高知県四万十川の中流域にある十和村に居を構えながら、村おこし・町おこしのためのデザインワークをおこなっている梅原真氏の作品集+エッセイ。
写真も豊富で、見ていて楽しい。
梅原氏のプロフィール・仕事などは
こちらを参照。
デザインワークで地域の商品を全国に売り込んだり、地域に人を呼び込もうというスタンスは、ここ数年言われている
「6次産業」化
を地で行っているわけだが、6次産業化と同時に言われるときの
経団連会長「日本の農業を成長産業に」 というような同時に企業の農業への参入を認めればより大きく成長する、というアプローチとは正反対である。
企業の参入な大規模化、集約化による利益の拡大を目的にしているわけだが、梅原氏の手伝っている仕事は、もともと地元にある産品に違った角度から光を当てて売れるようにする、というもの。
地元のいいものをニッチな商品として付加価値をつけることで、それで稼げるようにするという戦略で、いっぱい売れたからといって作付面積を倍にする、とか、大手企業が参入して採算に乗るという規模ではない。
大規模化・集約化というのは聞こえはいいが、現実に日本の地方の多くを占める中山間地(著者の住む高知県は84%が山林)では難しく、そういうところこそ著者のようなゲリラ的なアプローチは有効であると思う。
場所に即した戦い方、というものがあるわけで、こういうところに大企業が入っても、社会貢献なら別として、大企業的に採算に乗るのは難しく、結局規模や高効率を求めて、過剰な設備投資をしたり、無理な拡張を図ったりして失敗しそうな気がする(ベトナムにおける米軍がナパーム弾や枯葉剤を動員しても結局ゲリラ戦に敗れたのと同じ)。
本書にも紹介されているように、地域でも活性化に取り組もうという人は大勢いるわけで、それら地元の人々と著者のような人々が結びついて持続可能な6次産業化をしていくという将来像を想像するのは楽しい。
一方で既存の制度や農協も含めた既存のシステム自体不合理な部分があるわけで、そこには企業が算入してビジネスとして成り立つところはあると思う。
現に既存の制度の中でも、北海道は「市町村別生産数量目標の設定方針」で生産性・品質向上のインセンティブを与え、等級・生産性の高いコメを作っている農家に作付面積を優先的に割り当てて、成績の悪いところは減反を多くするということをしながらブランド米「ゆめぴりか」を作ったりしている。
(参考)
北海道水稲優良品種地帯別作付指標
H26年度市町村別生産数量目標の設定方針(北海道)
また、先日増田寛也元総務相の講演で、地方から都市部への人口移動が収束しないと仮定した場合には若年女性人口の数が減り続けるため、出生率が改善されたとしても現在の3大都市圏以外の自治体の半数以上が消滅の危機にあるという試算を聞いた。
(詳しくは
中央公論2013年12月号参照。また概要は
こちら参照)
秋田県に至っては1つの自治体以外は全部消滅するという試算だったが、生き残るのは秋田市ではなく大潟村-国家プロジェクトの八郎潟干拓で入植した農家が国の減反政策に反対して自主流通米にいち早く取り組んだ-だけ(=大潟村は人口流出が少ない)、というのも象徴的である。
このような改善の余地のあるところに企業が算入して集約化・効率化を進めれば改善が加速する可能性は高いと思う。
ただ、企業が現在の農協に代わって流通や資材供給や金融を押さえればてっとり早く儲かる、という行動-それは企業活動として合理的である-をとってしまえば、あまり意味はなくなる。
携帯電話市場へのauやソフトバンクの新規算入がNTTの既得権の一部を自らの既得権にして利益を上げるようなもので、それでは生産者や消費者へのメリットは限定的になってしまう。
まだまだ地方にはいっぱいいいものもあれば、農林水産業にもまだまだ改善の余地はあるので、企業の参入と、著者や先日取り上げた
田舎のパン屋のような、大きな声と小さな声、大規模地上戦とゲリラ戦、両方がそれぞれ得意なところで活動して、地方経済を支えていくのが理想的な姿ではないかと思う。