『田舎暮らしができる人できない人』と同じ玉村豊男氏の本。
こちらは信州でのワイナリーとレストランを立ち上げるまでの話と今後についてを中心に書いています。
前著がこれから定年を迎える団塊の世代向けに田舎暮らしの先輩として幅広く語ったものですが、今回は自分の事業を通じて考えたことにしぼっています。
今の形に至るまでの、さまざまな規制に苦労した話、失敗談、そして将来の夢を語っています。
著者は、里山ビジネスの基本は「拡大せずに持続すること」にある、と考えます。
本来企業も持続や存続を目標にしていたはずですが、存続するためには拡大をしなければならず(特に上場企業はそうですね)、そのためいずれどこかに無理がたまり、最後には破綻してしまいます(最近そういう例をよくみますね)。
里山での事業は、「大規模化して効率よく収益を上げる」というスタイルはなじまないのではないか、と言います。
ふつう、拡大の目標を持つとき人は高揚しますが、持続だけを目標とするには、強い意志か、さもなければある種の覚悟ないしは諦観が必要です。
しかし、里山における暮らしの場合は、森との境界線を探り、相手のテリトリーを侵さないようにちゅういしつつ自分のテリトリーを守るために畑の最前線を耕す、という毎日の労働そのものが、生活の質を高めながらも生活を拡大しないで持続する方法を、具体的に教えてくれています。きっと里山の暮らしに学べば、それほどの覚悟も諦観も必要としない、なにかうまい方法が見つかるに違いありません。
確かに拡大再生産される里山(または「ふるさと」「地方特産」)商品というのは長続きしないですよね。
誰かが言っていたのですが、観光地の俗化、オリジナリティの喪失の指標としてラベンダーショップがあるかどうか、というのがあるそうです(さらに次の段階は梅宮辰夫の漬物屋だとか)。
ブドウの木の寿命は約50年で、樹齢15年~20年頃一番実をつけるのですが、その後30年、40年と古木になるにつれ房の数は減っていく替わりに味わいの凝縮されたワインができるようになるそうです。
著者が植えたブドウの木は今が若い盛りですが、著者が亡くなり、今のスタッフなり後継者が最後の凝縮されたワインを収穫し、また木を植え替えて次世代につなげていく。そういうところに里山ビジネスの本質があるのではないか、と著者は問いかけています。