一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『クライシス・キャラバン―紛争地における人道援助の真実』

2015-08-22 | 乱読日記

戦争や内乱、部族紛争、飢餓、難民問題などにおいて人道援助団体の活躍がしばしば報道されているが、それぞれの団体は資金提供者にアピールする必要があるため、「アピールしやすい」「他の団体もやっている」「テレビで報道される」援助に殺到しがちであるが、実はそれが現地での戦争や紛争を助長することになっている一面がある、ということを、数々のしかも有名な事例から具体的に説き起こしている。

たとえば
フツ族によるツチ族の虐殺から始まったルワンダ内乱はツチ族の軍隊によって制圧されたが、その結果大量のフツ族難民が隣国コンゴにあるゴマの難民キャンプに押し寄せた。 しかし、その難民キャンプは、フツ族の過激派によって支配されていて、援助物資や現地人スタッフの(法外な)給料は過激派の資金源になり、国境を越えてルワンダのツチ族への攻撃に使われている。

また、
アフガニスタンでは、テロとの戦いのもとに、人道援助を装った空爆中の食糧投下や文民を装った特殊部隊の投入によるタリバンと縁を切ることをバーターにした食糧援助などにより、人道主義者と「テロとの戦い」の部隊との区別がつかなくなった。 その結果、アフガニスタンにおける人道援助は非常に危険なものになり、NGOスタッフはほとんど表に出ず、現地人を使って援助プロジェクトの写真だけをドナーに報告するようなものになっている。
その過程で援助資金はほとんどが無駄に使われ、事実上の略奪、「アフガン詐欺」とカブールでは言われている。


たぶんそういう部分もあるよな、とは思っていたが、ここではNGOのいて構造的なエージェンシー問題が--(効果にかかわらず)援助の実績(資金を使ったこと)をアピールしないと次の資金が集まらない--が起きていていることがわかる

そして一方で、援助を受ける側はそれを見越して、より精巧なマーケティングを仕掛け、それによって現地での悲劇が増幅される結果になる。

・・・彼らは欧米の援助世界に行動を促すメカニズムを、半世紀以上にわたって研究し試してきたのだ。犠牲者のグループは、どのように人道援助世界が動いているかについて、しだいにとてもよく理解するようになってきているようだ。戦争状態にある国々の人々でさえ、インターネットにアクセスしている。ほとんどの難民キャンプにはCNNが映るテレビがあり、そのため難民たちは「自分たちが」どのように犠牲者を演じているのかがわかっている。彼らは期待されているイメージに合うようにと学習しているのだ。


 人道主義者たちは赤十字原則-中立性、独立性、公平性-の高潔さを自身の前に盾のように備えており、原則はそれによる帰結よりも重要だということを自明のことだと考えている。避けれらない人道的な義務があるのだ、と彼らは主張する。たとえもし悪いやつらを利するとしても、彼らには人々の苦しみを和らげること以外に選択肢はない。

 問われるべきは、「それなら、ただたんにまったく何もしないでおくべきかどうか」ということではない。問われるべきは次のようなことだ。戦争当事者による搾取を考慮しても、援助によるプラスの効果を推し量るとするなら、どこに分岐点があるのか、そして人道援助が倫理的でなくなる地点はどこなのか?
 人道的危機はほとんど常に政治的危機か、あるいは政治的な解決だけが存在する危機である。ドナー、民兵組織や政府軍、それにとりわけ我々の国の軍隊やNATO軍が人道援助で政治的に画策するとき、NGOは政治に無関係ではいられない。

著者はフリーのジャーナリストだが、危険地帯に行くジャーナリストの面目躍如という著作にmなっている。


 

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『How Google Works ―私たちの働き方とマネジメント』

2015-08-20 | 乱読日記
書籍としての完成度がすばらしい。

優秀なメンバーのチームで優れた製品を作り出す、というGoogleの作法で作った本であり、それ自体が優れたPRになっている。

全体の構成だけでなく、個々のエピソードから、小説や映画から引用される名言・名せりふ、そして各章の末尾についているコラムまで面白く、かつ隙がない。

巻末の「謝辞」を読むと、本書が数多くのGoogleのメンバーや出版社のチームによって作られたことが面白おかしく書いてある。そこでは本書は「プロジェクト」と表現されている。

この本事態が"How Google Works"を表していると思った。


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『HHhH (プラハ、1942年) 』

2015-08-18 | 乱読日記
文学の新たな可能性を感じさせてくれた作品。


できれば私のくだらないレビュー(やamazonなどでの優れたレビュー)を読む前に、予断を持たずに読んでみて欲しい。



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以下、くだらないレビュー
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ジャンルとしては歴史小説になるのだろう。
ナチスドイツ占領下のチェコスロバキアに副総督として着任したナチスの高官ラインハルト・ハイドリッヒ--ユダヤ人虐殺を計画・指揮した男で、表題の「HHhH」はHimmlers Hirn hei't Heydrich「ヒムラーの頭脳はハイドリッヒと呼ばれる」の略からきている--の暗殺を企てたチェコ人とスロバキア人の二人の男たちを軸に、小説にしようと思い立って以降事件に取り憑かてしまった作者の思いや創作という行為自体への揺れを、一冊の文学にまとめてしまっている。

最初は歴史小説なのかノンフィクションなのかエッセイなのかわからないまま読み進んでいくと、最後にそれらが一つにまとまって、圧倒的なクライマックスを迎える。

読者を小説の舞台に引き込むのが小説の醍醐味だとすると、それは見事に成功している。
しかも、登場人物だけでなく、作者とも一体になりながら作者が事件に引き込まれる瞬間も同時に体験できるという、いわば「一粒で二度(というより二倍)おいしい」作品になっている。

しかも「前衛」さや「実験」が前面に出てしまう「前衛小説」「実験小説」的な臭さを感じさせないところが、この小説の独創的でかつ小説として技法にも優れているところだと思う。
(作者自身はやや理屈っぽくはあるが、それも小説のなかにうまく取り込まれている)



まあ、騙されたと思って読んでみて欲しい。



余談だが、『世界史の極意』を読んだ後だったので、チェコとスロバキアの歴史とナショナリズムの由来についてちょっと知識があったので、物語によりスムースに入っていけた。



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『空襲警報(ザ・ベスト・オブ・コニー・ウイリス)』

2015-08-16 | 乱読日記
帯の「ぼくが現地実習に降り立った先は、大空襲下のロンドンだった・・・」に惹かれて、欧州出張の機内用に。

作者のファンの人には申し訳ないが、どうして買ったかもよく覚えていなかったし、作者が英国人でなく米国人だということも知らなかった。

本書は著者の受賞作を集めた短編集だが、失われたもの、いずれは失われるであろうもの、未来において失われてしまったもの(時制の勉強みたいだ)への愛情を、ひねりを利かせたSF作品として仕上げている。

オチや伏線自体は最近の作品のようにどぎつくはないし、カタルシスを得られるというよりは最後に考えさせられるようなものなので、スカッとする感じは少ないが、しばしば饒舌になる語り口の中に作者のこだわりや愛情が見え隠れするのも魅力の一つになっている。

特に表題作の舞台になったセントポール大聖堂は、ちょうど訪問先が近くにあったということもあり、今回の旅の供としては正しい選択であったが、SF作家として他の作品を読もうと思うかはちょっと保留という感じ。

これは自分自身がSFから遠ざかっていることが主な原因なんだが、それを引き戻すまでの魅力は残念ながらなかったかな。




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『空からの民俗学』

2015-08-13 | 乱読日記
民俗学者の宮本常一が全日空の機内誌「翼の王国」に昭和54~55年に連載していた表題のシリーズなど、地形や景観の写真を鍵にその土地々々の文化風土の歴史や特徴を解説したエッセイ集。

冒頭の文章から、犂(すき)のタイプによって畑の形状が違ってくると語られ、一気にに引き込まれる。

宮本常一のことは知らなかったのだが、Wikipediaによれば「生活用具や技術に関心を寄せ、民具学という新たな領域を築いた」というだけあって、過去の生活文化や産業の盛衰が現在の景観や街並みにつながっていることを改めて気づかせてくれる。

淡々とした中に愛情のこもった語り口も魅力的。


さっそく他の著書を注文してしまった。





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『Zero to One』

2015-08-09 | 乱読日記
今さら、という時期にやっと読んだ。

この手の本は、実際タイトルや著者の経歴で箔をつけているだけで、それがなければとりたててすごいことを言っているわけでないモノや、単なる後講釈本も多い(特に「マッ○ンゼー流の××」とか)中では、結構面白かった。

本書は、多くの人が「あいまいな楽観主義」に基づいて、新しいものを作り出すかわりに既存のものを作り直すことに従事して小さな成功を目指す-たとえば優秀な学生が弁護士や経営コンサルタントになろうとしたり、ベンチャーキャピタルが分散という名のゴミのようなポートフォリオを組むこと-を批判し、「知られざる真実」-賛成する人がほとんどいない、大切な真実-を探せ、それによって、競争を回避して独占を手にすることができると説く。

ではなぜ皆が「知られざる真実」を探さないかというと
① 幼いころから「漸進主義」-期待されたことを順番にやっていくのが大事-が身についている
② 主流に反したことをやって間違いたくない、という「リスク回避」
③ 現状への満足
④ 世界はフラット化しており、自分ひとりの力ではどうにもならない
という考えに毒されているという。

うーん、それを突き抜けるのが一番難しいんだけどね。

あと、一番面白かったのが、営業の重要性、実は「どう売るか」が一番大事であるとか、イーロン・マスクが天性の営業マンであるというあたり。

それから、序文は妙に長く、内容について予断をもってしまうので後回しにした方がいい。
日本ではピーター・ティールはそれほど知られていないので最初にアピールする意味合いもあったのかもしれないが、置くとしても「あとがき」の方がよかったと思う。


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『イギリス人アナリストだからわかった日本の「強み」「弱み」』

2015-08-08 | 乱読日記
柳の下のドジョウになってしまった。

『イギリス人アナリスト 日本の国宝を守る』が面白かったのでこれも買ってみたが、とりたてて新しいことはなく残念。

観光や文化財に興味のあるひとは上記、日本の社会がここがおかしいよという話に興味がある人は本書のどちらかを読めば十分。

まあ、言っていることはもっともだし、著者本人は繰り返して主張したいのだろうから、結局「イギリス人アナリスト」というタイトルで一定数の読者が釣れると考えた出版社に乗せられたこっちが悪かったということだろう。




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