一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

高齢者雇用安定法改正案

2012-04-12 | 法律・裁判・弁護士

消費税法案と同時に「社会保障と税の一体改革」(以前は「社会保障・税・財政の一体改革」だったような・・・)関連法案のひとつとして、高齢者雇用安定法の改正案があります。

厚生労働省のサイト
~「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律案要綱」~
によるとポイントは次のとおり。

【法律案要綱のポイント】
1.継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止   
 継続雇用制度の対象となる高年齢者を、事業主が労使協定で定める基準によって限定できる仕組みを廃止する。
2.継続雇用制度の対象者が雇用される企業の範囲の拡大   
 継続雇用制度の対象となる高年齢者が雇用される企業の範囲を、グループ企業にまで拡大する仕組みを設ける。
3.義務違反の企業に対する公表規定の導入   
 高年齢者雇用確保措置義務に関する勧告に従わない企業名を公表する規定を設ける。
4.「高年齢者等職業安定対策基本方針」の見直し   
 雇用機会の増大の目標の対象となる高年齢者を65歳以上にまで拡大する。  

マスコミ的には65歳まで雇用 企業難色というような取り上げられ方をしています。  

実際、直感的には雇用延長の義務化が若年層の雇用の縮小につながるのではないかと思います。  

ただこの辺は労働政策審議会職業安定分科会雇用対策基本問題部会(長っ!)でも議論されていて、ここの関係資料(p10)では  

なお、高年齢者と若年者とでは労働力として質的に異なるという意見や、新卒採用の数は高年齢者の雇用とのバランスではなく、景気の変動による事業の拡大・縮小等の見通しにより決定しているという意見があった( 「今後の高年齢者雇用に関する研究会」の企業ヒアリング) 。 また、若年労働者は単純には高齢労働者の代替にはならず、高齢者の早期退職は若者の 社会保障負担・租税負担を増やすといったILO・OECDの報告*がある。
(* ILO「Employment and social protection in the new demographic context」(2010)/OECD「Off to a Good Start? Jobs for Youth」(2010))  

などと理論武装?がされています。  

この点はいろいろなところで議論されていますし、私がそれに付け加える知見もないのですが、個人的に一番違和感を持ったのが上の2.の部分  

これは具体的には、現行の高年齢者雇用安定法では、定年まで高年齢者が雇用されていた企業での継続雇 用制度の導入を求めている(運用により一部例外あり)ものを、今回の改正で、一定の要 件を満たす子会社及び関連会社(20%以上出資)を継続雇用制度による雇用先の特例として認めることになりました。  

でも、この恩恵を受けるのは、子会社などを多数持つ大企業の労働者に限られ、継続雇用を受け入れる子会社の従業員にとっては雇用や給与原資の圧迫要因にしかなりません。

この結果、高齢者と若年層の格差だけでなく、大企業の労働者ととその子会社や子会社を持たない中小企業の労働者の間の格差が広がることにならるように思います。  

このへん、格差是正を課題としてあげている民主党の政策にも合わないように思いますが、主要な支持母体の連合の意向などが反映しているのでしょうか。  


それから、細かい突っ込みをすると、

50%未満出資の会社に対して継続的に高齢者従業員の継続雇用を求めた場合に、「意思決定機関を支配していることが推測される事実がある」として支配力基準から連結対象にされるんじゃなかろうか。

とか

会社法改正で議論されている親子会社間の利益相反取引にあたるんじゃないか(形式的には子会社と労働者との雇用契約なので「親子会社間の取引」にはなりませんが、だからといって野放図に子会社に人件費の負担を押し付けるのはまずいのではないか)  

という議論に波及するんじゃないかと思います。  

年金支給年齢の引き上げや高齢者雇用という時代の流れにへの対応としては、ちょっとオールドスタイルのような気がします。

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こんな更新料はいやだ

2011-07-16 | 法律・裁判・弁護士

昨日のエントリの最後に書いた

一定以上の契約期間で賃料が相場より低廉であったとしても更新料の割合が大きすぎて実質的に賃借人の期間内解約を制限する(=期間内解約すると残存期間の更新料分損をしてしまう)ことになってしまうようなものは無効になる可能性は出てくるかもしれませんね。

について補足

テレビでは、不動産業者の動きとして、物件を比較しやすくするため、更新料等の名目いかんに関わらず契約期間中の負担金額を月額に均して「めやす賃料」というのを表示しているところがあると紹介されていました。

ただ、めやす賃料が同じでも、更新料は更新時にまとめて支払うので、期間内解約をすると借りた期間中の平均賃料は割高になってしまいます。

下のグラフはそれを比較したものです。
(大きいグラフはこちら

青が月額賃料10万円
緑が月額賃料92,300円、更新料184,800円
(今回の判例と同じ更新料2ヶ月(事例では1年契約ですが))
ピンクが月額賃料は80,000円とお安い代わりに更新料48万円

横軸が解約する月
棒グラフが累計負担額、折れ線グラフが解約月までで計算しためやす賃料になります。

そうすると、賃料8万円で4ヶ月目で解約すると、めやす賃料は20万円/月になります。
更新料6ヶ月というのはさすがに大きいかもしれませんが、更新料2ヶ月パターンでも138,500円/月とけっこうになります。

これが何が問題かというと、契約したときはいいと思っていても、更新料が大きいと期間内解約をすると極端に不利になる場合がありうることです。

借地借家法38条5項では、定期借家においても200平米未満の居住用建物の賃貸借においては借家人に期間内解約の権利が一定程度認められています。

転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、建物の賃借人は、建物の賃貸借の解約の申入れをすることができる

にもかかわらず、上のように更新料の割合があまりに大きいと、普通借家でありながらも期間内解約をした場合に相当な経済的不利益をこうむることになるので、これが度を越えた場合は「消費者の利益を一方的に害する」というようなことになるのではないか、ということです。


一般的には極端に更新料が高い契約を結ぶ人は少ない(または更新する気がない)と思うのでこういうトラブルはないかもしれませんけど。


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更新料最高裁判決

2011-07-15 | 法律・裁判・弁護士

見出しでは 賃貸住宅の更新料「有効」 最高裁が初判断などと報じられていますが、「更新料」という名目で借主に負担を求めることが常に無効とは言えない、ということで、逆に「更新料」という名目ならなんでも適法としたわけではありません。  

家主側としてはこれによって更新料という仕組みが守られた、と安堵する人もいるかもしれませんが、逆に合意するまでは交渉可能だ、ということに最高裁がお墨付きを与えたようなものでもあり、今後借り手からのネゴが増えたり「更新料なし」物件でアピールしようとする物件も出てくると思うので、すべて今まで通りとは行かなくなる(市況によっては厳しくなる)のではないかと思います。

さて、判決文(こちら)を見てみます。(下線は原文のまま)  

 更新料条項についてみると,更新料が,一般に,賃料の補充ないし前払,賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有することは,前記(1) に説示したとおりであり,更新料の支払にはおよそ経済的合理性がないなどということはできない。また,一定の地域において,期間満了の際,賃借人が賃貸人に対し更新料の支払をする例が少なからず存することは公知であることや,従前,裁判上の和解手続等においても,更新料条項は公序良俗に反するなどとして,これを当然に無効とする取扱いがされてこなかったことは裁判所に顕著であることからすると,更新料条項が賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載され,賃借人と賃貸人との間に更新料の支払に関する明確な合意が成立している場合に,賃借人と賃貸人との間に,更新料条項に関する情報の質及び量並びに交渉力について,看過し得ないほどの格差が存するとみることもできない。 
 そうすると,賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は,更新料の額が賃料の額,賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り,消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらないと解するのが相当である。  

今年の3月に敷引特約に関する最高裁判決についてふれたとき(参照)にちょっと言及したのですが、今回の判決もその流れをくんで、明確な合意があったか(合意内容が契約に明示されていたか)、その条件が合理性があるか個別に判断するというものになってます。
総論としてはそれ以上踏み込んで更新料を無効とする積極的な理由はないように思いますし、穏当な線ではないかと思います。   

つぎに本件についての具体的な検討。  

これを本件についてみると,前記認定事実によれば,本件条項は本件契約書に一義的かつ明確に記載されているところ,その内容は,更新料の額を賃料の2か月分とし,本件賃貸借契約が更新される期間を1年間とするものであって,上記特段の事情が存するとはいえず,これを消費者契約法10条により無効とすることはできない。また,これまで説示したところによれば,本件条項を,借地借家法30条にいう同法第3章第1節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものということもできない。  

1年契約で2ヶ月更新料を払うというのは、京都地方では一般的なのかも知れませんが東京ではちょっと借り手に厳しい条件のように思います。
しかし、だからといって消費者契約法10条や借地借家法30条によって無効とされるものではない、という判断ですね。 
少なくとも契約書に明示をされた条件である以上、借り手も他の物件等と比較してこの条件を飲んだというところも大きいのだと思います。  


では、どれくらいになると「更新料の額が賃料の額,賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情」になるかですが、こういう判決が出た以上、あえてチャレンジングな条件(たとえば1年契約、更新料6ヶ月とか)を設定する家主も出ないでしょうから、その意味では一連の訴訟の意味はあったように思います。  

それから、この判決で更新料は契約期間や賃料などと総合的な判断をするということが示されたので、逆にいろいろなかたちでの賃貸条件の設定が進むとしたら、それも借り手にとっていいことなのではないかと思います。  
もっともいろんな工夫をするのはいいことですが、一定以上の契約期間で賃料が相場より低廉であったとしても更新料の割合が大きすぎて実質的に賃借人の期間内解約を制限する(=期間内解約すると残存期間の更新料分損をしてしまう)ことになってしまうようなものは無効になる可能性は出てくるかもしれませんね。

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政権運営でゴールの枠をはずしたシュートを打っても何の責任も問われないのだが

2011-06-29 | 法律・裁判・弁護士

結論としてはちょっと違和感のある判決。  

サッカーボール避け転倒死亡 蹴った少年の親に賠償命令
(2011年6月28日12時9分 朝日新聞)  

校庭から蹴り出されたサッカーボールを避けようとして転倒した男性(死亡当時87)のバイク事故をめぐり、ボールを蹴った当時小学5年の少年(19)に過失責任があるかが問われた訴訟の判決が大阪地裁であった。(中略)
 
判決によると、少年は2004年2月、愛媛県内の公立小学校の校庭でサッカーゴールに向けてフリーキックの練習中、蹴ったボールが門扉を越えて道路へ転がり出た。バイクの男性がボールを避けようとして転び、足を骨折。その後に認知症の症状が出るようになり・・・(中略)・・・死亡した。  

少年側は「ボールをゴールに向けて普通に蹴っただけで、違法性はない」と主張したが、27日付の判決は「蹴り方によっては道路に出ることを予測できた」と指摘。「少年は未成年で法的な責任への認識はなく、両親に賠償責任がある」と判断した。そのうえでバイクの転倒と死亡との因果関係について「入院などで生活が一変した」と認定。一方で、脳の持病の影響もあったとして、請求額の約5千万円に対して賠償額は約1500万円と算出した。  

判決文を見たわけではないので詳細は不明ですが、転倒と死亡との因果関係は置くとして、転倒した男性側の過失--サッカーボールが転がってきたらブレーキをかければいいので、一般的に危険なハンドル操作による回避を選択したことやその操作の程度に過失はなかったのか--は問われてもよかったのではないかと思います。 
たとえば転がり出たサッカーボールを避けようと大型トラックが急ハンドルを切ったとしたら、トラックの運転手側に過失ありとされるでしょう。 

また、87歳の男性の自転車走行の安全性を本人の運動能力に関わらず第三者が十全に確保しなければならないものなのか--普通のたとえば家庭の主婦だったらサッカーボールが転がってきても転倒はしなかったのではないか--また、小学5年生が蹴ったボールのスピードとかバウンドの仕方(このへんは判決文を見ないとわからないのですが、ゴールのすぐ後ろに門扉があったとか、フリーキックの練習中なのでむちゃくちゃ遠くに蹴ったとかではないのでしょうから)から、道路に出たときの態様、それがどれくらい危険なものであったのか、というところも検証されるべきだったのではないかと思います。  


訴訟を提起するのは国民の権利であるので、そのこと自体の是非とか、(最近の訴訟の期間短縮を考えると)事件後数年たってなぜ、とかは問うべきではないと思うのですが、少年への影響や早期解決を考えれば、学校の(施設)管理者責任を問うて学校の賠償責任保険(多分普通の学校は入ってるんじゃないでしょうか)を付保している保険会社との間で示談による早期解決を図るというのが現実的な紛争解決の方向のように思います。

原告側に感情のこじれとか弁護士がよほど強硬な人だとかいう事情があるのでしょうか。

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敷引特約に関する最高裁判決

2011-03-26 | 法律・裁判・弁護士

「一票の格差」判決とともに最高裁からこんな判決も出てました

敷金から修繕費「高すぎなければ有効」 最高裁判決  

これは関西地方で多い商慣習で、賃貸住宅の敷金や保証金を返す際、修繕費相当として一定金額を差し引くと定めた契約条項(敷引特約)の有効性が争われた事案です。  

賃貸住宅については昨年くらいから「更新料」条項の有効性を問う訴訟が合い次いでいて、現在何件か上告されていたと思いますが、それを占う意味でも参考になると思います。  


判決文(参照)によると、本件は賃貸借契約において、敷引の額は入居期間によって漸増するようあらかじめ決められていて、「賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる損耗や経年により自然に生ずる損耗については,本件敷引金により賄い,上告人は原状回復を要しない」と規定さているところの敷引特約の有効性が争われた事案です。  

そしてこの敷引特約について、消費者側(一審、二審で敗訴したので上告人)は、建物の賃貸借では通常損耗等(たとえば畳や壁クロスの日焼けなどの誰が住んだとしても普通おきる資産の減価)は通常は賃料対価としてその中に含まれるべきにもかかわらず、賃料に加えて賃借人に通常損耗等の補修費用を負担させる本件敷引特約は賃借人に二重の負担を負わせる不合理な特約であるから消費者契約法10条により無効である、と主張しました。  


これに対し判決はまず、  

賃借物件の損耗の発生は,賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものであるから,賃借人は,特約のない限り,通常損耗等についての原状回復義務を負わず,その補修費用を負担する義務も負わない。  

したがって本件特約は消費者である賃借人の義務を加重するもの(=消費者契約法10条に形式的には該当する)である、とします。 
※ 今回の結論にかかわらず、借りる側としてこの基本原則を理解しておくことは、マンションやアパートを借りるときには大事だと思います。  

つぎに消費者契約法10条で定める契約条項が無効になる要件:当該条項が民法1条2項に規定する基本原則、すなわち信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるかについてつぎのように伸べます。(太字は筆者)  

賃貸借契約に敷引特約が付され,賃貸人が取得することになる金員(いわゆる敷引金)の額について契約書に明示されている場合には,賃借人は,賃料の額に加え,敷引金の額についても明確に認識した上で契約を締結するのであって,賃借人の負担については明確に合意されている。そして,通常損耗等の補修費用は,賃料にこれを含ませてその回収が図られているのが通常だとしても,これに充てるべき金員を敷引金として授受する旨の合意が成立している場合には,その反面において,上記補修費用が含まれないものとして賃料の額が合意されているとみるのが相当であって,敷引特約によって賃借人が上記補修費用を二重に負担するということはできない。  

そして  

また,上記補修費用に充てるために賃貸人が取得する金員を具体的な一定の額とすることは,通常損耗等の補修の要否やその費用の額をめぐる紛争を防止するといった観点から,あながち不合理なものとはいえず,敷引特約が信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するものであると直ちにいうことはできない。  

と、一般的には明示的に合意された場合には敷引特約(やそこにおいて通常損耗を賃借人負担とすること)は有効であるとします。
ただ、そのような特約が常に有効なわけではなく、次のような場合には無効になりうると示唆します。  

敷引金の額が敷引特約の趣旨からみて高額に過ぎる場合には,賃貸人と賃借人との間に存する情報の質及び量並びに交渉力の格差を背景に,賃借人が一方的に不利益な負担を余儀なくされたものとみるべき場合が多いといえる。  

そして敷引特約が無効になるのは以下のような場合であるとします。(下線は原文のまま

消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は,当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額,賃料の額,礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし,敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合には,当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り,信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって,消費者契約法10条により無効となると解するのが相当である。   

そしてこれを本件についてみると

  • 本件敷引金の額が、契約の経過年数や本件建物の場所、専有面積等に照らし、通常損耗等の補修費用として通常想定される額を大きく超えるものとまではいえない。
  • 本件敷引金の額は、経過年数に応じて賃料の2倍弱ないし3.5倍強にとどまっている。
  • 賃借人は、他に賃料の1か月分の更新料の支払義務を負うほかには,礼金等他の一時金を支払う義務を負っていない

ので、敷引金の額が高額に過ぎることはなく、したがって、本件特約が消費者契約法10条により無効であるということはできないと結論付けています。  


この判決の意義としては、敷引特約や通常損耗を借主負担とする特約について、それを一律に有効・無効の判断をせず、個別の契約条件(=当事者にどのような合意があったか)によって判断する、としたところにあると思います。 

おそらく更新料についても、合意内容(契約に明示されていたか)やその条件の合理性を個別に判断することになるのではないかと思われます。  

これは、東京都の賃貸住宅紛争防止条例賃貸住宅トラブル防止ガイドライン(いわゆる「東京ルール」)とも整合性が取れていますし、現実的な落ち着きだったのではないかと思います。  

これらが一律「無効」とされた場合、貸金業の過払い金返還訴訟同様に請求すれば必ず取れるという「七面鳥撃ち」のような訴訟になるので、過払い金訴訟の次の「草刈場」として弁護士が殺到し、零細な貸家業も含めて賃貸住宅業が混乱するという展開も想定されたのですが、それは防げそうです。  

一方、今回具体的に2年間入居後の賃料の2倍弱程度の通常損耗を賃借人に負担させることを有効としたことから、これを中心に一つの相場が作られるのではないかと思います。
ただ、この水準は結構高いところ(賃貸人に有利なところ)で線引きがされたかな、という印象を受けます。
最高裁の判断基準は「信義則に反しない」というかなり広めのストライクゾーンだからなのでしょうけど、これがきっかけで貸家業が強気になって、かえって相場が上がるようにならなければいいと思います。
(まあ、それが行き過ぎると、また訴訟が起こって「実費との著しい乖離」などがメルクマールになったり、代物弁済同様精算義務を課されたりと、行きつ戻りつしながら中期的には妥当な相場が形成されるのでしょうね)

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【再掲】グルーポンのおせち問題を契機に景品表示法をおさらいしてみる

2011-01-14 | 法律・裁判・弁護士

1/7のエントリが途中で切れてしまっていたので(...みたいなさん、ご指摘ありがとうございます)加筆して再掲します。
その後の動きはあまりフォローしていないですし、当初の気合がなくなって尻切れトンボのエントリになってしまっているかもしれませんのであらかじめお詫びしておきます。

*************************
 
遅ればせながらグルーポン・外食文化研究所(バードカフェ)のおせち問題について。 

グルーポンはお詫びをサイトに載せていますが、ちょっとピントが外れているような気がします。  


バードカフェ「謹製おせち」についてのお詫びとご報告  

3.原因および問題認識について  
本クーポンによりお客様がご購入された当該商品の提供元について、その品質管理、製造管理、配送管理などにおいて、十分適切であることを見極め切れませんでした。  
ご購入者様からのご苦情、お問い合わせなどに対応する窓口が弊社ホームページ経由のメールのみであったため、事態の把握と対応にタイムラグを生じさせてしまいました。  

4.今後の対策について  
クーポン商品の提供会社に対する事前審査を厳格化いたします。  
クーポンご購入者様からの専用お問い合わせ窓口を設置いたします。  
お客様、加盟店舗様に一層安心して弊社サイト「GROUPON」をご利用頂けるよう、社内教育の更なる拡充並びに業務管理体制の強化を図ってまいります。


ちゃんと出品者を管理しなかったのがいけない、というのはその通りですが、管理責任だけとも読めます。 
商品の品質についてはそうなのかもしれませんが、グルーポンのサイトには  


「横浜の人気レストラン厳選食材を使ったお節33品・3段・7寸(4人分)」(定価2万1000円)を、半額の1万500円で販売するとして、商品の見本写真を掲載。  


していたようです(参照)。  
そうなると、「半額」という広告表示が景品表示法で禁止されている二重価格表示の問題になるのではないかと思います。  

景品表示法第4条第1項ではつぎのように規定しています。  


事業者は,自己の供給する商品又は役務の取引について,次の各号に掲げる表示をしてはならない。 
1 (略)  
2 商品又は役務の価格その他の取引条件について,実際のもの又は当該事業者と競争関係にある他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認されるため,不当に顧客を誘引し,公正な競争を阻害するおそれがあると認められる表示


この規定については公正取引委員会から不当な価格表示についての景品表示法上の考え方というガイドラインが出されていますので、以下それを見ていきます。  


2 本考え方の適用範囲 
(1) 本考え方の対象となる価格表示本考え方は,製造業者,卸売業者,小売業者,通信販売業者,輸入代理店,サービス業者等,事業者の事業形態を問わず,事業者が,一般消費者に対して商品又は役務を供給する際に行う価格表示のすべてを対象としている。  


僕はグルーポンは利用したことはないのですが、グルーポンのサイトの「使い方」をみると、クーポンを販売して料金を徴収する主体はグルーポンのようなので、グルーポン上の価格表示についてはグルーポン自体も景表法の適用対象になると思われます。  

つぎに「二重価格表示」とは何かですが  


第4 二重価格表示について
1 二重価格表示についての基本的考え方  
(1) 同一ではない商品の価格を比較対照価格に用いて表示を行う場合 

ア 同一ではない商品の価格との二重価格表示が行われる場合には,販売価格と比較対照価格との価格差については,商品の品質等の違いも反映されているため,二重価格表示で示された価格差のみをもって販売価格の安さを評価することが難しく,一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え,不当表示に該当するおそれがある。  
 なお,同一ではない商品との二重価格表示であっても,一の事業者が実際に販売している二つの異なる商品について現在の販売価格を比較することは,通常,景品表示法上問題となるものではない。  

イ 商品の同一性は,銘柄,品質,規格等からみて同一とみられるか否かにより判断される。   

(2) 比較対照価格に用いる価格について実際と異なる表示やあいまいな表示を行う場合  

 二重価格表示が行われる場合には,比較対照価格として,過去の販売価格,希望小売価格,競争事業者の販売価格等多様なものが用いられている。  
 これらの比較対照価格については,事実に基づいて表示する必要があり,比較対照価格に用いる価格が虚偽のものである場合には,一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え,不当表示に該当するおそれがある。  
 また,過去の販売価格や競争事業者の販売価格等でそれ自体は根拠のある価格を比較対照価格に用いる場合でも,当該価格がどのような内容の価格であるかを正確に表示する必要があり,比較対照価格に用いる価格についてあいまいな表示を行う場合には,一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え,不当表示に該当するおそれがある。


要するに、比較がきちんと可能で、比較対照となる販売価格が事実であることが求められています。 
そして、具体例としてこのように解説されています。

2 過去の販売価格等を比較対照価格とする二重価格表示について 
(1) 基本的考え方 
ア 過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示 
(ア) 景品表示法上の考え方 
a(省略) 
b 過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示が行われる場合に,比較対照価格がどのような価格であるか具体的に表示されていないときは,一般消費者は,通常,同一の商品が当該価格でセール前の相当期間販売されており,セール期間中において販売価格が当該値下げ分だけ安くなっていると認識するものと考えられる。
 このため,過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示を行う場合に,同一の商品について最近相当期間にわたって販売されていた価格とはいえない価格を比較対照価格に用いるときは,当該価格がいつの時点でどの程度の期間販売されていた価格であるか等その内容を正確に表示しない限り,一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え,不当表示に該当するおそれがある。

ところが、グルーポンまるで残飯なおせちの外食文化研究所水口社長にインタビューしてみましたによると

-グルーポン側からは、反響の規模がどのくらいになるか等アドバイスはなかったのでしょうか?

水口氏
グルーポンからは一切そのようなアドバイスはありませんでした。
おせち料理の販売自体グルーポン上でも初の試みで、
グルーポンへおせちの販売をしたいとお願いしたところ、
かなり乗り気で対応して頂き、私共も反響に浮足立ってしまった事が大きな反省点です。
(太字筆者)

と、そもそもおせち料理の販売自体が初めてだったようです。

そうだとすると、定価21,000円ってなんだったんだという話になります。
また、景品表示法上も「比較対照すべき過去の販売価格」自体がない(ちなみにガイドライン上は「過去の販売価格」二週間以上の販売実績がないといけない)ので完全にアウトのように思われます。

しかも、このインタビューがグルーポン側も外食文化研究所がおせちを売るのが初めてというのを承知していたとのことです。

そもそも共同購入サイトは「定価の○割引」というのがウリにもかかわらず、その定価が根拠がないというのはビジネスの信頼性に関わると思うのですが、そのへん反応が鈍いように思います。

このあたり、中古バイクの買取オークションにおけるバイク王と系列会社の談合(擬似入札)と同根だと思うんですけど、両者ともに「これはまずい!」という真剣な反応が見られないのは多少のクレームはおいといても消費者の支持がある(または「値段で釣れる奴はいくらでもいる」)という自信なんでしょうか。




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追い出し規制法案

2011-01-08 | 法律・裁判・弁護士

木曜日の朝日新聞追い出し規制法案はまだか 民主迷走で宙に 被害続く を読んであれっと思ったのは以下のくだり。  

消費者センターに紹介された弁護士の仲介で、催促の電話は止まった。だが、弁護士が、法律ができれば深夜の取り立てや一方的なカギの交換は禁止されると説明すると、保証会社の担当者は「まだ法律、成立してないんでしょ」と開き直ったという。  

鍵の交換などの自力救済は今でも違法なのに、(新聞記者用のコメントならともかく)こんな説得をする弁護士(とそれを紹介する消費者センター)も問題なんじゃないでしょうか。  

この記事は、一応家主側の反論も載せていますが、家賃保証業者の苛酷な取立てについて規制する法律を作ろうという話が昨年出たままたなざらしになっているなかで早期成立を促すというトーンです。  

そういえば法律案自体は読んだことがないので、この機会にざっと読んでみました。  
「賃借人の居住の安定を確保するための家賃保証業の業務の適正化及び家賃等の取立て行為の規制等に関する法律案」(長い・・・)  

法律の内容としては大きく 

① 家賃債務保証業者を登録制にし、行為規制を定める 
② 家賃等弁済情報提供事業者(滞納情報などのデータベースを作成する事業者)を登録制にし、行為規制を定める 
③ 家賃等の不当な取立て行為を禁止する 

の3つです。  

①については、僕は家賃保証業者の自業自得なのでやむなしという感じがします。  
そもそも家賃保証業のビジネスモデルは保険業やクレジットカード事業のようなもので、滞納率より高い保証料を設定することで儲けるしくみになっています。滞納は(契約者の属性が偏っていないとすれば)量的拡大をすれば大数の法則が働いて平均値に近づくので、収益も安定します。 
しかしこのビジネスは保険やクレジットカードと違って、自分からは貸主に対し賃貸借契約を解除できない(賃借人でないから)し、借主に対しては金銭債権を持つだけなので「賃貸借契約を解約しろ」とも言えない(契約条項にあるのかもしれないけど当然には賃貸借契約は終了しない)ので、借主がずるずる滞納をしながら物件に居座った場合、自らが負担する家賃の上限が決まらないという問題が構造的にあります。(最近の契約がどうなっているかは知りませんが)  
なので、力ずくでもまず賃貸借物件から追い出して賃貸借契約を終了させて出血を止めよう、という乱暴な輩がでてくるわけです。 

これは、ビジネスモデルの不備を自力救済で埋め合わせしようということですから同情の余地はありません(住宅を借りるときに連帯保証人が必要、という慣行と保証業者の存在意義は別問題として)。
なので登録制になっても身から出た錆なので仕方がないとは思います。 

ただ、行政の肥大化の観点からは登録制にしなくても現行法でも違法行為は取り締まれるし、その中で適法な取立てと不法行為・刑事犯に当たるようなものの判例を蓄積していけばいいので消費者庁とかの仕事にすればいいとも思います(消費者センターが紹介する弁護士が冒頭のような役立たずだと困るんだですが。)。


②については実効性があるのかな、というのが第一印象。   

ブラックリストが出回ることで、住宅を借りられなくなる人が増えることを懸念しているのでしょうが、そもそも③で一般の家主の滞納者への督促にも制約をつけるということは必然的に入居時の審査の強化につながるわけで、そこも絞るとすると家主のほうは代替手段をとることになると思います。  
たとえば法律では業者への家主などからの情報提供において借主の同意を必要としていますが、ブラックリストを充実させるのでなく「優良顧客リスト」(ホワイトリスト?)を作ってそこに載らない人には貸さない(貸すにしても敷金が高くて定期借家限定とか)という形の選別をするとか。 
この手のブラックリストとか優良顧客の選別というのは、クレジット会社とかオークションサイトとかネット通販などでもやっている話だし、銀行やクレジットカード会社は信用情報を共有しているわけで、家賃滞納者の情報だけ規制するのは合理的でないと思います。  


③特に、話題になっている「追い出し規制」の部分はこのような条文になっています。   

第61条 家賃債務保証業者その他の家賃債務を保証することを業として行う者若しくは賃貸住宅を賃貸する事業を行う者若しくはこれらの者の家賃関連債権(家賃債務にかかる債権、家賃債務の保証により有することとなる求償債権に基づく債権若しくは家賃債務の弁済により賃貸人に代位して取得する債権またはこれらに係る保証債務に係る債権をいう。以下この条及び第63条において同じ。)を譲り受けたもの又はこれらの者から家賃関連債権の取立てを受託した者は、家賃関連債権の取立てをするに当たって、面会、文書の送付、はり紙、電話をかけることその他のいかなる方法をもってするかを問わず、人を威迫し、又は次に掲げる言動その他の人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動をしてはならない。  
一 賃貸住宅の出入口の戸の施錠装置の交換又は当該施錠装置の解錠ができないようにするための器具の取付けその他の方法により、賃借人が当該賃貸住宅に立ち入ることができない状態とすること。  
ニ 賃貸住宅から衣類、寝具、家具、電気機械器具その他の物品を持ち出し、及び保管すること(当該物品を持ち出す際に、賃借人又はその同居人から同意を得た場合を除く。)  三 社会通念に照らし不適当と認められる時間帯として国土交通省令・内閣府例で定める時間帯に、当該時間帯以外の時間帯に連絡することが困難な事情その他の正当な理由がある場合を除き、賃借人若しくは保証人を訪問し、又は賃借人若しくは保証人に電話をかけて、当該賃借人又は保証人から訪問し又は電話をかけることを拒まれたにもかかわらず、その後当該時間帯に連続して、訪問し又は電話をかけること。  
四 賃借人又は保証人に対し、前三号のいずれか(保証人にあっては、前号)に掲げる言動をすることを告げること)。   

罰金もあります  

第73条 第61条の規定に違反した者は、ニ年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。  

太字のところに注目すると、行為制限はあくまでも「家賃関連債権の取立てをするに当たって」なので、契約終了に伴う明渡請求はこの法律の適用外のように読めます。 
そうすると、定期借家の終了や契約解除に伴う明け渡し請求であれば規制外になるかもしれません。 
ただ、このへんを実効性のあるたてつけにするには契約条件厳しくなりそうです。  

不動産は公共財という性格もあり、また、住居というのは文化的な生活の大前提でもあるというのはわかりますが、それについて民間の家主に過度にリスク負担を強いると、上の例のように大多数のまともな借家人への悪影響が出たり、かえって限界的な経済状況の人が借りることができなくなったりするように思います。

「追い出し屋」被害根絶のための法規制とともに充実した住宅政策の実現を求める宣言でも、追い出し規制法の制定の要望とともに

3 低廉な家賃額での公営住宅の供給増大を図り、低所得者層への賃貸住宅の供給を 整備すること。 公的な保証人制度を設けること。

4 監督官庁は、ハローワークや地方公共団体などとの連携を図り、 住宅確保困難者の相談体制を確立すること  

と言っています。  

法律の成立を急ぐ前に、経済的困窮者に対する住居の提供にあたって、普通借家の借家権や今回のような督促の制限という形の保護が本当に最適なのかを議論すべきように思います。

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歳末法務事情

2010-12-23 | 法律・裁判・弁護士
昨日は地元の飲み屋に年末の挨拶がてら顔出しに。
最後の店で日も変わりかけたのでそろそろ帰ろうかというときに、地元在住の弁護士が登場。

年末になって手間ばかりかかる仕事が入ってとぶつぶつ。

(その1)

クライアントの会社の社長の娘(20代前半独身)が付き合っている相手の男(40台半ば)の妻から損害賠償請求を起こされた。
そりゃ自分の旦那に文句を言えよと僕などは個人的には思うのだが、判例では浮気の相手方に損害賠償責任が認められている。

相手が浮気をした場合に男は相手の女を責めるが女は浮気相手の女を責めるというが、日本の判例にしては珍しく女性目線。

ただ最近は、婚姻関係が破綻している場合は不法行為は成立しないという判例も出たとか。

ちょうど昨日はタレント大桃美代子(45)から、前夫のAPF通信社代表の山路徹氏(49)と「不倫していた」とツイッターでつぶやかれたタレント麻木久仁子(48)が22日、都内で会見を行った。なんてことがあったらしく、店のおかみさんや残った客と盛り上がる。
これだって、芸能人だからということもあるんだろうけど、本来は旦那のほうが釈明べきだと思うんだが。

裁判所も犬も食わない夫婦間の争いについて不法行為の成立(故意または過失により他人の権利を侵害したか否か)を判断しなければならないというのもお気の毒なことではあるし、弁護士としても(少なくともその人は)あまり関わりたくない分野。。
しかもこの妻は怒鳴り込み方も尋常でなく要求も巨額だそうで、示談交渉するにしろ訴訟で争うにしろ疲れることになりそうだとか。

ところでこの依頼を受けたとき、アシスタントに判例のリサーチを頼んだら、「前に調べたことあるんですよね」と即座に詳細な資料が出てきたとか。
彼は一度も頼んだことがないのに何でこんなの調べてたんだよ、とのど元まで出かかったが、怖くて聞けず、という笑えないオチまでついた。



(その2)

年末ぎりぎりになって、クライアント企業が東京地裁立川支部で訴訟を起こされた。
義務履行地だか不法行為の場所が多摩地区だったからだが、クライアントも弁護士も都心にいる。
嫌がらせか、とおもって原告の代理人の住所を見たら、これも都心の事務所。

民事訴訟の管轄は①被告の居住地、②義務履行地、③金銭支払の決済場所、④営業所に関する訴えの場合の当該営業所、⑤不法行為地、⑥不動産の所在地etc.なので東京で訴えればお互いに楽なのにと相手の弁護士に文句を言ったら、成りたての弁護士にボスが丸投げをしていたらしく「知りませんでした」という返事に脱力。
(これはビジネス実務法務3級程度の知識なので僕も知っているんだけど・・・)

今後こういう要領の悪い連中が相手方に立って手続き面での手間に付き合わされることを考えると(訴訟としては相手が間抜けなのは有利なのかもしれないが)暗くなる。



などと、一気に話すので、帰るきっかけを失い、結局1時過ぎまで付き合わされてしまいました(笑)


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質問は無料

2010-08-24 | 法律・裁判・弁護士

たまたま見つけた小飼弾氏のブログ国破れて冗句あり - 書評 - 日本人の戦時下ジョーク集からのまた引き

●弁護士気質
依頼人「質問だけなら、別に料金は要らないでしょうね」
弁護士「左様、質問は幾らでも無料ですが、返答には料金が要りますぞ
(『富士』第日本雄弁会講談社、昭和二〇年四月号)  

今では「弁護士会の無料法律相談」などというように、弁護士に相談するのは有料というのは常識になっていると思いますが、この当時はこれがジョークとして成立していたということは、まだまだ事件を解決したり交渉したり契約書を作ったりという結果が伴わないとお金を払うというのは特殊だったのでしょうか。  

そのために「顧問弁護士」というしくみができて、「こんなのにもお金払うの?」というちょっとした相談も月々の定額に換算するというしくみができたのかもしれませんね(筋の悪いクライアントをスクリーニングするという意味合いもあるでしょうけど)。

しかし、弁護士が急増した現在は、大概の(顧問料を払うような余裕のある)企業のは先輩方がおさえてしまっているし、既に数人の弁護士と付き合いのある企業はこれ以上顧問弁護士は必要としていない、という事情があると思います。(新しく付き合うならcommonな弁護士でなく専門分野に詳しい人のほうが入りやすいという意味でも「コモン弁護士」は飽和状態なのかもしれません。)  

それで貸金業の過払い訴訟など手っ取り早い漁場に殺到しているひともいるようですが、それでは全体のパイが長期的には増えないわけです。
「顧問弁護士」という制度についての上の私の仮説は見当はずれかもしれませんが、何か今まで報酬を払う対象でなかったものから報酬をとれるようなしくみを作るというのは一つの突破口かもしれないなぁ、と思った次第。
(それがなにか、というアイデアがないままの思いつきですが。それにアイデアがあったとして、無資格者の僕がビジネスにしようとすると弁護士法違反を問われるリスクがあるというあたりも・・・)

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コソボ独立宣言についての国際司法裁判所の勧告的意見

2010-07-24 | 法律・裁判・弁護士

国際司法裁判所の勧告的意見は「独立宣言自体は国際法規や国連決議に反してはいない」なのですが、どうしても見出しになるとこうなってしまいがちです。

コソボ:「独立は合法」 国際司法裁が勧告的意見
(2010年7月23日 毎日新聞)

オランダ・ハーグの国際司法裁判所(ICJ)は22日、旧ユーゴスラビアのコソボが08年2月にセルビアからの独立を一方的に宣言したことについて、国際法違反にはあたらないとして合法との判断を下した。法的拘束力はないが、ICJが独立を追認する解釈を示したことで、コソボ承認の動きが国際社会で広がる見通しだ。   

国際法廷がコソボ独立の合法性について判断を下すのは初。セルビアは独立宣言が主権と領土の一体性の侵害であり、国際法に違反していると主張。セルビアの要請を受け、国連総会がICJに法的解釈である「勧告的意見」を求めていた。  

意見の中身を見ればあくまでもコソボの独立宣言が国際法上違法かどうかを判断しているだけ(「コソボ独立の合法性」を判断しているわけではない)なのですが、報道では上のように書きたくなるのでしょう。(マスコミ名誉のために言えば「独立宣言は適法」とした報道のほうが多いですが。)

「ドキュメント 戦争広告代理店」を読んだ身としては、セルビアの国際社会での立ち回り方の不器用さにも少し同情してしまいます。

そこで、国際司法裁判所のサイトを見ると、意見の内容が即日公開されていました(日本の最高裁ももうひとがんばり)。
http://www.icj-cij.org/docket/files/141/15987.pdfPHPSESSID=0cfe3e6f8cb41066025fc1b86d2cdf88  
冒頭の要約のところを読むと  

General international law contains no applicable prohibition of declarations of independence -- Declaration of independence of 17 February 2008 did not violate general international law.  
一般国際法においては独立宣言を禁止しているものはない--2008年2月17日の独立宣言は一般国際法に反してはいない。  

Whether or not the authors of the declaration of independence acted in violation of Security Council resolution 1244 (1999) -- Resolution 1244 (1999) addressed to United Nations Member States and organs of the United Nations -- No specific obligations addressed to other actors --The resolution did not contain any provision dealing with the final status of Kosovo -- Security Council did not reserve for itself the final determination of the situation in Kosovo -- Security Council resolution 1244 (1999) did not bar the authors of the declaration of 17 February 2008 from issuing a declaration of independence -- Declaration of independence did not violate Security Council resolution 1244 (1999).  
(「超訳」ですが)安全保障理事会決議1244号(1999年)は加盟国に特段の義務を課すものではなく、コソボの最終的な状態を決定するものでもなく、その決定を安全保障理事会の権限として留保してもおらず、独立宣言を発することを禁じてもいないので、独立宣言は安保理事会決議に違反するものではない。  

となっていて、 さらに  

Issues relating to the extent of the right of self-determination and the existence of any right of “remedial secession” are beyond the scope of the question posed by the General Assembly.  
自己決定の権利の範疇に関する判断や「救済的分離」の権利の存在するか否かの判断は、国連総会から求められている質問の範疇外である。 

とコソボの独立宣言の根拠付けをすることは避けています。 
(※英語がろくにできない上に国際法についての知識は皆無なので誤解・誤訳があったらご指摘ください。)  

つまり「独立宣言をしたこと自体は違法でない」としか言っておらず、「独立(宣言)をする正当な権利がある」とまで言及はしていないわけです。(詳しくはP31の82項で慎重な言い回しで回避しているあたりをご参照)  

(本来そういうものなのかもしれませんけど)政治的に中立的にかつ純粋な法解釈の範囲にとどめようという国際司法裁判所の意識が感じられます。  


ただ、結果的にはコソボ共和国(自称)の独立自体の正当性が認められたかのように取り上げられることになってしまったわけで、そうなると「独立宣言は国際法違反か」という問題の立て方で国際司法裁判所に持ち込むことを求めたセルビアの戦術が果たしてよかったのかという疑問もわきます。 
たとえ「違法だ」という結論が出たとしても、コソボ暫定政府の事実上の支配を排除するためには安保理事会が動いて・・・と相当迂遠な手続きが必要になるわけですし。

実際問題としては、この手の問題への対処としては、国際法的な是非はさておき、事実上の力を行使して独立を阻止してしまうという某安保理常任理事国が標高の高いところでやっている方式が一番実効性があるわけですが、ボスニア紛争で一度「悪者」になってしまったセルビアだけにそうもいかなかったのでしょうか。  

その辺を読んでいて「独立宣言」をぶちあげたコソボ暫定政府の政治センスが上回っているということなのかもしれません。

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真っ白な無罪

2010-03-27 | 法律・裁判・弁護士
菅家さん『真っ白な無罪』

ご本人がおっしゃる気持ちは非常によくわかります。
ただ、刑法の基本ルールは「真っ黒でなければ無罪(有罪にはできない)」です。
マスコミや私たちは「刑事事件としてはDNA鑑定の信憑性に疑問がある以上無罪で当然」ということを直感的に受け入れにくいのでこのような発言をクローズアップするような感じがします。


一方で殺人事件などの時効廃止とか刑罰の厳罰化が叫ばれる中で、日弁連とか勇気のあるマスコミから「もし実際に犯行に及んでいたとしても、今回の証拠では無罪が当然」という発言が出て、刑事罰のありかたについてより議論が深まればよかったのにと思うのですがちょっと残念。

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社会正義の実現か、予見可能性か

2010-02-11 | 法律・裁判・弁護士

献本御礼(@勤務先)『公開買付けの理論と実務』
ちょうどKDDIとJ-COMなどもあり斜め読み。

このケースのような間接取得について 

当事者が当該取引を検討する前から・・・問題となる株券等を保有していた場合、・・・当該株券等の公開買付けを法が強制すべき合理的理由はない。

というのはその通りだと思います。  

ただ、KDDIのリリース株式会社ジュピターテレコムへの資本参加についてをみると、今回KDDIが取得する中間持株会社は、J-COMの株しか持っていないようで、そうすると「買おうと思っていた対象会社がたまたま上場会社の株を持っていたからってその会社にもTOBをかけないといけないのはおかしい」という理屈でなく、「実質的にJ-COM株を保有するためだけの会社を買うのならTOBしろよ」という理屈も成り立ちます。

このへんは当然意見が分かれるようで、
焦点:KDDIのJCOM出資手法は適法か、TOB解釈で専門家も二分
(2010年1月25日 ロイター) によれば

西村あさひ法律事務所の太田洋弁護士は、3分の1以上の取得を目指す買い手に、強制的にTOB義務を課す現行の制度の合理性をどうみるかによって見解は分かれ得る、としたうえで「法律の趣旨からするとどうかという議論はある。しかし、中間持ち株会社が以前から存在するなら露骨な脱法とはいえず、違法とまでは言えないのではないか」と語る。  

TMI総合法律事務所の中川秀宣言弁護士は「KDDIはJCOMに直接TOBをするべきではないか」と指摘する。今回の開示資料だけでは中間持ち株会社の中味を明確に理解するのは難しい、としながらも、JCOMの株式を保有する以外の機能がない、実質ペーパーカンパニーであれば「TOBルールに照らして(今回のやり方は)おかしい」と語る。  

形式を優先するか、実質をみるか、という違いですね。

上の本でも「たとえば・・・強制公開買付けの適用除外(法27条の2第1項ただし書)を利用して売主が1年以上保有している子会社に公開買付規制の適用のある株式を譲渡し、あるいは会社分割によって子会社に当該株式を切り出した上で、即座に当該子会社株式を買主に譲渡するような場合」は脱法行為とみられる、と言っています。  

ただ、取得対象会社に、問題となる上場株式以外の資産がほんの少しだけでもあればいのか(現金10万円とか)、という議論になると実質判断も微妙な部分があります(新株発行における「主要目的ルール」のdeja vu)。
しかも、TOB規制違反に対する課徴金が相当引き上げられた現状においては(まあ、違法行為を抑止するためなのでそれは仕方ないとしても)、予測可能性がないと実務上はとても悩ましい判断を迫られることになります。

実もふたもない言い方かもしれませんが、そもそも一つの制度にもろもろの社会正義の実現を委ねること自体に無理があるのかもしれません。


本件については、金融庁はTOB規制に抵触するという判断をしたとか(KDDIは否定してます)、もう一方の株主の住友商事がTOBをかけるかなど、状況はさらに流動的になっているようですので、また取り上げる機会もあるかと思います。


※ 住友商事はCATV事業の初期のころから、地域会社(当時は広域での免許を認められていなかったように思います)をこつこつと作っていたと思うので、ここで「トンビに油揚げ」は納得できない部分もあるんでしょうね。。

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宇都宮弁護士といえば消費者金融問題、というのは短絡的過ぎるかもしれませんが

2010-02-08 | 法律・裁判・弁護士
再投票になった日弁連選挙ですが、反主流派(というと良くないのかな?改革派というと肩入れしているみたいだし...まあ、僕には投票権がないんですが)の宇都宮弁護士といえばサラ金のグレーゾーン金利にかなり早い時期から切り込んだ人というイメージが強い人です。

現在では過払い訴訟は多くの弁護士の食い扶持になっているわけですが、このビジネスモデルのすごいところは、争えば必ず勝つし、相手の貸金業者がつぶれるまではとりっぱぐれがないことです。
アメリカ流に言えば「七面鳥撃ち」ですね。

その結果、過払い訴訟の分野が過当競争になり(しかも司法書士も取り扱えるようになったので輪をかけてます)、別の問題--簡単に結果が出る案件しか扱われず本当に困っている複雑な事情の人は相手にされない、とか、過払い額というパイが明確なので依頼人への返還と弁護士報酬がゼロサムになりそこにコンフリクトが生じるなど--が出てきているくらいになっているわけです。

今回宇都宮弁護士がどのような理由で支持を集めたのかは知りませんが、ひょっとすると(ご本人はそんなことは思っていないでしょうが)「第二の過払い訴訟」のような新しいビジネスモデルの開拓を期待されているのかもしれません。


個人的には、それはそれで世の中いい方向に行くんじゃないかな、とも思っています。

というのは、もし裁判所が現在の契約なり慣行なりがおかしいというのであれば、企業としてもリスクマネジメントの観点からは問題点を早い時点で指摘してもらったほうが早めに修正して損害も少なくて済むので「太らせてから喰え」とやられるよりはずいぶんましです。

実際、過払い訴訟のように過去に遡って不当利得返還を求められるような超過利得を得ている企業というのはそんなに多くなと思います。
(最近話題の更新料訴訟も、個人的には一律に消費者契約法違反というのも無理があるように思うのですが、その話は機会があれば後日--これは借地借家法の正当事由制度と高齢者の住居の確保のセーフティネットの問題など別の意味で根深いと思うので)

ただ、企業がすばやく対応してしまうと「七面鳥撃ち」にならないので弁護士の収益としては美味しくないということになってしまうのが悩ましいところかもしれません(社会正義が実現されれば、弁護士の方はそんな小さいことにはこだわらないでしょうが)。

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判例時報の「晒し」

2010-01-28 | 法律・裁判・弁護士

「判例時報」という裁判の判決とその解説を載せている雑誌があるのですが、判決の選定でたまに弁護士業に厳しいものが載ってます。
判決の選定に裁判官もかかわっているという話を聞いたことがあるのでそのため?

N0.2059にこんなのが 

顧問契約を締結した税理士らが誤回答をしたとし、弁護士法人が税理士らに対してした不法行為に基づく損害賠償請求が認められなかった事例
(東京地裁民事44部H21.2.19判決)  

事案の概要と解説を読むと 

Xは・・・弁護士法人であるが、その設立にあたって、節税に資する資本金額について、税理士であるYらに相談したところ・・・資本金額はいくらでもよい旨の回答を得たため、資本金額を1000万円として設立したところ、消費税3060万9700円を課せられることになった。

のだそうです。そして  

本件の争点は、税理士の従業員が、弁護士法人の設立にあたって、節税に資する資本金額等について誤った回答を行ったか否かという事実認定の問題であるが、節税に関する書類による相談・回答がないため、誤回答に関するXの代表者の供述が採用されず、Xの主張が認められなかったものである。  

要は「言った言わない」の問題です。
じゃあ、なぜ判例時報に取り上げる価値があるかというと  

本判決は、単なる事実認定の問題に過ぎないが、税務相談のあり方を考えるにあたって参考となる裁判例である。

と、もっともらしくまとめています。
ただ、このあとに続く判決文を読むと、「晒し」が目的なのではないかという感じがします。 (裁判は公開の法廷で行われるという建前なので、厳密には「晒し」とは言えないかもしれませんが、判決文までは通常は当事者以外は入手は難しいです。) 

以下、判決文の最後の部分(ご丁寧に傍線つきです)。  

原告・・・の主張ないし供述には、次のとおり、様々な疑問があるといわざるを得ない。

(ア)まず原告は、当初戊田(注:被告税理士事務所職員・仮名)からの回答があったのが平成17年3月11日ころであったと主張し・・・原告代表者の陳述書にも同旨の記載があったところ、その後・・・同年3月22日と変更した。しかしながら、この主張ないし供述の変更は、単に日時の変更というのにとどまらず、戊田が一人で乙山(仮名:原告法律事務所職員)の許を訪ねて回答をしたのか、・・・被告松夫(仮名)があいさつも兼ねて戊田を同道・・・した際に・・・回答をしたのかという状況の説明にも大きな変更があり、さらに、同年4月1日という法人設立の日時を基準として考えると、、その約10日前という直前とも言える時期になってようやく回答があったのか、それとも約3週間前という比較的余裕のある時期に回答があったのかという全く印象の異なるはずの出来事についての説明変更になっているのであって、単純な勘違いや記憶違いとは考えられない主張ないし供述の変更であるといわざるを得ない。

(イ) また、被告松夫は、節税の観点から・・・質問された場合には、消費税ばかりでなく法人税その他の税も念頭に置いたうえで、法人の規模・種類・事業内容、経費支出の多寡等等様々な要素を考慮に入れて判断する必要があるから、これらの点について確認し、資料の提供を求めるはずであると・・・の供述は、・・・顧問の税理士として当然の反応である・・・。しかしながら、乙山が電子メールで質問をしたという平成17年2月24日から本件面談の阿多同年3月22日までの間、被告ら(戊田を含む)からこれらの点についての質問がなかったことは乙山自身が認めているところであるし・・・、本件面談の際にもそのような質問はなかったというのであり、この点も極めて不自然であるといわざるを得ない。

(ウ)さらに、原告の主張ないし原告代表者の供述によれば、本件面談の際には、税理士である被告松夫が同席していたにもかかわらず、税理士ではなく単なる事務職員に過ぎない戊田が回答をしたというのであるが、①・・・②・・・③・・・、結局、本件面談当日のやりとりに関する原告の主張ないし原告代表者の供述はあまりにも不自然であるといわざるを得ない。

と、要するにそもそも「資本金額はいくらでもよい旨の回答」があったとは思えない、弁護士法人がいい加減な主張をしたり(弁護士法人の代表者ですから)弁護士がいい加減な供述をするんじゃないよ、と言わんばかりです。  

しかも、判例時報は原告・被告は「甲野」「乙山」などの仮名なのですが、訴訟代理人弁護士は実名です。 
そこで、何人か並んでいる弁護士名で検索してみると、どうやらこの事務所のようです。 
債務整理がメインの事務所で、支店も4つあり(だから法人化したんでしょう)、弁護士のほか司法書士もたくさん抱えています。 
3060万円も消費税を取られたということですから、6億円の売り上げがあったということですね。やはり過払い訴訟は弁護士にとってドル箱のようです。  

ところで資本金と消費税ってなんだろうと「資本金 消費税」で検索してみると、一番上に出てくるのがこれ  

納税義務の判定は基準期間の課税売上高で行います。そのため設立間際の1年決算法人であれば、第1期、第2期については基準期間が存在せず、自動的に消費税の納税義務は無いことになります。  

ですが、そのような基準期間がない法人については次のような特例が存在します。

法人のうち、その基準期間が無い課税期間における納税義務については、その基準期間がない課税期間開始日における資本金の額が1千万円以上であれば、その課税期間における納税義務は免除しない

これは第1期、第2期であっても資本金が1千万円以上であれば、自動的に納税義務が発生することを意味しています。

もしこれが課税の原因だったとすると、資本金を1千万円にしてしまったので、初年度から消費税の納税義務が生じたということですね。  

弁護士資格者は税理士もできますし、債務整理の相談に乗っている弁護士が税金の基礎知識くらいはあると思うので、まさかこんな簡単にググれば出てくるようなことを他人のせいにしているわけではないと思いますが、もしそうだとすれば、晒してやれ(上品に言うと「税務相談のあり方を考えるにあたって参考となる裁判例である」と表現するようです)、と判例時報が思う気持ちもわかります。
また、他人の専門家としての責任を問う前に、「あまりにも不自然であるといわざるを得ない。」と言われるような供述をする(またはそのような訴訟をする)弁護士法人と代表者の専門性は如何?というあたりも突っ込みどころです。


この弁護士法人のサイトには マスコミ関係者の方へ というコーナーも作っているくらいで目立ちたがりの事務所のようですが、テレビなどに取り上げられたり、広告をバンバン打ったりしているところは、やはりどこか・・・なんでしょうか?

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背に腹は代えられるか

2009-12-10 | 法律・裁判・弁護士

この前週刊ダイヤモンドの特集で、街金が融資のできない多重債務者に対し債務整理の弁護士を紹介して、過払利息返還の報酬の一部のキックバックを受けるという話がありました。  

弁護士の人数が増えてきて、司法修習を終えても就職ができなかったり、「軒弁」としていきなり独立する(余儀なくされる)人もいる中で、どのようにして顧客や案件を獲得するかはけっこう切実な問題なんだと思います。 

ローファーム系では、このクライアントは誰のアカウントなどと厳密にやっているところが多いようですし、個人経営の事務所は定年制もないし若い弁護士が独立する際にも「のれん分け」をせずクライアントを自分の事務所に囲い込んでしまうこともできるわけです。  

営業も仕事のうち、といえばそれまでですし、「資格を取れば当然に仕事が来るわけではない」というのはどの資格にも共通で、考えようによっては弁護士は今まで恵まれていたということかもしれませんが、アメリカのAmbulance Chaserのような弁護士が増えるのも困ったものではあります。  


さらに最近、不動産業者が弁護士や税理士などに対し、不動産の売買の情報提供を依頼し成約した場合には報酬を支払うというような営業をかけていて、これに対して弁護士会(東京?)から報酬をもらう行為が弁護士職務基本規定に反する恐れがあるので自粛するようにという告知が出たそうです。  

弁護士職務基本規定では  

第13条2項
弁護士は、依頼者の紹介をしたことに対する謝礼その他の対価を受け取ってはならない。

第23条 
弁護士は、正当な理由なく、依頼者について職務上知り得た秘密を他に漏らし、又は利用してはならない。  

第28条 
弁護士は、前条に規定するもののほか、次の各号のいずれかに該当する事件については、その職務を行ってはならない。ただし、第一号及び第四号に掲げる事件についてその依頼者が同意した場合、第二号に掲げる事件についてその依頼者及び相手方が同意した場合並びに第三号に掲げる事件についてその依頼者及び他の依頼者のいずれもが同意した場合は、この限りでない。

4 依頼者の利益と自己の経済的利益が相反する事件  

というあたりに該当するのでしょう。


確かに相続争いなどの処理の一環として不動産を売却するような局面があるでしょうから、そこで依頼者の事情如何を問わず売却のほうにインセンティブが働くというのはよろしくないですね。   


これを聞いたとき、最初は弁護士過剰時代の問題かと思ったのですが、仕事に困った弁護士はそもそも紹介する案件がないので、実際に報酬をもらっているのは顧客を抱えている中堅・ベテランの弁護士が多いのではないでしょうか。
そうなると弁護士過剰の問題ではなく、純粋に職業倫理の問題ですね。 

この構図は不動産売買に限らず、M&Aなどでもおこりそうです。
となると、ますます大きな案件を扱う事務所の問題なのかもしれません。  


以前案件を紹介した弁護士から、M&A案件の紹介を受けると同時に、デューディリジェンスなどの法律相談業務を委託することを内容にした「業務委託契約書」を手回し良く提示されたことがありました。
そういうビジネスモデルの事務所も確かにあるんだとは思います。

ただ、クライアント側からすると、過去に仕事を依頼したことがない事務所だと、そもそも当社の利益を考えてくれるのか(コンフリクトの問題)、成約にインセンティブが働く(かデューディリジェンスの段階でぼったくる)んじゃないか、さらに案件としては歓迎すべきものだったとしても、デューディリジェンスとかM&Aの契約などの品質が大丈夫かというあたりが不安なので、「お話はありがたいけど、ご紹介いただいた分は別途お支払いするとして・・・」としたいときがあるのも正直なところです。  


結局忠実義務や守秘義務との兼ね合いなので、今までは各弁護士が職業倫理に照らしながらケースバイケースで対応していたのでしょうが、上の不動産業者の例のような手っ取り早い報酬欲しさに顧客の信用を切り売りする弁護士が増えると弁護士全体の信用を損なうことになりかねないので今回の告知になったのだと思います。


それだけ弁護士会の中でも、信用できない人が増えているという表れなのかもしれませんし、実はそのほうが心配。


コメント (2)
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