最近の戦争映画は実写とCGをうまく使って非常にリアルにできている。
子どもの頃(=昭和の頃)の第二次世界大戦を題材にした戦争映画は、特にドイツ軍の戦車は現存するものが少ないせいか、米軍の戦車に張りぼて(ひどいときはマークと塗装を替えただけ)のものが使われていたりした。
本作はティーガー戦車の実車を使った初の映画(「プライベート・ライアン」でもレプリカの車両を使っていたらしい)でM4シャーマン戦車との戦闘シーンが目玉ということで、子供のころのプラモデル(そのころは「タイガーⅠ型」と呼ばれていた)の記憶を呼び覚まされたという単純な動機で久しぶりに映画館に足を運んだ。
戦車戦といっても、草原に横一列に展開する戦車隊同士の大決戦というような昔の戦争映画と違い、歩兵の支援が主の地道な任務が舞台。しかもタイガー戦車には歯が立たず、ドイツ歩兵の対戦車ロケット弾にも悩まされたりと、決して華々しいとは言えない。
その分、地上戦において、歩兵に対してはその装甲と火力での圧倒的なアドバンテージを発揮した戦車の威力を目のあたりにすることになる。
実際、ネタバレになるので詳しくは触れないが、かなり凄惨な描写が多い、小銃中心の歩兵戦でなく、戦車砲と重機関銃による戦闘(とその物理量の人体への衝撃)がリアルに再現されているので、その手に弱い方は避けた方がいいかもしれない。
また、Political Correctnessが問われる昨今の映画の中でも、ナチスドイツは絶対的な悪と位置づけても問題がないからかもしれないが、逆にそれが「悪」に対するアメリカ人(に限らず人間)の残虐さを表現することにもなっている。
そこの部分は補充されてきた新兵の葛藤や聖書を愛する砲手などの登場人物がいいアクセントになっている。
カップルで来ている若者も多かったが、女性に感想を聞いてみたい感じもした。
ちなみに、米軍のM4シャーマン戦車は重量30t、一方でティーガー戦車は重量57t、それに応じて火力や装甲も差があるので戦闘力には大きな差が出るのだが、米軍は船で輸送する必要があるのでサイズに制限があったのは仕方のないことだったのかもしれない。
逆に言えば30tもの戦車を大量に大西洋を越えて輸送できる能力があったわけで、大日本帝国陸軍の戦車はせいぜい十数トン規模で(本土決戦用に大型の戦車が計画されたが実戦配備された数は極めて限られていたようだ)、それを考えると兵器開発能力だけでなく、彼我の兵站の差は圧倒的だったことに改めて気づかされる。
Fury Official Trailer (2014) Brad Pitt, Shia LaBeouf HD
神奈川県はこのほど、県内の12市町にまたがるロボット特区「さがみロボット産業特区」に、特区のイメージキャラクター・鉄腕アトムをあしらった歩行者用信号機を設置した。
こんなデザインです。
特区というからには信号についての規制を緩和したのだろうかと思い、調べてみました。
道路交通法施行令
(信号の意味等)
第二条 法第四条第四項 に規定する信号機の表示する信号の種類及び意味は、次の表に掲げるとおりとし、同表の下欄に掲げる信号の意味は、それぞれ同表の上欄に掲げる信号を表示する信号機に対面する交通について表示されるものとする。
(以下抜粋)
人の形の記号を有する青色の灯火
一 歩行者は、進行することができること。
二 普通自転車(法第六十三条の三に規定する普通自転車をいう。以下この条及び第二十六条第三号において同じ。)は、横断歩道において直進をし、又は左折することができること。
人の形の記号を有する青色の灯火の点滅
一 歩行者は、道路の横断を始めてはならず、また、道路を横断している歩行者は、速やかに、その横断を終わるか、又は横断をやめて引き返さなければならないこと。
二 横断歩道を進行しようとする普通自転車は、道路の横断を始めてはならないこと。
人の形の記号を有する赤色の灯火
一 歩行者は、道路を横断してはならないこと。
二 横断歩道を進行しようとする普通自転車は、道路の横断を始めてはならないこと。
と、どうやら歩行者用信号は「人の形の記号を有する」必要があるようです。
信号の「人の形」の規制について調べてみると、 2010年の構造改革特区要望において、 福井県がダイナソー特区で、歩行者用信号機を恐竜の形にさせてほしいと要望した事例がありました。
(参考)
以下抜粋、太線は筆者。
<プロジェクト名>ダイナソーバレー特区
<提案主体名>福井県
<制度の所管・関係官庁>警察庁
<要望事項>
歩行者用信号機の構造基準の緩和 求める措置の具体的内容 歩行者専用信号機の表示中の記号を「人の形」に限定する規定の撤廃道路交通法施行令第2条および同法施行規則第4条別表第1により人の形の記号を有する灯火が歩行者専用信号機とされている。この規制を緩和し、福井県立恐竜博物館周辺の歩行者用信号機においては、これを人以外の形でも可能とする。
<具体的事業の実施内容・提案理由>
【事業の概要】 福井県は、日本で発掘された恐竜化石の8割以上を占め、30体以上の恐竜骨格がある国内最大 級の恐竜博物館を有する。博物館は子どもから大人まで楽しめ、研究者も満足できる施設で、年間 約40万人が来館、うち8割以上は県外の方である。 県では、この恐竜という地域資源を活用し、観光誘客を図るため、九頭竜川流域の恐竜化石発掘 現場から中流域までを「恐竜渓谷(ダイノソーバレー)」として一体的整備を進めており、国道沿いの 道の駅に恐竜のモニュメントなども設置している。 こうした中、博物館周辺の信号機や横断歩道に恐竜を連想させるイラストなどを用いた公共的空 間を創出し、「恐竜王国ふくい」の活性化を推進する。
【提案理由】 恐竜博物館を中心にダイノソーバレーとして地域振興を図っているところであるが、歩行者専用信 号機や横断歩道などの交通標識は道路交通法によって全国一律の基準でその形態等が定められ ており、地域独自の工夫を施す余地がない。 この規制を緩和し、信号機等に恐竜のイラストを用いるなど観光資源と調和した交通標識の設置 を可能にし、地域全体の魅力を向上させ、観光客の関心を高めて地域振興につなげる。なお、道路 交通上の安全性に配慮した形状とする。
しかしこれに対して警察庁は冷たく拒否をしています。
<各府省庁からの提案に対する回答>
現行の歩行者用信号機の信号の形は、高齢者、弱視者、色覚異常者 を含め歩行者からの視認性を確認した上で定めたもので、特に、色覚異 常者にとっては、信号の形が重要である。 そして、歩行者用信号機の信号の形に恐竜の形を認めた場合、他の形を認めない理由はないため、様々な形の信号が現れ、歩行者用信号としての認知や歩行者用信号の視認性が確保できなくなるおそれがある。
したがって、本件提案を認めることはできない。
なお、地域振興のための信号柱等の利活用については、交通の安全の確保に支障のない範囲で、提案者と相談することが可能である。
この回答に対して、福井県と規制改革会議は再検討要請をして食い下がっています。
<提案主体からの意見>
道路交通法第76条第1項は、交通規制の実体が無い類似物件の設置によって、運転者や歩行者が誤認することを避けるための規制であるが、今回の提案は、類似物件ということではなく 信号機そのものの設置を求めるものである。 また、信号の形については、人に近い 二足歩行の恐竜の絵柄を用い、現行の人の形による「止まれ」と「進め」のように違いが明確に区別できるように工夫することで、色覚異常者等でも視認できるようにする。(特区計画認定の際に、 信号としての認知や視認性に配慮されたものに限定する。)
なお、海外では地域限定の信号機を用いている例が複数あり、人以外の形の信号機も実際に公道上で使われている。
<再検討要請>
右提案主体の意見について回答さ れたい。
その際、歩行者用信号機そのものの設置につき、恐竜型信号機の横に「これは歩行者用信号機です」という看板 (夜間点灯)を付けること等によって、 恐竜型信号機が歩行者用信号機であることを認知させることは十分可能であると考えられるが、この点についても回答されたい。
しかし、これについて警察庁は丁寧かつ断固として拒否しています。
<各府省庁からの再検討要請に対する回答>
歩行者用信号機は、交通事故死者の約半数を占める歩行者及び自転車利用者の安全の確保に極めて重要な役割を果たしているものであり、幼児、高齢者、障害者を含むすべての通行者が、歩行者用信号機を瞬時に迷うことなく歩行者用信号機として認知することができ、それに即した通行や運転 がなされるものでなければ、交差点を横断中の歩行者や自転車利用者が交通事故の被害に遭うおそれがある。このため、歩行者用信号機の信号の 記号の分かりやすさについては、色覚異常者、弱視者、高齢者を含めた確認も行われている。
人の形の記号を有する灯火が歩行者用信号機 の信号であることは、歩行者、自転車利用者、自 動車運転者等に広く定着しており、これ以外の形の記号を有する灯火を認めれば、特に児童、高齢者、障害者等の交通弱者の混乱を招き、これらの 者が交通事故の被害に遭う危険を高めることとなる。また、人の形以外の記号の灯火の横に看板を附置することで信号機としての認知を図ることについては、交差点を通行する際に、信号機の灯火以外のもの(看板等)の確認をも求めることとなり、移動中に瞬時の認識と判断が必要となる交通信号機として適切でない。
したがって、人の形以外の記号の灯火を歩行者用信号機の信号として認めることはできない。 一方、本件提案を踏まえ、地域振興等の観点から、信号機等の効用を妨げないために必要な措置をとった上で、恐竜等の形の記号の灯火を有する 信号機型の機器を歩行者用信号機に併設・接続して設置することができるよう新たな措置を講ずるこ とは可能である。
行政のコストについて考えさせられる一コマではあります。
今回の「アトム信号」が「人の形規制」を緩和したものだとすると、福井県から文句が来そうです。
規制緩和ではなくこれが認められたとすると、この信号が警察庁に「人の形」と認められたということになります。
警察庁としては、鉄腕アトムは「人型ロボット」なので、信号機が人の形をしてさえいれば、中身・実態・それが表象するものがロボットだろうがなんだろうがかまわないということなんじゃないかと思います。
逆にたとえば「恐竜の着ぐるみに人が入っている」という説明をしようが、外形が人の形をしていなければだめ、ということで福井県の例とは整合性を取れるということになります。
一方で、日本のロボット開発は二足歩行・人型にこだわったためにルンバのような製品の開発が遅れたという意見をどこかで読んだことがありますが、「ロボット産業特区」のシンボルとして人型として警察からお墨付きまでもらったロボットである鉄腕アトムを使うのは、ある意味象徴的ではあります。
最後に、どこまでなら「人の形」なのかという思考実験をゲゲゲの鬼太郎のキャラクターをもとにやってみます。
鬼太郎
これはアトムがOKなら大丈夫そうです。
ただ、髪型でしか特徴が出せないのでデザインが難しそう。
ねずみ男
こっちの方が信号機にするには特徴は出しやすそうです。
ネコ娘、砂かけばばあ、子泣きじじい
シルエットにしてしまうと、普通の子どもや老人になってしまってキャラクターとわからなくなりそうです。
ぬりかべ、ぬらりひょん
これは明らかにアウトだと思います。
個人的にも、これを信号にすると信号機としての機能を果たさなそうな気がします。
問題は
目玉おやじ
手足がついているし、人の形とも言えそうです。
デザイン的にも遊べそうです。
ただ、警察庁的にはどうでしょうか?
水木しげるロードを観光の目玉にしている鳥取県の平井知事には、蟹取県に改名などと言ってないで、規制緩和(突破)にチャレンジしていただきたいと思います。
ちなみに人の形であれば動くものであってもいいようですので(参考: 動く歩行者用信号機の試験設置の様子 in 長野 )、目玉おやじが大手を振って歩く歩行者用信号を見てみたいものです。
参考までに台湾で見た動く絵柄の歩行者用の信号を載せておきます。