一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『真田四代と信繁』と大河ドラマ「真田丸」と池波正太郎『真田太平記』

2016-06-11 | 乱読日記
結局『真田騒動』のあと『真田太平記』にとりかかっている(現在9巻まで読了)

そのうちにTLで大河ドラマ「真田丸」の時代考証をしている丸島和洋氏の本が紹介されていたので、早速購入。

『真田太平記』と「真田丸」を並行していると、出来事の順序や人物の描き方、関係がかなり異なっていることに気づく。
気付く、というよりも、異なる史実を描いていると思えるくらい違うところがある。


『真田太平記』では高く評価されている信幸が、「真田丸」ではいつも割を食っている感じに描かれている。
タイトルからも、真田家の物語(『真田太平記』)信繁(幸村)の物語(「真田丸」)との違いもあるのだろうし、ドラマは毎回山場を作る必要があるので、三谷幸喜としては大泉洋のキャスティングと併せていじられ役として上手く使っているのだろう。


本書を読むと「真田丸」では最近の研究成果である「国衆」という概念を反映させていること、「国衆」と「大名」との違いなどがよくわかる。
一方で「真田丸」でもかなり史実を取捨選択したり脚色しており、『真田太平記』だけがフィクションに基づく娯楽小説というわけでもないこともわかる。

『真田太平記』は真田昌幸、信幸、信繁の武将の物語に「草の者」(=忍び)の活躍が縦横に絡んでくる。
一方で、「真田丸」は女性の存在感が大きい。
この辺は、双方のエンターテインメントとしての重きの置き所の違いだろう。

また、TVドラマはわかりやすい決め台詞が毎回の盛り上がりには大事だし時間の節約にもなるので必要なのだろうが、逆にちょっと鼻につくところもある。
その分小説は長さの制約がないので、登場人物の気持ちの揺れなどを細かく描写することが可能だし、背景の解説や余談の余地も大きいが、その分創作度が高くなる。

しかしいずれも、100年以上続いた戦国時代が終局にさしかかっているという時代背景の中でのそれぞれの戦国武将の生き様を描いているという点は共通している。
そして二つの物語の間の補助線(本来は史実をベースにしたこちらの方が中心軸なんですが)として、『真田四代と信繁』はとても興味深く読むことができた。










コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『仕事に効く教養としての「世界史」』

2016-06-08 | 乱読日記

先般ライフネット生命と一悶着あったので(参照:ライフネット生命様は拙ブログにご不満のようです。)、積読していた会長の出口氏の本を手に取ってみた。

いい歳してなんでこんな自己啓発っぽい書名の本を買ったのかは不明なのだが、出口氏の発言とか博覧強記ぶりは好きなので買ったのではないかと思われる。


結論から言うと、面白い本ではあるが「仕事に効く」かどうかは読む人次第。

この本は世界史を出口氏がどう再構成して理解しているかを語っている。
自分が不勉強なので最新の研究成果などを反映しているのかも知れないが、それ以外にも「現在に引き直せばこれこれ」というたとえ話が非常に多く、それが腹に落ちやすい。

ただ、それが「仕事に効く」かは別問題。

あとがきにはこうある。

歴史を学ぶことが「仕事に効く」のは、仕事をしていくうえでの具体的なノウハウが得られる、といった意味ではありません。負け戦をニヤリと受け止められるような、骨太の知性を身につけてほしいという思いからでした。そのことはまた、多少の成功で舞い上がってしまうような幼さを捨ててほしいということでもありました。

しかし、より大事なことは、見聞した経験を自分なりに再構成するという姿勢を学ぶことであり、本書の「世界史」を鵜呑みにすることではない(今まで知らなかった知識を得られるという部分はプラスではあるが)。

あとがきの末尾近くに、こうも書いてある。

冒頭に述べたように、この本は、僕が半世紀の間に、見たり読んだり聞いたりして、自分で咀嚼して腹落ちしたことをいくつるかとりまとめたものです。この本の準備のために読んだ本は一冊もありません。それが参考文献を特に明示しなかった理由です。

そのとおり、「咀嚼と腹落ち」という過程が一番大事。
そして経験を本当に「仕事に効」かせるには、本が書けるくらいまで顎と胃腸を鍛えないといけないぞ、と大先輩はおっしゃっておられる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『この世にたやすい仕事はない』

2016-06-05 | 乱読日記
仕事に燃え尽きて退職した30代半ばの女性が、ハローワークで紹介されるちょっと妙な仕事を渡り歩くなかで、仕事、働くということを考えるという話。

主人公が、ありそうでなさそうな仕事を渡り歩くなかで、それぞれの仕事の意外な展開を楽しンでいるうちに、気が付いたら気持ちのいい出口にたどり着くことができる。

「キャリア形成」とか「自己実現」とか逆に「ブラック」「非正規」というような大きな声、大きな物語でなく「壁と卵」のように肩に力も入れずに、身近でしかも虚実の境目にあるような柔らかい物語に仕上がっているのが読んでいて楽しい。


個人的には語り口がツボにはまった。
細かい点が気になるがそれは口に出さないでおこう、とかそれはここでは無視して進もうということは日常数多くあるのだが、そういうディテールにいちいちつっこむものの、饒舌にはならずに平熱で淡々と語るところが、面白さを倍加させている。
作者の津村記久子の作品を読むのは初めてなので(芥川賞作家だったことも知らなかった)、これが作者のスタイルなのかはわからないが、別の本も読んでみよう、という気分になる。


ここからは余計なお世話。

初出が日本経済新聞電子版に2014年5月から2015年3月とある。

電子版独自のコンテンツをアピールするなら、「日経○○」という個別分野の雑誌記事の引用やFTの記事ではなくこういうコンテンツをもっとアピールしたほうがいいと思う。
紙面でも、文化面は肩の力が抜けていて意外と面白かったりするんだし。

それに、初出が電子版のメディアだったにもかかわらず、初版後半年経っても電子版が出ないのも間が抜けているように思うのだが、作者の意向なのだろうか?



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする