一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『ブリッジ・オブ・スパイ』

2016-07-23 | キネマ

これはDVDで。

冷戦時代の米ソのスパイ交換に活躍した弁護士を実話に基づく話。

弁護士(トム・ハンクス)とソ連のスパイのやりとりがいい。

困難な状況の中で信念を貫く、筋を通す、ということの難しさと尊さが描かれている。
情報はすぐに共有され、さまざまな言い訳の理屈が立つ現在だとこういう映画は成り立たない、または作り話っぽくなってしまうのかもしれない。

弁護士の交渉のロジックについてもそうで、おそらく最初だから成り立ったが「相場」ができてしまったあとでは難しいように思う。

細かいところは突っ込みどころも多い(*ネタバレも含むので末尾参照)が、登場人物のキャラクターの立ち方(CIA、アメリカの裁判官、東ドイツ側の交渉役など)やせりふ回しも面白い(コーエン兄弟も脚本に参加している)。


映画『ブリッジ・オブ・スパイ』予告編


* ソ連のスパイは「アメリカの民主主義を示すことが大事」といって死刑を回避させて禁固30年の刑になった一方で、ソ連に捕まった米軍飛行士は禁固10年で全然示せてないとことか、高高度を飛行するU2偵察機は絶対落とされないとか言いながらいきなりソ連のミサイルに落とされてしまう(そのへんの兵器開発の急速な進歩を端折ってる)とか。

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『グランドフィナーレ』

2016-07-21 | キネマ

原題は"YOUTH"。邦題とまったく逆なのだが、終盤に出てくる"Youth"というセリフが味わい深い。

かつて一世を風靡した老作曲家が、アルプスの超高級リゾートホテルで暮らしている。そこは世間から隔絶されていて、宿泊客も裕福な長期滞在者に限られている。

そこでの作曲家と友人の映画監督、役作りのために滞在している若手俳優などとの日常を追う中で、完全に引退したはずの作曲家に予想外のオファーが来る。


現役を引退した主人公への復帰のオファーというと、多くはしがらみ、義理人情、脅迫、金銭などが背景に絡み、復帰した後の活躍が映画の主題になることが多いが、本作は金も名声も手にし、引退の確固たる意志を固めている主人公が何を考えるかが中心になる。

心身ともに完全に引退している作曲家と、心の片隅に篝火の燃えカスがある映画監督のやり取りを軸に、ホテルの住民たちの暮らしを背景に静かにかつ象徴的な描写が進む。
とても静かな一方で、それぞれのシーンの意味を集中してみると疲れる映画でもある。


邦題は結果であり、原題は過程を現している。そして映画のテーマは過程だと思う。

予告編にもその違いが表れている。
日本版だとネタバレ、というかあらすじを追いすぎていて、妙な「感動作」にしたがっているように感じるので、本編を観るのであれば英語版だけをご覧になることをお勧めする。

Youth Official Trailer #1 (2015) - Michael Caine, Harvey Keitel Drama Movie HD

 

パオロ・ソレンティーノ×マイケル・ケイン!映画『グランドフィナーレ』予告編

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『Talvar』

2016-07-18 | キネマ

実際にあった殺人事件を題材にしたインド映画。

医師の自宅で娘が殺され、父親が容疑者とされ地元警察に逮捕されたが決定的な証拠がないなかで、本庁殺人科のベテラン刑事が捜査に取り掛かる、というシリアスな映画で、歌や踊りは一切入っていない。

初動捜査のずさんさ、幹部経由で現場に降りてくるマスコミからのプレッシャー、証拠収集の適法性、警察組織内の出世争い、刑事の仕事とプライベートの両立の難しさなど、刑事ものとしての要素はてんこ盛り。
構成が緻密なうえに、インドの国情や司法制度の特徴(地元警察のレベルの低さとか使用人がたくさんいるところとか)が織り込まれて、引き込まれる。

そして、カタルシスがないところもインド映画としては新鮮。


‘Talvar’ Official Trailer | Irrfan Khan, Konkona Sen Sharma, Neeraj Kabi, Sohum Shah, Atul Kumar

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『地域再生の失敗学』

2016-07-15 | 乱読日記

新書の対談本というのは、旬の人物を2人連れてきて旬のネタについて語らせて一丁上がり、のためか粗製濫造されがちで、豆知識の放談やヨイショし合いに終始するものが多いが、これはけっこうちゃんとしてる方だと思う。

本書は売れっ子経済学者(とか自分でも使ってしまうが定義ってなんだろう。「新進気鋭」というのもそうだよな)の飯田泰行氏が、地域再生にそれぞれ異なるアプローチで取り組むゲスト5人を選び、ゲストの講義+飯田氏との対談、という形式をとっている。
そのため、ゲストの考えの背景が対談の前提として頭に入るのでわかりやすい。

政府や自治体主導の地域再生が失敗に終わった反省を生かし、民間主導の地域再生にどうつなげるか、というのがタイトルを含めた本書の問題意識である。
なかでも複数のゲストが指摘しているのが、地方自治体の税収の構造の歪み。

固定資産税が特別措置による減免が多すぎるために、地価上昇と固定資産税の税収との相関関係が低くなっていて、最大の税収が地方交付税交付金であることが多い。
そのため自治体には独自に地方再生・地域経済活性化をしようとするインセンティブが働かず、中央とのパイプ作りに励むことになる。
その結果、中央官庁の全国一律の活性化策やそのための補助金目当ての事業を実施し予算を消化することが目的となり、税収や雇用を生み出す独自の施策が生まれにくい。

税収の構造を変えるというのは政治的にも相当ハードルが高いので、とりあえずは個別の自治体が民間の力や知恵を取り入れたりしながらこつこつ成功例を作っていくしかないのかなと思う。


ちなみに、飯田氏の研究テーマの一つとして「三大都市圏以外では人口30万人を超えると徐々に周辺から人を吸い上げる力が強くなり、50万人を超えるとこの流れは加速する」という仮説を披露しているが、これは自分の実感とも整合する。

自分の地域経済の活力を見るてっとり早い目安として「平日の日中に外を出歩いている人が多いか」というのがある。この境目がだいたい人口30万人にあたる。
ただしこの30万人は平成の大合併前の純粋な都市部という感じではあるが。
ちなみに県庁所在地でいうと人口50万人は宇都宮、松山(それぞれ51万人)と大分(47面人)、30万人だと秋田(31万人)と盛岡(29万人)が境界線になる(実際は大合併分を除くともう少しハードルが上がるが)。



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『HARD THINGS』

2016-07-13 | 乱読日記

経営書というより戦記。

だからこそ面白い。

会社を経営の本当の困難は、簡単な答えや処方箋が存在しない部分にある。本当の困難は論理と感情が矛盾するところにある。本当の困難は、どうしても答えが見つからず、しかも自分の弱みを見せずには助けを求められないところにある。

じゃあそういう場所で著者がいかに企業家・経営者としてどう問題を解決し、または失敗したてきたか、というのが本書。

その中でも、経営者の選定、従業員の解雇または引き止めなどの人事的なことに触れている部分が非常に多い。
そこが一番論理と感情が矛盾するところだし、しかも立場によってそれぞれの論理も違うから一番難しいところなのだろう。

この点、日本だと雇用の流動性が乏しい大企業の人はピンとこないかもしれないが、中小企業やベンチャービジネスに携わる人には共感するところが多いと思う。


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『海街diary』

2016-07-10 | キネマ

 マンガを原作にした映画はがっかりすることが多いのだが、これは評判がよかったので機内で観たが、確かに面白かった。

4姉妹のキャスティングでほぼ勝負あった感がある。
さらに脚本もよくできている。

尺の制約のある中でエピソードを上手に盛り込みながら登場人物のキャラクターを際立たせるとともに、原作が現在も続いている中で一つの起承転結の作品としてまとまっている。
(しかも、続編を作ろうと思えば作れるような終わり方でもある。)

海街diary予告篇

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『ヘイル、シーザー!』

2016-07-08 | キネマ

出張の機内で観た映画をパラパラと。

これは1950年代のハリウッド、「ヘイル・シーザー」という大作を製作中のトラブルをめぐるコメディ。
主役の俳優が撮影中に何者かに誘拐されてしまう事件を中心に、映画会社のよろず事故処理係が狂言回しとなってさまざまなトラブルに巻き込まれていく、という話。

当時のハリウッドの活況の様子や共産主義の浸透を背景に織り交ぜながら、コミカルかつ軽快に見せる。

キャラの濃い登場人物の設定といかにもな演技(ジョージ・クルーニーは安定しているし、スカーレット・ヨハンソンが「美人女優」を好演)がコーエン兄弟の作品らしく楽しめる。

舞台が撮影所なので、さまざまな映画の撮影風景やシーンが当時のハリウッド映画のオマージュのように取り入れられており、当時の映画に詳しい人にとってはより楽しめそうな感じもする。

共産主義については「赤狩り」のような負の部分は描かず、一つの流行としてコミカルに描かれているし、結果、現在のハリウッドの収益の分配についての皮肉にもなっているのかもしれない。

面白かったが、背景知識があればもっと楽しめたと思う。

映画『ヘイル、シーザー!』予告編

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High Lineと偽僧侶

2016-07-06 | うろうろ歩き

6月の下旬に米国。

New Yorkに日曜に入ったので、チェルシーを訪ねHigh Lineホイットニー美術館まで歩いた。

天気も良く、休日だったため大勢の人出でにぎわっていて、すっかり人気スポットとして定着している感じだった。






これはアート。
実際に見てもとてもリアルだった。
ちなみにブリーフはHanes










そこで見かけたのが、オレンジ色の袈裟を着た坊主頭の僧侶風な男。

以前テレビで、日本にも外国人観光客に寄付を迫る(妙なお守りのようなものを売りつける)ニセ僧侶が出没しているという話を見ていた。
(参考: 悪質すぎ…日本の観光地に「ニセ僧侶」が増殖してる
番組では、もともとはアメリカなどでやっていたのが、急増する外国人観光客目当てに流れてきたと言っていたので、本場(?)にはやはりいるんだなぁ、と思っていた。

ところが先日こんな記事がNYTに載った。

 The fake Buddhist monks are back, aggressively begging

Reports of the fake monks spiked two years ago, then waned. But now they are back in force from Times Square to the High Line, the public park built on an old elevated rail line on Manhattan’s West Side.

On June 20, the High Line put up three posters and signs in its bathrooms and elevators warning visitors not to give to the impersonators after administrators received complaints. Aggressive panhandling is prohibited in New York.

 ニューヨークに出没するのは2年ぶりらしい。しかもHigh Lineは出没場所になっていて、自分が行ったちょうど翌日からポスターで注意喚起をはじめたようで、ちょうどのタイミングに出くわしたらしい。

やはり連中も、人が集まる旬の観光スポットを目当てに稼ぎに来るようだ。

ひょっとすると、連中の目には、日本のインバウンド観光ブームはピークアウトして、これからはアメリカ回帰、と映っているのだろうか。

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『天国でまた会おう』

2016-07-04 | 乱読日記

『その女アレックス』のピエール・ルメートルの新作(といっても日本の文庫版が2015年10月ですが)。

小説としても文句なく面白いが、ヨーロッパにおける第一次世界大戦と現在との記憶の連続性について考えてしまった。

今回は第一次世界大戦と戦後が舞台。
戦争で職も恋人も失ったアルベールと彼を上官の計略から救ったものの大けがを負ったエドゥアールが、大戦後再会しパリの片隅で貧乏暮らしをする中で、かつての上官に対して復讐を企てる、という話。

あまりネタバレしない範囲で説明すると安っぽいストーリーに思えるが、人物描写や構成・展開は相変わらず見事。


同時に、第一次世界大戦を舞台にした本作が歴史小説でなく現代の冒険小説として読まれている(らしい、少なくとも書き振りはそう)ことも印象深い。

おそらく、国内が戦場となったことで、祖父母からの聞き伝えに加えて、実際に戦場の傷跡や記念物(それも勝利と敗戦ともに)がそこらじゅうにあるということが大きいのではないか。

それがEUの創設につながったわけで、BREXITをめぐる下のtweetがそれを象徴しているように思う。

一方で日本だと、たとえば日露戦争を舞台にした小説は司馬遼太郎に代表される歴史小説の世界だし、日中戦争、太平洋戦争を舞台にした小説は「戦記物」になる。
戦時中の日本を舞台にした小説では戦争そのものよりは戦時統制や疎開生活、空襲被害などを描いたものが多く、 本書と同様の復員兵を描いたものは、戦後復興の文脈か社会派小説に分類されるように思う。

たぶんそれは、日清戦争以来の戦争が基本は「外国に出て行って戦った」戦争であり、沖縄を除いて地上戦はなく、他の日本国内では米軍の空襲や原爆投下の「被害にあった」という印象が強いからではないだろうか。

そのうえ、それ以降は戦争を行うことはなく、朝鮮戦争も「特需」として恩恵を受けるなど日本は平和の中で急激な経済復興を遂げた。

それが、戦争を「どこか遠くのもの」のように感じ「良くないもの」とすれば遠ざけることができるもの、という意識につながっているように思うし、それ表れているのが、沖縄県民とその他の日本人との意識のギャップではないか。

唯一日本国内で地上戦の舞台となり、戦後はワシントン講和条約後も米軍の占領下となった沖縄県民には、欧州同様に戦争からの歴史の連続性の意識が根強く、そこが基地問題などの議論においての食い違いの一つの要因になっているのではないか。

小説のレビューから離れてしまったが、そんなことを考えた。
 

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岩井克人『経済学の宇宙』

2016-07-03 | 乱読日記
経済学者岩井克人の回顧録。

あとがきにもあるように、回顧の主題は岩井の人生ではなく学問を主題としている。

具体的には、不均衡動学から『ヴェニスの商人の資本論』(自分にとってはここがきっかけ)、貨幣論、法人論・会社統治論など現代にいたるまでの研究、思索の過程がその背景も含めて体系的に描かれていて、それぞれの著書の意味合いや位置づけが改めてよくわかる。

そして、自らの研究を発展させる中で興味と関心のある領域を次々と取り込んでいく姿からは、学者としての真摯さがうかがえると共に、本当に学問が好きなんだなぁと感心してしまう。

大学でのポストや学会の中でのポジションを求めるという競争から離れた
(本人はこれを「没落」と表現している)結果、自由に研究に取り組むことができたからであるし、岩井自身も本書をまとめるなかで「学問をする人間としては幸せであったことを再確認できた」と言っている。

こういう人でないと研究者にはなれないのかもしれないと思う一方で、ここまで純粋な研究者というのもそうはいないのではないかと思う。

世事に汚れた半可通の自分にとって、心が洗われるような本であった。




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