エド・マクベイン「87分署シリーズ」の最後の作品で、遺作でもある。
87分署シリーズは大学生の時に出会ったのだが、そもそも第一作が1956年と自分の生まれる前であり、その時点で既に30冊以上あった。
ハヤカワミステリ文庫(今はハヤカワHM文庫)になっていた旧作を一気読みして、それ以来新刊で出るハヤカワミステリ(小口と天地が黄色いやつ)を都度買っていた。
エド・マクベインは2005年に亡くなり、本書の刊行は2006年。名残惜しい感じがして購入してから今までずっと読まずにいた。
今回年末休みで「一気レビュー」するにあたり、大トリにふさわしいであろうと、昨晩一気に読んだ。
87分署シリーズは、ニューヨークをモデルにした架空の都市「アイソラ」を舞台にした警察小説。
複数の事件が同時進行する構成のうまさに加え、その時代を反映した事件や背景、刑事たちの人生・恋愛模様という横糸も魅力となっていた。
特に黒人・白人・ヒスパニックだけでなく多様な宗教・オリジンを持つ人々が生活する様子を、ちょっときつめのユーモアを交えて描くのがマクベインの真骨頂であり、毎回新しいが安心できる熟練技を見せてもらっていた。
本作は犯人が末期がんに侵されている、という設定になっている。ちょうどこれはマクベインが2004年に癌の手術をした後の作品になり、訳者の解説によれば次回作とシリーズ最終作の構想もあったようだが、ある程度は遺作となることを意識していたのかもしれない。
今回は87分署の刑事部屋の面々だけでなくよく登場する他の署の刑事や恋人など主要登場人物がもれなく顔を出している(たまに1,2名欠けることがある)のもその理由。
特に87分署の刑事の古株で主人公キャレラの相棒であるマイヤー・マイヤー(いかにもユダヤ系の名前と禿頭の風貌も含め、ユダヤ人ネタには欠かせないキャラでもある)が、ずっと出てこないと思ったら最後の犯人逮捕のシーンに2行だけ登場する。
そのシーン
・・・チャールズ(犯人)が素早くベッドの脇のテーブルに置いてあったグロックに手を伸ばした。
「触るな、禿げ」マイヤーが叫んだ。
自分のことは棚に上げてよく言ったものだ。
「いきなり出てきてこれかよ」と、深夜に思わず吹いてしまった。
このセリフを言わせるためだけに最後に登場させて、全員登場を完成させるとは、最後の最後までサービス精神旺盛な人でした。
改めて合掌。
では皆様、良いお年を。