一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『トラジャ JR「革マル」30年の呪縛、労組の終焉 』

2020-01-17 | 乱読日記
力作。

国鉄から民営化によりJRに移行した後のJR各社の労働組合運動と勢力図の変遷とその中での革マル派の影響についての一代記。
JR東日本の労組のドンである松崎明と会社側、革マル派との関係、JR北海道の事故と歴代社長自殺の背景にある経営と組合との関係など、過去の経緯からまとめて読むと改めて問題の根深さに慄然とする。


結果として、現在では革マル的な活動からの組合員離れ、さらには若手を中心とした組合離れの方向にあるという。
この先には、今後労働組合というのがどういう役割を果たすべきか、という問いがあるが、それついての回答はまだ誰も持ち合わせていないように感じる。

★4

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『国運の分岐点 中小企業改革で再び輝くか、中国の属国になるか』

2020-01-15 | 乱読日記
サブタイトルは出版社側でつけたんだろうが、「中国の・・・」はさておき「中小企業改革で再び輝くか」というのは、ぱっと見「中小企業の復活」という期待を持って本書を手に取った人はがっかりすると思う。

ざっくり言うと

日本の中小企業は「中小企業のままでいること」に税制・制度的に様々なインセンティブがあり、それを放置したままでは日本の労働生産性は上がらない。
したがって、最低賃金を大幅に引き上げるなど生産性の低い企業を淘汰していく必要がある。
同時に賃金が上昇することで消費が増えればGDPも上昇する。

というのが本書の主張。

その通りだと思う。

高度成長期には中小企業の育成は重要だったが、現在では票と資金力(パーティー券購入など)を持っているために政治的な影響力は大きいことから、現在の情勢に合わない制度も温存され、さらには助長されている。
(大企業もそれに乗っかって、過去には、外形標準課税回避のための減資とか、中小企業への融資ノルマ達成のための投資ビークルである有限会社への融資などをやっていたのであまり偉そうなことは言えない。)

とはいえ高齢者と中小企業経営者の票が選挙を左右する現状をどうやって変えるか。

★3.5

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『ぼく、街金やってます』

2020-01-13 | 乱読日記
「全宅ツイ」の書籍刊行ブームの嚆矢となった本

面白い。けどもうちょっと内容が質、量ともに濃ければよかった。
本では書きにくいんだろうけど。

★3

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『安売り王一代 私の「ドン・キホーテ」人生』

2020-01-11 | 乱読日記
本書は2015年11月刊行
著者で創業者の安田氏が社長(と役員も)を退いたときの本
「他のやらないことをやる」創業時の姿勢をこの規模になるまで貫いての一代記として面白い。
「私の履歴書」っぽいのは、ライターが入っているからか?

本書のあと、ユニーを子会社にし、プロ経営者をホールディングスの社長に据えたりと規模の拡大に伴って経営スタイルも変えてきているが、どこの会社も創業社長の後継者選びは苦労している。
うまく成功して「君子豹変す」とうそぶく姿を見てみたい気もする。

★2.5

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『旧約聖書を知っていますか』『新約聖書を知っていますか』

2020-01-09 | 乱読日記
恥ずかしながら(でもないか)、今まで聖書を通読したことはない。
今まで旧約聖書を冒頭から読むのを2回ほどしたことがあるが、早々にあえなく挫折した。おそらく今後も通読することはないだろう。

なので阿刀田高の読み解きに乗っかってみた。
これが正しい読みなのかはわからないが、物語としての聖書の全体像がなんとなくわかっただけでも満足感はある。

そういう使い方としては格好の本(「入門書」というと「正しい」人から文句が出そうなので使わない)だと思う。

もう少し深堀りして、宗教画の背景にあるエピソードなどがすっとわかるようになるといいのだが(道遠し)。

★3.5




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『応仁の乱』

2020-01-07 | 乱読日記
戦国時代が面白いのだったら、その前の時代も面白いはず。

応仁の乱を、興福寺の僧侶2人の日記を軸に、それぞれの勢力の利害関係、力関係というリアルな政治として描いている。
著者は従来の歴史学を「階級闘争史観」-下の階級の者がその上の階級の者に対して闘争を起こし、打倒することで歴史は進歩する、という歴史観-として批判する。
言われてみれば当然なのだが、いつの時代もその時々の利害関係、力関係で動いている。その結果が後世からみれば「歴史」になるわけで、過去にさかのぼるほど史料が乏しく、事実についての公式記録しか残らないので、いわば後講釈の階級闘争史観が成り立つのだろう。
その断層が戦国時代前後にあったものを、史料の綿密な読み解きから一つ前倒ししてみると、応仁の乱も当然魅力的になる。
特に戦国時代よりも力のあった天皇というプレイヤーが加わること(特にその判断によっていかに自らの影響力を損なってしまったかも含め)、舞台が主に畿内にとどまることで、内容が濃密になっている。

難点といえば、親族同士で東軍西軍に分かれたり、血縁関係が分かりにくくて読んでいて混乱すること。
系譜図をスクショして常に参照できるようにしたら理解が早まった。電子書籍の使い方に段々慣れてきた(紙の本でも付箋つけとけばいいんだけど)

★3.5

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『慈雨』

2020-01-05 | 乱読日記
あまり小説を読んでいるわけではないが、柚月裕子は「筋を通す漢」を何の衒いもなく描く、という点では出色のように思う。

性差で云々するのは今風ではないが、男性作家の中には背景にある(男の)事情を細かく描いたり、妙に美談仕立てにする仕掛けがあったりするのに比べてすがすがしさを感じる。

同時進行する四国八十八か所巡りにも惹かれるものがあった。

★3.5


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『ザ・ボーダー』

2020-01-04 | 乱読日記
圧巻。

メキシコの麻薬カルテルと米麻薬取締局の捜査官の戦いをめぐる3部作の完結編。
本作が初めてだったが、過去の経緯や追想が随所にあり、全体像がわかるようになっている。

登場人物のサイドストーリーが、特に脇役についてまで詳細に描くことで、富と貧困の断層、人間の弱さや遺恨の連鎖、暴力の悪循環など、麻薬カルテルだけでなくそれを成り立たせている状況の複雑さと救いのなさが伝わってくる。

一読をお勧めする。

★5

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『あなたの体は9割が細菌: 微生物の生態系が崩れはじめた』

2019-09-29 | 乱読日記
人間の体には腸管内だけで100兆個4000種類の微生物が存在し、人体は栄養の吸収、免疫の発動などを微生物にアウトソーシングしながら共生している。

著者は、マレーシアでのフィールドワーク中にダニに咬まれ原因不明の熱帯病に感染した。そして治療のために大量の抗生物質を投与された結果、感染症は治癒したものの、胃腸障害、免疫力の低下などにその後長期間苦しめられることとなった。これをきっかけに、共生微生物(マイクロバイオータ)に興味を持つようになる。

共生微生物の研究はここ15年(本書は2015年刊行)で飛躍的に発展した分野。
現在では、共生微生物のアンバランスが胃腸疾患、アレルギー、自己免疫疾患、肥満、さらには鬱病、自閉症にも影響を与えていることが明らかになっている。

本書は最新の研究事例を紹介しつつ、現代人が共生微生物といかにうまく共生するべきかについて語っている。
本書が「腸内細菌が何でも解決!」のようなトンデモ本、礼賛本になっていないのは、相関関係と因果関係を峻別しており(当たり前なんだけどこれをあやふやにして煽る本が多い)、また、科学的に解明されていない部分はきちんとその旨を書いているところ。
抗生物質についても否定しているわけではなく、過剰な使用(「クモを殺すのにクラスター爆弾を使う」)をするなと言っているだけ。
具体的な日常生活への心掛けにつながることや、なるほど、という部分(たとえば共生微生物が出産を通じて母親から子供に受け継がれる仕組みなど)が多く、非常に勉強になる。

★5

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『長く働けるからだをつくる』

2019-09-26 | 乱読日記
著者が突然の交通事故の被害にあい、リハビリを重ねる中で気づいた「立つ」「歩く」「坐る」こと、またそのための靴や椅子の重要性について語った本。
著者の実体験に基づいた気づきは説得力があるが、自分で実践するためにはもう少し詳しく体系的な話が必要だと思う。

★2.5

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『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』

2019-09-24 | 乱読日記
『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』の著者が、鳥類の祖先とされる恐竜の生態を、(本人曰く「恐竜ブームに便乗」して」鳥類学の人気を広めるべく)鳥類学の研究成果から類推して解き明かそうという本。
単行本の出版は上の本より前のようだが。

最近の研究で、恐竜は実は羽毛が生えているものもいた、とか実際はもっとカラフルだったのではないかということが明らかになってきている。化石からだけではわからない生態を鳥類の生態から想像力を膨らませて描いている。
「便乗」とおちゃらけていても、話はややもすると愛する鳥類への言及のほうがメインになりがちなところも含め、著者らしくていい。

★3.5

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『刑事弁護人』

2019-09-23 | 乱読日記
「令状なきGPS捜査は違法」の最高裁判決を勝ち取った話。これ自体読み物としてはとても面白い。

ただ、下の写真のように、本書は通常の講談社現代新書のカバーの上に事件の主人公である著者の写真のカバーがダブルであり、共著者の名前よりも大きく書かれている。(もっとも共著者はライターなので事件の主人公ではないのだが)

なおかつ亀石弁護士は「美人すぎる」弁護士としてテレビのコメンテーターとして活躍中で(知らなかった。確かに美人である)参院選に出馬が予定されていた(購入当時。結果落選した)。
ここまで選挙前の知名度アップのダメ押しキャンペーンを前面に押し出している本も珍しいし、講談社現代新書もそれに乗って売れればいい、という姿勢はどうなんだろう。

いや、本の中身は刑事弁護手続きや弁護士における最高裁の重みや登場する弁護士の背景などが描かれていて面白かったんだけど。

★3

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『痛い在宅医』

2019-09-22 | 乱読日記
長年在宅医療にかかわる著者が、現実に起きた退院→自宅療養→死に至る過程での様々な不満、後悔について相談を受けた内容をまとめ、在宅医療の現実を描いている。

「普通に看取る」ということがいかに難しいか、自宅療養がいかに病院と医師と患者家族の連携が必要かを教えられる。
一方病院で管ばかりにつながれる最期もつらいし、延命治療拒否をするとしてもその決定も含めて誰がどの時点で判断するのか、は難しい。

病気の進行は思った通りに行かないところが難しい。ベストプラクティスというようなものはなく、どうすればいいか、というのは、結局本人と家族の納得の問題なのだろうが。

★3

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『絶対に、医者に殺されない47の心得 』

2019-09-21 | 乱読日記
タイトル的には「トンデモ本」の香りがしないでもなかったがとてもまともな本だった。
「いい医者の見分け方」を指南する本でも「既存の医療の間違い」を威勢よく糾弾する本でもなく、「よい患者」になる心得を説いている。
具体的には、きちんと医者とコミュニケーションを取り、自分の健康のために何が必要かを考えながら医者の言うことをきちんと理解しようとする姿勢が大事。

血液検査や画像検査の結果が「正常化」するのは、病気の治療の結果生じる(かもしれない)副産物。けれども、血液検査結果そのもの、画像検査結果そのものは、治療の目的でも何でもありません。
健康診断で「異常」を指摘されても、じつは放っておいてよい人はとても多いのです(そうでない人ももちろんいます)。ですから、もっと気をラクに「検査は検査、大事なのは自分自身の健康で、両者は別物」と考えるのが賢明です。

ただ、実際に「放っておいてよい」か「そうでない」かを適切にアドバイスしてくれるかかりつけ医に巡り合うのはけっこう難しいのだが。

★3.5

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『こわいもの知らずの病理学講義』

2019-09-20 | 乱読日記
「ごく普通の人にもある程度は正しい病気の知識を身につけてほしい」と書かれた本。
細胞の損傷・適応・死、血流の異常のメカニズム、そして後半は今や「病の皇帝」であるがんの発生・増殖の仕組みや抑制・予防について書かれている。
高校の生物・化学知識を引っぱり出しながら概ねは理解できた感じ(いつも通り、もっとちゃんと勉強しておけばよかったという後悔は先に立たず)。

著者の実際の講義もそうらしいが、脱線やたとえ話が多く、それらが面白い(ここが合わないと読んでてつらいかも)。

いくつか面白かった話をメモ

・がんの死亡者数が増えたのは高齢化が原因。死亡率を年齢で補正すると女性は1960年代からずっと、男性も1995年以降は減少している。「日本人の死因の第一位はがん」という保険会社のうりこみを真に受けてはいけない
・タスマニアデビルは伝染性のがんで一時絶滅の危機に瀕したが、わずか20年、4~6世代で抵抗性を獲得しつつある。
・分子標的薬はピンポイントの薬なので、がんも変異すると効かなくなってしまう。薬が細分化するほどコストは高くなるが、日本の健康保険制度はそういう医薬品を前提に設計されていない。「命をお金に換算せざるを得ない時代」がやってきた。
ちなみにアメリカ、イギリスではQOLを維持する年間のコストとして500~600万円が限界と言われている。

★4.5

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