一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『捨てられる銀行』

2016-09-11 | 乱読日記
2015年に森長官が就任して以降(正確には監督局長就任以降)、不良債権処理・資産の健全化一辺倒から企業の成長への寄与を評価する方向に舵を切った、金融庁の改革と地域金融機関の取り組みについてまとめた本。

状況が変われば監督行政の役割も変わる。
金融機関自身の破たんリスクを回避することが最優先だった金融庁の創設時から、一定の資産の健全性を得た現在は、金融機関は地域経済を支えるという本来の役割を果たすべきだ、と森長官は方向転換をした。
しかし一方で、今までの金融検査マニュアルを墨守することに汲々とし、協会保証によって審査能力も衰えてしまった地方金融機関が方向転換についていけずに混乱しているところも多い。
ただ中には、地方金融機関としての「本来の姿」を貫いてきた、または早い時期にモデルチェンジに成功した地域金融機関もあり、本書ではそれらについても取り上げている。


転換の方向性としては正しいのだろうとは思うが、一方で、今まで違う方向でギリギリと絞られてきた金融機関にとってはたまったもんじゃないだろうな、という気もする。
企業としては現状が行き過ぎの場合には急に風向きが変わった場合に備えるというのは必要だが、企業の存続自体が危機に瀕している中で厳格な資産査定で金融庁に飼いならされてしまった身としては、なかなか大変なんだろうとは思う。

不良債権処理・資産の健全化にしても、真っ当に経営してきたところは無事に乗り切れているわけだし、金融庁に言われなくても協会保証だけに頼らず自分の目利きで融資をしようとしてきたのだろう。

結局今回方針転換に右往左往するところは、金融機関としてしかりしていないところで、今回振り子を大きく振ることで、そういうところが結果的に振り落されても仕方ないと考えて入りうのかもしれない。


ところで、筆者はこの方向転換を評価しているのでそういう見方はしないのだろうが、これが純粋に地域金融機関の在り方を考えてのものなのか、政権の地方創生に乗ろうという金融庁としての大人の事情はないのか、というあたりの分析も欲しかった感じがする。

何年かたってみたら、地方創生・事業性評価の名のもとに野放図に融資が拡大し、結局一過性のミニバブルが起きてあとには不良債権が残り、数年後には振り子が元に戻ってました、ということにならなければいいのだが。



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