一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『会議の政治学 Ⅱ』

2015-02-28 | 乱読日記

著者の森田朗氏は、現職は国立社会保障・人口問題研究所所長で、同時に中央社会保険医療協議会会長その他政府の審議会の座長や委員を数多く歴任している。

本書は前著『会議の政治学』のあとがきで「本書は初級・中級編である」と書かれたこともあり、関係各所の期待が高まる中での満を持しての続編である。

本書では審議会における「顔」の立て方-相手の「顔」をつぶさず、自分の顔も立てつつ議論を自分に有利に進める(座長の場合は議事を円滑に進める)テクニックを中心に論じている。

本書の内容も、前著同様、政府の審議会だけでなく会社での会議への応用も効く。
たとえば意思決定者が主宰する「御前会議」や同席している「臨席会議」における委員のふるまい方などの分析は面白い。


また前著との間の一番のイベントであった民主党への政権交代と「政治主導」下における審議会の功罪についてもふれている。  

 これまで審議会等で同席した大臣その他の政務の諸氏の印象をあえていえば、かなりの方がよく勉強して、専門知識の基本を習得している上に、いわゆる有識者の発想を超え、広く社会状況を考慮された思考を示されていたと思う(中略)。  
 しかし、多くの政務の諸氏は、忙しすぎるのか、関心がないのか、基本的にその課題についての知識を欠いているのか、長年にわたって蓄積してきた専門的知識を充分に理解しないままに、自身の経験と知識のみで判断していたように思う。
 そうした政治家も、自身で自分の能力の限界をよく理解している人は、謙虚に議論の流れを尊重し、議論の本質に関わるような点については、極力触れないようにする配慮を示す。しかし、自己の能力を客観的に把握できない人もたまにいて、彼らは、政治家としての威信を示そうとして、余計な意見を述べる傾向にある。

ここの「大臣その他の政務の諸氏の・・・かなりの方」と「多くの政務の諸氏」、「たまに」いる自己の能力を客観的に把握できない人という書きぶりなどは、まさに相手の「顔」をつぶさないようにしながらも自らの主張を通す技法の面目躍如といえよう。

読むほどに味わい深い本である。


 

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『健やかに老いるための時間老年学』

2015-02-26 | 乱読日記
いいことが書いてあるのだが残念ながら消化不良。

人間には「生体時計」というリズムをつかさどる機能があり、それは、0.1秒、1秒~12時間という短いリズムから3.5日、1週間~10.5年、21年という長いリものまでさまざまなリズムが組み込まれている。
それらは睡眠時間やや生活リズムを規定するだけでなく、またある種の病気が発病しやすい時間帯や投薬の効果の出やすいタイミングにも影響することがわかってきたそうだ。

そこまではいいのだが、本書は非常に盛り沢山なことが書いてあり、古今東西の天文学から時間概念、はては養生訓まで言及する一方で、糖尿病や心筋梗塞、睡眠障害から認知症患者の時間認識まで現代医学の成果もてんこ盛りになっている。
著者の講演を聞いたり他の著書を読んでいる人にはわかるのかもしれないが、これらが系統だって論じられていない感じがする。

さらに、結論的には「規則正しい生活とバランスのいい食生活が大事」というきわめて普通の話になる(もっとも朝は比較的どのようなものがいい、などという指摘はあるが)。

自分的には消化不良で中途半端な感じが残ってしまった。

出版元のミシマ社はウェブサイトも楽しく、視点が面白い書籍も多く編集者と著者の距離感が近い感じで楽しそうに作っているのだが、今回はその距離の近さと自分との相性が悪かったようだ。

ちょっと残念。




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『サラバ』

2015-02-24 | 乱読日記
かなりボリュームのある小説なので積読になるおそれが高かったのだが、季節外れに罹ったインフルエンザの病み上がりの暇なときに一気に読了。

とても面白かったので、自分のつまらない感想を読む前に本を読むことをおすすめする。




あらすじはネタバレになってしまうので省略するが、語り手である主人公が「語り手」から「主人公」になる物語。

最初は、面白いがどこに着地するのかわからないように見える物語が、下巻に入るあたりから一つの方向に加速し、最後の大団円を迎えるまでの構成も見事。


歳を取るとなかなか小説に素直に感動しないようになってしまうのだが、とても面白かった。





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airbnbが日本で広まらない理由

2015-02-22 | よしなしごと

良記事。
Meet the Unlikely Airbnb Hosts of Japan 

個人が自分の部屋を旅行者に貸し出すairbnb(ウェブサイトはこちら)というシステムが日本ではなかなか広がらないことのNYTのレポート。

airbnb社の人に同行しその意見を聞き、実際に日本でのairbnbに泊まったり貸し手にもインタビューしています。
日本人のメンタリティの問題、貸し手が特殊な人から広がらない、近所迷惑のクレームを恐れておおっぴらにやれないなどの文化・風土的な問題や旅館業法の問題など幅広く取り上げています。
分析としてはかなりあたっているんじゃないかと思いますし、airbnb社も十分認識しているようです。

さらに象徴的だったのが、筆者が泊まった(インタビューした人とは別の貸し手の)部屋。
それは渋谷のラブホ街にあるマンションの一室で、単に鍵が空いてるだけで貸し手とも顔を合わせず、マンション自体も他の住民の生活感がない、しかも部屋の地図は捨てずに持って帰れという指示があるそうで他国のabbと比べた違和感を指摘しています。
これは日本人から見れば、どう考えても管理規約違反だか税金逃れの資産運用だか怪しい雑居ビルの埋め草という筋の悪い商売に利用されているんじゃないかという話で、そういう人の商売としてairbnbが「日本的発展」を遂げつつあるとしたら、そっちの方が長期的には問題な感じがします。
事業の拡大も重要でしょうが、一定の品質管理をせず怪しい案件が広がると旅館業法の規制緩和とかを正面から議論する前に自滅しかねないのでちょっと心配です。
火事でもあって「善良な外国人観光客」が亡くなったりしたら一発でアウトなので。


あと本文中にあった日本人のメンタリティについてのリサーチ-これもairbnbが広がらない理由の一つとされている-が面白かったので紹介します。

According to the Hofstede Center, an institute specializing in intercultural business practices, uncertainty avoidance has to do with “the way a society deals with the fact that the future can never be known: Should we try to control the future or just let it happen?” The 30 pages of navigational instructions seemed a vote in favor of control. The center’s portrait describes Japan as a pragmatic culture that emphasizes collectivism and hierarchy and as “one of the most uncertainty-avoiding countries on earth.” (Apparently Greece and Uruguay also don’t enjoy uncertainty.)

予見可能性を大事にすると「おもてなし」といういのも相手がこちらの期待する反応をすることが前提にある、すなわち客側にも「しきたり」を守ることを求めるというところにつながるとすると、「おもてなし」と言いながら実は押し付けになっているというデービッド・アトキンソン氏の指摘も一理あるかもしれません。

ふと思ったのですが、これは日本企業の接待の「様式美」にも共通するものがありますね。



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北陸新幹線試乗会

2015-02-08 | うろうろ歩き

北陸新幹線の試乗会に参加させていただきました。


大宮で集合。
今のダイヤの合間に走らせるためか、受付や誘導の関係でしょうか。
確かに東京駅や上野駅だと混乱しそうです。



開業は3月14日


臨時ホームで待つことしばし。

入ってきました!


カモノハシ型からまたトレンドが変わったようで、伝統的な外観。

 

北陸新幹線は高崎-上越妙高間がJR東日本、上越妙高駅 - 金沢駅間がJR西日本の管轄

車両も東日本のE7系と西日本のW7系と分かれますがほとんど同じだそうです。
(これもどちらかは未確認)


運転席。

「操縦席」の方が似合いそうです。


パンタグラフ。
空力性能をを重視した感じです。

下の台のところまで赤く塗ったら「シャア専用」ですね。


今日は「団体」という扱い。



では車内の様子。

普通車は5列なので座席の幅はほとんど変わりません。
足元が若干広いかもしれません。

落ち着いた色調でまとめています。


 

椅子の背に収納したテーブルの裏面にある細かい解説。

枕が上下に動かせるのは新しいですが、車両清掃の人は忙しくなりそうです。




AC電源は60Hz

北陸新幹線は中部電力(60Hz、新高田き電区分所まで新長野変電所から送電)、東北電力(50Hz、新高田~新糸魚川き電区分所まで新上越変電所から送電)、北陸電力(60Hz、新糸魚川き電区分所以西、新黒部変電所から送電)と周波数が違います。佐久平以東の東京電力(50Hz)を含めると電力会社が4つ、周波数が3回切り替わります。
しかも停電などの非常時は両側の60Hzの変遷所から60Hzの電気で加圧する方式をとっているため、周波数の違う電波を拾って事故にならないようにATC装置も周波数を確認して自動で切り替わる装置を開発したそうです。
(参考


座席下のコンセント


窓側の席用のコンセント。

 

 つぎにトイレ回り

こちらも落ち着いた色調です。


目新しいのが、女性専用トイレ。

通路から直接入るのでなく、踏み込みが入って独立した洗面所とセットになっています。
トイレから出るといきなり通路になっているよりいいですね。

トイレの反対側にある洗面所。
側面まで鏡が回り込んで三面鏡風に使えます。




こちらは男女共用トイレ

扉を開けたらいきなり自動で蓋が開いてびっくりしました。
便座開閉も電動です。
当然ウォシュレットつき。

左の隅におむつ交換用のベッドもあり、至れり尽くせりです。

車両に一か所、車いす用のトイレもあるそうです。

ちなみに男性用小便器は普通。


 


トイレの話のあとになんですが、お弁当が配られました。
(車内販売はなし)




なかなか豪華。
美味しゅうございました。

このまま発売してほしいです(できれば1500円くらいで)


「汁なしのっぺ」と「豆腐田楽」はグランクラスのメニューにも載るそうです。





「ミス百万石」が金沢のPRに回ってきました。



手に持っている「ひゃくまんさん」というのが北陸新幹線開業PRマスコットだそうですが、これ、「ゆるキャラ」というには凛々しいうえに絢爛豪華で媚びていないところが個人的には気に入りました。

ひゃくまんさん公式ホームページ


さて、列車の旅と言えば楽しみなのが車窓の景色ですが、これが今回予想外だったところ。

ぜひ海側の景色を見ようと受付時間の一番最初に行って、進行方向右側の窓際の席を確保しました。



軽井沢を過ぎると浅間山がきれいにみえます。





菅平付近から志賀高原方面





長野を出てしばらくは山の雪景色を楽しめます。

しかし5分くらいでトンネルにはいります。

そこからは、飯山、上越妙高、糸魚川、黒部宇奈月温泉と、トンネルの切れ目に駅がある、という感じで、海どころかほとんど景色を眺めることもできません。


飯山駅手前の雪景色

 

上越妙高の手前、頚城平野に出たところ。


糸魚川駅手前


糸魚川駅を過ぎて、「あ、海が見えた」と思ったら

すぐトンネル


しかも、トンネルの中は携帯の電波が届かないので、本でもないと手持ぶさたの上に携帯の電池も消耗します。

既に、「北陸新幹線、1時間は携帯圏外 トンネル内、電波届かず」などと話題になっているようです。
この記事によると長野―金沢(延長約228キロ)のトンネル率は44.3%とのことですが、長野~黒部宇奈月温泉間でいえば体感70%くらいがトンネルです。

wifiの設置はコスト的に難しいのかもしれませんが検討してもらえるとありがたいです。


黒部宇奈月温泉付近
といってもわかりませんねw

 

黒部宇奈月温泉を過ぎていくつかトンネルを抜けると、ようやく富山平野に出ます。


富山市街が近づきます。
高層ビルはインテックの本社。

 

富山駅に到着。

一番速い「かがやき」は大宮を出ると長野・富山・金沢にとまります。今回は長野・富山は時間調整で停車するだけでした。


景色のことでもう一つ印象的だったのが、橋の設計の発想。

北陸新幹線は日本海にそそぐ河川にたくさんの橋梁がかかっています。
トンネルも含め、新技術を投入して学会などで様々な賞を取っているものが多いと配布されたパンフレットにも書いてありました。

たとえば糸魚川駅の西にある姫川橋りょう
H19年PC技術協会賞(作品部門)に輝きます。

全長が462mの7径間の連続PCフィンバック型式により形作られる本橋の外観は、隣接する高架橋との連続性を有し、背景の山並みに溶け込むなど周囲の景観に調和し、北陸新幹線長野-金沢間のシンボルとなっています。

といいますが、これを車窓からみると




自慢のフィンが邪魔になって数少ないチャンスにも海が見えませんw



富山駅の西側にある神通川橋りょう
こちらはH25年度PC工学会賞(作品部門)に輝きます。

配布資料によると

 道路橋では支間長が長くなる場合、構造物を軽量化できるPC斜張橋が代表的ですが、高速走行する新幹線では、軌道にミリ単位の精度が要求されるため、桁のたわみを抑える必要があります。
 そこで、道路橋でよく使われる斜張橋と、鉄道でよく使われるコンクリート橋(PC橋)の長所を組み合わせたPCエクストラドーズド橋を採用し、更に桁のたわみを抑制する技術等を考案することで、この問題を解決し、今後の橋梁技術の発展に大きく寄与するものとして高く評価されました。

ということです。

で、車窓からみると

 
斜張橋のワイヤが視界のなかで上下に動き回るのでとても気になります。


新幹線の橋というのは、技術的なチャレンジや外観を重視して、車内からの眺めの優先順位というのは相当低い(または考慮されていない)ようです。



金沢到着。
大宮から2時間10分です。速い。


柱の金色の装飾がゴージャス



開業準備中を感じるところが試乗会っぽくていいです。




ホームの椅子は座り心地よさそう。荷物置き場もあります。




階段の上部の壁。どんな照明がつくのでしょうか。
それとも広告ボードがつくのかもしれません。


ホームと改札の中間階にある待合室。豪華です。
特に冬場の寒い金沢では重宝しそうです。




新幹線改札ではいろいろな「ミス○○」たちがお出迎え。



今回「試乗会」なので、駅の改札の外には出られず、また、折り返しの電車にすぐ乗るので40分程度しか金沢での自由時間はありませんでした。

でも、新幹線改札の横にある「あんと」というお土産コーナーはお菓子や寿司などとても充実していました。
試乗の客が一斉に押しかけたのでものすごい混雑でした。


駅のコンコースも追い込み工事中。



開業まであと35日(2/7時点)


ご丁寧にお見送りいただきました。


 

帰路、金沢を出てしばらくしたところで、正面に立山連峰が見えました。
海側に座っていたのですが線路が南の方に向いて進むところがあるようです。


帰りはコンセントのお世話になりました。


長くなりましたが以上です。


富山・金沢は食も見どころも多いので、東京からでも2時間半で行けるとなると週末ちょっと行ってこようかなという感じになります。


今回の試乗からの教訓は

・海側の席をとっても眺望はほとんど楽しめない(逆に山側のほうが平野部にでた富山以西で立山連峰が眺められるのでいいかもしれない-未確認ですが)

・携帯やネット接続機器は使えない時間が多いので、本や雑誌などは必携

というところでしょうか。

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『イギリス人アナリスト 日本の国宝を守る』

2015-02-03 | 乱読日記

最近「イギリス人(英国人)○○、××をする」というタイトルが流行りのようで、自分自身も これこれを読んだ。

さて、本書の著者は、バブル崩壊時に、ゴールドマンサックスのアナリストとして日本の銀行が巨額の不良債権を抱えていると喝破したデービッド・アトキンソン氏。
氏は、若くしてリタイヤし、悠々自適の生活をしていたところ、請われて文化財の修復を手掛ける小西美術工藝社の社長に就任したという経歴の持ち主。
私の世代にとっては有名人なのだが、今や「イギリス人アナリスト」というタイトルを付けられてしまうのは時代の流れを感じる。

タイトルからは文化財の修復の経験やアナリストの「杵柄」を通じて日本の観光産業の問題点と成長の可能性について鋭く切り込む、という内容を期待していた。
実際後半はその通りなのだが、前半はアナリスト時代に感じた日本の会社(特に銀行)の文化や意思決定のおかしなところについての話が中心になっている。

あとがきを読むと、「30年間のアナリスト人生の「結晶」が本書です。」とあり驚いたのだが、引退後今まで著書を出していなかったので、以前は言えなかったこともまとめて言ってしまおう、という気持ちもあったのかもしれない。

確かに「数字に基づく分析や議論をしない」「シンプル・アンサーが大好き」(注:「アベノミクス」「第三の矢」「成長戦略」などのスローガンが好きでそれで解決した気になってしまう)というあたりは、観光政策に切り込む切り口にもなっているのだが、個人的には後半部のボリュームを増やした方がより面白いものになったと思う。


さて、その後半部。
著者は日本の観光産業に対する日本人の誤解について切り込んでいる。

  • 世界ではGDPに対する観光業の貢献度は平均約9%だが、日本は約2%にすぎない。
  • 観光客の一人あたり消費額が高い国民は上位から豪、独、加、英、仏、伊、露の順だが日本への観光客上位は台湾、韓国、中国、タイという金を使わない国。金を使う客をターゲットにすべき。
  • 外国人観光客の総数を増やすのも大事だが、カネを落としてくれるオーストラリアやヨーロッパからの観光客に響くような施策(観光消費・リピーターを増やす)を打つことで、観光産業は発展の余地があり、雇用やGDPにも貢献する。
  • しかし一方で五輪招致以降「おもてなし」が話題になっているが、日本では(高級旅館も含め)サービス内容は供給者側が決め客はそれに従う、という形が多い。
    本来「おもてなし」ができているかどうかは客が決めることであり、一部の高い評価を全体の評価にこじつけると問題点が見えなくなる。
  • 特に遅れているのが文化財の分野。
    たとえば文化財の豊富な京都の外国人宿泊者数は113万人(2013年)京都を訪れる外国人客を約200万人と見積もっても、大英博物館一館の外国人客数420万人に遠く及ばない。また、京都を訪れる外国人観光客の一人あたり消費額は13000円弱に過ぎない。
  • これは日本の文化財保護政策に問題がある。
    日本の文化財指定は建物ごとにしか適用されないので、本殿は立派に修復されているが門はぼろぼろというものも多い。
    また、由来や歴史・背景にある文化の解説は貧弱(日本人ですらスマホで調べながら見学している)なうえに、「動態保存」がされていない(たとえば「茶室」とあるが畳の部屋だけで器や茶釜、掛け軸、茶花もないのは調度品のないバッキンガム宮殿やウインザー城のようなものだ) ・文化財行政の目的は「保存修理」であり、訪問者に「楽しんでもらう」という視点がなく、「楽しみたければ勉強してから来い」という供給者の論理になっている。

言ってみれば

「観光産業として、金払いのいい人に気持ち良くお金を落としてもらうにはどうするか?」

というマーケティングの基本なのだが、「クールジャパン」「和食」などコンテンツ主導だったり「訪日観光客数」という質でなく量重視の議論がされがちな中では貴重な指摘だと思う。


 

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『イスラーム国の衝撃』

2015-02-01 | 乱読日記

週末にレビューを書こうと思っていたら、後藤健二さんのニュースが飛び込んできてしまった。
非常に残念であると同時に憤りを感じる。

政府の対応については、水面下で何が行われていたかは表に出しようがないので(水面下の話が漏れるようではそれこそ政府として問題)、当然マスコミや一般人には情報はなく、TwitterのTLなどではその人の安倍政権に対する好き嫌いの表明になっている感じがする。
逆に政府も結果に対してしか責任の取りようがないので、それだけに日頃の国民からの信頼が重要ということだろう。


さて、本書。
著者の池内氏は中東地域研究、イスラーム政治思想の専門家であり、著書も多数。
タイトルは出版社サイドが営業的な観点から決めたのだろうが、内容的にはアジり・決めつけなどはなくイスラーム国について一般に流布している誤解を解いたり、背景をきちんと説明している。

本書では911以降のアル=カイーダからグローバル・ジハード、イスラーム国に至る流れを丁寧に解説する。
さらに、イスラーム国はイスラム世界に突如として登場してきたものや、新しい主張ではなく、過去の中東の秩序とイスラーム世界の歴史から生まれたものであり、今イスラーム国が登場したこと自体が現在の中東の思想的・政治的状況の反映であると俯瞰する。

  「1914」(注:第一次世界大戦の勃発)は、アラブ世界に民族と宗派に分断された複数の国家を残した。それを超えると称する「イスラーム国」は、「1952」(注:エジプト・ナセルのクーデタと民族主義の高揚)や「1979」(注:イラン革命とイスラーム主義・ジハード主義)に掲げられたイデオロギーの断片を振りかざすが、独裁や抑圧や宗教的過激主義・原理主義といった、それらの画期に伸長した勢力の負の側面を受け継いでさらに強めた。「1991」(注:湾岸戦争)に確立された米中心の中東秩序に挑戦したのが「2001」(注:911)だが、それに対する対テロ戦争の追撃を受けて世界に拡散した過激思想と組織が、米国の覇権の希薄化と「2011」の「アラブの春」をきっかけに、(注:①中央政府の揺らぎ、②辺境地域における「統治されない空間の拡大」、③イスラーム主義穏健派の退潮と過激派の台頭、④紛争の宗教主義化、地域への波及、」代理戦争化の帰結として)「イスラーム国」という形でイラクとシリアの地に活動の場を見出した。・・・  

 「イスラーム国」は、中東近代史の節目ごとに強硬に発信されてきた、反植民地主義や民族主義、そして宗教原理主義といったイデオロギーを現実に実践して、その負の側面や限界、そして危険性をあからさまに体現してしまった。・・・  

 「2014」は、過去の変動期に解決されずに抱え込んできた問題が噴出し、過去の不十分な取り組みの帰結や負の要素を清算しようとする、それ自体が新たな問題を引き起こす解決策が試みられた、構造変動の軋みが表面化した年と言えよう。この年に現れた「イスラーム国」は、当事者や共感する者たちから見れば、症状を一気に解消する「夢の療法」なのであるが、実際には、中東の抱えた問題のいわば「症状」なのである。それは、中東・イスラーム世界の近代化の帰結であると共にその不全の表れであり、それを乗り越えようとする困難な試みという側面を兼ね備えている。その試みの多くは、不調に終わるだろうし、さらなる混乱をもたらすだろうが、不可抗力的・不可逆的な変化の一環だろう。

また、イスラーム国の実態についても、多方面のデータや情報そして著者の知見を使って、素人にもわかりやすく描いている。
「イスラーム国の衝撃」を易しくかみ砕いてみたでも紹介されているが、今回もなされたネットでの動画公開に代表されるようなメディア戦略に長けていること、また、それらの声明・文書もイスラーム教の教義体系の中から有用な概念やシンボルを選び出して自らを正当化するプロパガンダであるという指摘など、役に立つ部分が多い本だと思う。


余談だが、メディア戦略といえば、今日の安倍総理のインタビューを見て思ったのだが、この人は大きな言葉・強い言葉を使うほど不自然で気持ちがこもってないように聞こえてしまう癖があるような感じがした。


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