帯では巻末の糸井重里との対談を売り物にしているがこれは完全な釣り。ただしそういう出版社のあざとさをを割り引いても十二分に面白い。
金融の門外漢でしかもオランダ人の著者が、なぜ金融危機が起きたのかを探りにロンドンのシティで金融機関に勤める人々にインタビューをおこない、英ガーディアン紙にブログを連載した。
本書はブログとその後のインタビューをもとに、シティの人々の実態と金融危機の原因を考察した本。
金融街の人々は、自分たちが嫌われているという自覚があるために、インタビュー対象者探しは難航する。ただ、だんだんブログが有名になるにつれ、インタビューに応じる人々も増えてきて、様々な職種、経歴、立場の人の話を聞くことになる。
著者がそれらの人々をタイプ別に分類するところが面白い。
「中立派」
「苦々しい思いを抱えたタイプ」
「宇宙の支配者」
「金融一筋タイプ」
「妄想タイプ」
「無感情タイプ」
日本の知り合いの分類にも役立つ。
そして著者は、金融危機をもたらしたものは特定の犯人ではなく、金融街の人事・雇用システムと報酬体系がもたらす利益相反と「逆インセンティブ」が問題の根源であり、したがって、各種の再発防止のための規制にもかかわらず、同じようなことはまた起きうる、と結論付ける。
はじめに僕は、シティについてよそ者が理解できないことは何でしょう、と訊ねた。すると彼は、企業文化に飲み込まれてしまうところだ、と答えた。「バンカーはチームで動くし、そこでの原則は、見方か敵かってことしかない。異論を唱えれば攻撃にさらされる。どこかやましことを隠していれば、それを暴かれる。もし何かを表沙汰にすれば、必ず仕返しされる。すぐにやられることはなくても、次の解雇の時期にはクビになる」だから、とてつもなく倫理観が高くてキャリアを棒に振ってもいいと思っている人しか内部告発はできない。
インタビューから金融街の人々の姿を浮き彫りにさせる手際はとても鮮やかで、読んでいて面白い。
ただ、改めて考えてみると、この「企業文化に飲み込まれる」というのは、金融業に限ったことではなく、日本企業でも起きてることだったりするんだよね。
* 巻末の糸井重里とのインタビューは、本書の前の著作についての昔のもので、金融については全く語られていない。なのでほぼ日のIPOについての話なども全然ないのでそれを期待するとがっかりします。