法の改正作業に従事された葉玉検事のブログでは
しかも,私が「こういうのが典型的な内部統制システムです。」なんて紹介したら,司法試験受験生の解答例丸写し答案みたいな内部統制システムが,来年次々に出てきたりして,絶望的な気分になりそうな予感もあり(笑),沈黙は金ということにしたくてたまりません。
とおっしゃってますが、葉玉検事が心配しなくても案を作らなくても、何かに「右へならえ」になんじゃないかと思います。
まあ上の①と②は悪い事じゃないですね。それが、③になだれ込んでしまうというのは、各社の組織や法務担当者が、取締役からは「何があっても責任を問われない体制を作れ」といわれるわ、かといってよって立つ判例や他社事例もないわで、途方にくれる中では、「皆でわたれば怖くない」という発想になってしまうことによるとおもいます。
それによって企業統治が半歩前進すれば社会全体としてはそれはそれで成果なのかもしれませんが、何かちょっとさびしい感じがします。
上の「概要」にも
第2 重要な項目とその内容
1 体制の整備に際しての取締役の責務
(1) 規律の概要1 株式会社の業務の適正を確保する体制に関する事項の決定の際には,次に掲げる事項に留意するよう努めるものとすることを明らかにしている(省令3条。)①株主の利益の最大化に資するものであること
②機関相互の適切な役割分担と連携を促すものであること
③会社の個性及び特質を踏まえたものであること
④株式会社を巡る利害関係者に不当な損害を与えないようなものであること等
とあり、企業がそれぞれの経営理念や業務執行のスタイルに応じて内部統制システムを構築することが前提にされています。
でも、残念ながら企業理念から独自の体制を作るような会社は極めて少ないんだろうな、とも思います。
逆にいえば、企業の方も経営を自分の言葉で語れないからこそ、こうやっていろいろお仕着せのルールに汲々とすることになってしまうんですよね。
(「日本版SOX法」とか「日本版COSO」とか、毎度「日本版○○」のキャッチアップというのもちょいと哀しいです。)
残念ながら、それが日本企業の(「現在の」と書きたいw)実力ということでしょうか。
・・・自戒も含めて。
PS
経団連会長に内定されたキヤノンの御手洗会長は、米国流株主利益第一の経営とは一線を画した、従業員を大切にしたりするいわゆる日本的経営(正確に言えばキヤノン的経営)で有名ですが、御手洗経団連が内部統制システムに関して「右へならえ」のモデルを出すかどうか、個人的には興味があります。
また、このような経営をするキヤノンは外国人投資家からの評価が高く、外国人持株比率が50%を超えていろんな法律で「外資系」扱いになっています。
結局しっかりした経営理念とその実践が評価されるのは洋の東西を問わない、ということでしょう。
ちなみにキヤノンは政治資金規正法でも「外資系企業」扱いで政治献金が禁止されているため、政治家からの献金の要求をいちいち断らなくても済む、という意外なメリットもあるそうです。
でも、来年の国会で政治献金が可能になるように法改正される見込みとか。こういうところは議員さんはしっかりしてますね。
スーパー・百貨店融合の新モデル目指す…統合正式発表
( 2005年12月26日 (月) 20:17 読売新聞)
鈴木会長は「(スーパーと百貨店を合わせた)新しいモデルを作る夢を実現させたい」と述べ、業界の垣根を超えた再編の意義を強調した。
また、和田社長は、2007年2月期に予定していた上場を見送って経営統合に踏み切った理由について、「最近の敵対的買収を見て、安定株主対策が必要と考えた」と説明し、敵対的買収の動きが経営統合のきっかけとなったことを示唆した。その上で、「古い価値観で問題を見るべきではない。次なる国際化の時代や業態間競争の中で、新しい価値を生み出すことを目指す」と述べた。
「〇〇と〇〇の融合」という謳い文句や、「自分が買わなければ誰か(この場合はウォルマート?)に買われてしまう」「ちょうど金なら持ってる」という動機は、ホリエモンや三木谷氏と似ていますね。
しかも、セブン&アイホールディングスの取締役会で鈴木会長に意見をできる人がいないところまでそっくりかも。
違いは上場企業に対する敵対的買収かどうか、ですが、そこが取り上げられ方の違いに反映しているんでしょうか。
それとも、今回の話は業界内のM&Aなので、マスコミの「想定内」ということなんですかね。
ずっと「冬の時代」「構造不況業種」とマスコミに叩かれてきた百貨店が、景気が上向いただけで「衣料品の落ち込みに悩むGMSへの高級イメージの救世主」になった(「構造」じゃなかった?)わけではないでしょうから、どんな改革をしたのかについては興味があります。
そのうちどこかが特集してくれるでしょう。
価格ですが65%を1300億ということは、企業価値として2000億と見ているわけですね。
ただ、ミレニアム・ホールディングスの業績が不明なので高いか安いかはわかりません。
せっかくクリスマスなのだから、さきほど記事でほのぼのと終わろうとしたら、PCを閉じる直前にこんな記事が目にとまりました。
みずほ証券誤発注:収益優先の企業体質を反省
(毎日新聞 2005年12月22日 19時39分)
ジェイコム株の誤発注で金融庁から業務改善命令を受けたみずほ証券は22日、再発防止策の検討を改めて表明するコメントを発表した。誤発注の原因として、「体制整備が業容の拡大に十分に対応できていなかった」ことを挙げ、収益を優先しがちな企業体質を反省した。証券市場に与えた影響は深刻で、同社は危機管理や経営管理体制を改善し、信頼回復を急ぐ。
あの・・・「収益を優先しがちな企業体質」だったら、誤発注を防ぐためにフェイルセーフの機能を十重二十重にはりめぐらしてるはずだと思うのですが・・・
「金融庁にしかられたからとりあえずの反省文」というのがミエミエですね。
そういう企業体質を反省するほうが先なのではないでしょうか?
ジェイコム問題について、利益の返還、具体的には取引自体を無効にすることが法的にできるのか(すべきか)という議論がさまざまな有識者のblogでされていますが、私自身はいかんせん取引所での株式売買についての知識がないので床屋談義的なコメントしかできない状態であります。
※過去の床屋談義はこちら参照(その1 その2)
先の記事に大御所toshiさんからTBをいただいたので、少し真面目に調べてみました。
論点としては大きく
1 そもそも証券市場の取引に民法の適用があるのか
2 民法の適用がある場合に、本件が錯誤無効の要件に該当するかという
という2つがあるようです。
1については、証券取引の安定の必要性や有価証券取引の特殊性、取引所取引の匿名性(原則相手を選べない)などから一般の取引ルールを決めている民法や商法の適用に否定的な意見と、証券取引も売買契約であり、民法・商法の適用を排除する理由がないという民商法適用を前提として、錯誤無効の適用の可否を論じる意見があります。
2については民法95条に「意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。」とあり、今回のみずほ証券は重大な過失があるので、錯誤無効を主張できないのでは、という意見と、取引相手方に「悪意」(みずほ証券が誤注文を出していることを相手方が知っていること)がある場合にはまで無効主張が制限されるわけではないという意見があるようです。
とまあ、このへんまでは理屈としてはわかるのですが、つぎに証券取引所での取引のしくみ(いつの時点でどういう風に売買契約が成立するのか)について、東京証券取引所 業務規定 を見てみました。
証券取引市場での取引がどのように成立するかについては「第2節 売買契約締結の方法」に規定されています。
(競争売買の原則)
第10条 売買立会による売買は、競争売買によるものとする。
2 競争売買における呼値の順位は、次の各号に定めるところによる。
(1) 低い値段の売呼値は、高い値段の売呼値に優先し、高い値段の買呼値は、低い値段の買呼値に優先する。
(2) 同一値段の呼値については、次に定めるところによる。
a 呼値が行われた時間の先後により、先に行われた呼値は、後に行われた呼値に優先する。
b 同時に行われた呼値及び行われた時間の先後が明らかでない呼値の順位は、当取引所が定める。
(3) 成行呼値は、それ以外の呼値に値段的に優先し、成行呼値相互間の順位は、同順位とする。
(個別競争売買)
第12条 第10条第1項の競争売買は、個別競争売買とする。
2 個別競争売買においては、次の各号に掲げる約定値段を定める場合を除き、売呼値の競合、買呼値の競合及び売呼値と買呼値との争合により、最も低い値段の売呼値と最も高い値段の買呼値とが合致するとき、その値段を約定値段とし、第10条第2項に定める呼値の順位に従って、対当する呼値の間に売買を成立させる。 (中略)
3 前項各号の約定値段を定める場合においては、売呼値の競合、買呼値の競合及び売呼値と買呼値との争合により、次の各号に掲げる売呼値の合計数量と買呼値の合計数量とが一定の値段で合致するとき、その値段を約定値段とし、第10条第2項に定める呼値の順位に従って、対当する呼値の間に売買を成立させる。(中略)
4 前項の場合において、売呼値の合計数量と買呼値の合計数量とが合致する一定の値段が二つ以上あるときの約定値段は、これらの値段のうちに直前の約定値段と同一の値段があるときは、当該値段とし、直前の約定値段と同一の値段がないときは、直前の約定値段に最も近接する値段とする。ただし、当取引所が直前の約定値段を基準とすることが適当でないと認めるときは、当取引所がその都度定める値段とする。
5 第3項の規定にかかわらず、第2項第3号の約定値段を定める売買の値段が、直前の約定値段(当取引所が定めるところにより気配表示が行われているときは、当該気配値段)を基準として、当取引所が定める値幅を超えるときは、売買を不成立とする。
これを見ると、呼値を上のルールでつき合わせて「売買を成立させる」仕組みのようです。呼値のすり合わせのルールはネット証券のHPなどで解説されているとおりですが、この「成立させる」の主語はだれなんでしょう?
それを疑問として留保した上で、つぎに呼値は誰がどうするかというと
(呼値)
第14条 取引参加者は、売買立会による売買を行おうとするときは、呼値を行わなければならない。この場合において、取引参加者は、次の各号に掲げる事項を、当取引所に対し明らかにしなければならない。
(1) 当該呼値が顧客の委託に基づくものか自己の計算によるものかの別
(2) 空売り(証券取引法施行令(昭和40年政令第321号。以下「施行令」という。)第26条の3第1項に規定する空売りをいう。)を行おうとするときは、有価証券の空売りに関する内閣府令(平成4年大蔵省令第50号)第1条各号に規定する取引を除き、その旨
という風に呼値は取引所参加者=証券会社がつけるわけです。これが要するに注文ですね。
ということは、ものすごく荒っぽく言うと、証券取引所というのは何か特殊な権限があるのでなく、ルールに沿って呼値を摺り合わせる行司役をしていて、参加者は行事の軍配に従って売買契約を成立させる合意をあらかじめしている、というしくみのようです。
※この規定は「売買契約締結の方法」とあるのに、「AとBがこれこれすると売買契約が成立する」とないのでわかりにくいのですが、民法の原則からは当事者の意思の合致(申込と承諾)があれば契約は成立するので、この業務規定は、大量の申込と承諾(売り注文に対する買い注文、またはその逆)を処理する方法を規定しているし、それ以上のものではなさそうに読めます。
つまり証券会社の行う注文(呼値)も「呼値という価格が摺りあったら(相手が誰であろうと)その値段で契約を成立させて欲しい旨の申込兼条件付承諾」のような民法の枠組みに当てはめた解釈ができるんじゃないかと思います。
また、商法では申込・承諾のルールとして
第507条 対話者間ニ於テ契約ノ申込ヲ受ケタル者カ直チニ承諾ヲ為ササルトキハ申込ハ其効力ヲ失フ
第509条 商人カ平常取引ヲ為ス者ヨリ其営業ノ部類ニ属スル契約ノ申込ヲ受ケタルトキハ遅滞ナク諾否ノ通知ヲ発スルコトヲ要ス若シ之ヲ発スルコトヲ怠リタルトキハ申込ヲ承諾シタルモノト看做ス
というようなのがありますが、売買成立前に注文を取り消してしまえば契約は成立しないわけですから、証券市場取引がこれら民商法のルール以外のルールにしたがっているようにも思えません。
また さらに商法では
第191条 株式ヲ引受ケタル者ハ会社ノ成立後ハ錯誤若ハ株式申込証ノ用紙ノ要件ノ欠缺ヲ理由トシテ其ノ引受ノ無効ヲ主張シ又ハ詐欺若ハ強迫ヲ理由トシテ其ノ引受ヲ取消スコトヲ得ズ創立総会ニ出席シテ其ノ権利ヲ行使シタルトキ亦同ジ
というように、取引の安全を優先する場合はそのような条項が法定されているわけで、商法などに特別の規定がない以上、株式(有価証券)の売買に対する民法の適用が当然に排除されるとはいえないように思います。
なので、取引の安定の見地や表意者保護の必要性について程度利益衡量がなされるべきとは思いますが、錯誤無効の余地がまったくないとは言えないんじゃないかと思います。
では次に上記2つめの論点です。
これについては取引の安全と表意者の保護の利益衡量からは、錯誤を知っていた相手方までは保護する必要はないという考え(学説上も有力な考えだったと思います)が説得力を持つように思います。
ただここで難しそうなのは、
業務規定10条11条のように売呼値の低い方と買呼値の高い方を順番にすり合わせて売買を成立させる、という仕組みの中で、みずほ証券の注文を無効としたときに、対象の取引だけが無効になるのか、他の注文が混在していた場合無効になった人だけが不当に損しないか
という点です。もっとも今回は「1円」などという売り注文は1社しかなく、しかも圧倒的hなボリュームの発注だったので、全部取り消してもいいのかもしれませんが。
また、
買い注文が成立した株主が既に売却していたらどうなる(確か錯誤無効については詐欺取り消しの民法96条3項が類推適用されるので善意の転得者には対抗できないのでは?)
みずほの買い戻しの注文(これは真意の注文なので、特に売り手がみずほでない場合は錯誤無効にするのは難しいようにも思います)はどうなるのか、
またこれが生きるとすると、現在の株価を考えるとなんかみずほが得しちゃったりしないのか。
とか、ややこしい問題もでてきそうです。
こうなると、処理の方針を決める前に取引再開をしてしまったのは傷口をひろげたような感じもしますね。
なんか調べたはいいけど、問題がさらにややこしくなって整理がついていませんが、今日のところはこれくらいにして、また考えます。