衆議院選挙が公示されました。
私の選挙区では自民党、民主党に共産党と「刺客」もなく話題性に乏しい上に、前回小選挙区で落選した議員も比例区で復活当選しているので今ひとつ面白くないな、と思いながら、以前読んだ「日本の選挙」を読み返してみました。
その前に、現在の衆議院議員選挙制度のおさらいですが、「小選挙区比例代表並立制」と言われているように、
① 各選挙区では1人の当選者を選ぶ(候補者に投票)
② 比例区はブロックごとに10~20の定数で、政党ごとの当選者数を決定する(政党に投票)
②-1 政党ごとの当選者数は各党の得票数を1,2,3の整数で割っていき、その商の大きい順に定数に達するまで議席配分していく(「ドント式」と呼ばれる)。
政党 A党 B党 C党 D党 E党 得票数 12,000 6,600 5,000 3,200 2,400 1で割る ① 12,000 ② 6,600 ④ 5,000 ⑦ 3,200 2,400 2で割る ③ 6,000 ⑥ 3,300 2,500 1,600 1,200 3で割る ⑤ 4,000 2,200 1,660 1,066 800 4で割る ⑧ 3,000 1,650 1,250 800 600 獲得議席 4 2 1 1 0 ②-3 各政党の当選者は名簿の順位で当落が決まるが、名簿順位1位に5人の小選挙区との重複立候補者の名を並記することが多い。この場合の同順位の候補者が小選挙区で落選した場合、その小選挙区で当選した候補者との票の差を指数化した「を惜敗率」によって順位を決定する。
というしくみになっています。
「日本の選挙」という本は、選挙制度の設計とそれぞれのもつ意味合いを非常に丁寧にまとめている本で、その中で現行の衆議院選挙制度についての「よくある誤解」として以下のことをあげています。
- 比例代表制(またはドント式)は大政党に有利、という誤解
確かに1,2,3と整数で割っていくドント式だと、多少大政党に有利なため1.3.5.7と奇数で割る「サント・ラーゲ式」やスカンジナビア諸国では最初だけ1.4で割り、あとは3,5,7の「修正サント・ラーゲ式」などもあるが、これは「やや有利」というだけで、選挙区が大きく定数が100近くなれば、どの方式をとっても結果は変わらない。
そもそも比例代表方式は(小選挙区制などと比べて)小政党に有利な制度であり、算定方式だけをもって議論するのはおかしい。 - 「二大政党制=二党伯仲状態」という誤解
そもそも小選挙区制は小さな得票率の差を大きな議席差にする制度なので、そのときどきの議席差は開きやすく伯仲状態になるのはまれである(そもそも政党制論の学問上の二大政党制の定義には「伯仲状態」はない)。
また、二大政党(単独政権)になっていないのは、小政党も議席を獲得しやすい比例代表性を並立しているからにほかならない。 - 「ゾンビ議員」批判の誤解
小選挙区で負けた議員が比例区で「復活」するのはおかしい、という批判だが、開票作業で比例区の方を先にすると印象は変わってくる。
たとえば東京ブロックの比例区で自民党が6議席を獲得すると、重複候補の議席は既に確保され、その後選挙区で落選しても議席は確保される(選挙区で当選すれば比例区の後順位が繰り上がり)。「ゾンビ」呼ばわりは不当で、政党本位という点さえ確認できていれば問題はないはず。
確かに、選挙区で何票獲得しようと比例区での各政党の当選者数は比例区の得票だけで決まるわけです。
ややこしいのは「名簿同順位は惜敗率で決める」という小選挙区の論功行賞を反映する部分がからんでくるからなんですね。
比例区は誰が議員になるかを選ぶしくみではないのと、選挙区でも「誰を落選させるか」を投票しているわけではないことを自覚しないといけませんね。
何となく頭の整理がついた感じがします。
そうなると、比例区議員の党議拘束は厳しくてしかるべきなんでしょうから、やはり「対立候補」という表現はおかしいわけですね。
一方、この本の著者は提言として
衆議院のブロック別比例代表制の候補者名簿の決定は本来なら地方が主導権を持って行うべきだが、ブロック別の地方組織が整っていないこともあって、現在は中央主導で決定がなされている。これでは、せっかくブロックを分けている意味が半減する。
と言っています。
確かに今回の自民党の「対立候補」「刺客」問題は、地方対中央の利害調整と党議拘束という自民党のガバナンスの問題が根本にあると思います。
これは民主党が議席を拡大していった場合にも直面する(既に直面している?)問題ですね。
その意味では、「新党大地」は地域政党という有意義な問題提起をしたことになります。
ということで、今さらながら基本のおさらいが出来たので、「選挙区は誰に、比例区はどこに」投票するかをゆっくり考えようと思います。
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