褒めまくる映画伝道師のブログ

映画の記事がメイン。自己基準で良かった映画ばかり紹介します。とにかく褒めることがコンセプトです。

映画 鏡の中にある如く(1961) 神の沈黙シリーズ三部作の第一弾

2021年07月17日 | 映画(か行)
 スウェーデンを代表するというよりも、世界映画史を代表する映画監督であるイングマール・ベルイマン。彼の作風は娯楽性なんか殆ど無く、登場人物達が『あ~でない、こうでもない』なんて台詞を繰り返しながら、人間関係の絆がどんどん離れて行ったり、人間の奥底にある欲望をあぶり出したり、神様にすがっている人間をさらに深い悩みに陥れたりで、観終わった後に気が滅入りそうになったりする。ハッキリ言って暗い映画ばかり撮っている印象があるが、人生の厳しさを観ている者に叩きこむその一切の妥協のない描写、冷酷な表現、ストーリー展開は、何時の間にやら観ている間に様々な想いを想像させる。
 彼が生み出した映画史に遺る燦然とした作品群の中でも今回紹介する鏡の中にある如くは彼の作品の中でも神の沈黙三部作と言われる第一弾(第二弾は冬の光、第三弾は沈黙)。長きにわたり多くの映画を撮ってきたが、その中でも重要な位置づけにある作品だ。
 
 たったの四人しか登場しない映画だが、誰もがもがき苦しんいる様子を描写したストーリーの紹介を。
 海で囲まれた孤島にある別荘が舞台。作家のダビッド(グンナール・ビョルンストランド)はスイスでの仕事の疲れを癒すために、精神病を患っている娘のカリン(ハリエット・アンデルセン)、その夫で医者のマーチン(マックス・フォン・シドー)、そしてまだ高校生の息子のミーナス(ラーシュ・パッスコード)を連れて、孤島にある別荘にやって来た。
 別荘でこの四人は楽しそうにしていると思いきや、実はそれぞれが悩みを抱えているし、身近な家族の関係でありながら相談できない溝が生じている。なかなか寝付けないカリンは父親のダビッドの寝室へ行く。父親の部屋で彼のメモを見てしまったカリンは驚く。そのメモは彼女の病気は治らないこと、そしてダビッドは小説のネタにするために彼女が次第に病気によって衰弱していく様子が書いていた。そのメモを見たことによって、更にカリンはいっそう精神を病んでいく・・・

 娘の病気のことをネタにして、更なる名誉と金を企んでいるクズの父親。どこかの病気をネタにして利潤を追求している大企業やインチキな国家を思わず想像してしまったが、巨匠ベルイマンが凄いのは絶望的な状況を描きながらも、少しばかりの希望を見せてくれること。せっかく楽しい孤島での生活が家族の絆をドンドン壊していく様子はまさにベルイマンの真骨頂。カリンが神の存在を信じていながらも一向に状況がよくならない展開は、まさに神の沈黙シリーズに相応しい。しかし、人間を苦しみから解放するのは実は非常に身近にあるんだと本作を観終えた後に感じることができる。
 本作において一番説得力がない奴が『神とは・・・』なんて哲学的なこと最後に語り出すが、よく考えたら完璧な人間なんて存在しないし、失敗したからこそ教えられることがある。逆に自分を偉そうに見せるために、身の程知らずのことを平気で口にしたり、行動がまるでともなわない政治家は本当に浅ましい。そんな政治家は国民の心をますます傷つけるだけなので思い当たる奴は今すぐにでも辞職するべきだろう。
 たった四人の登場人物だけであるが、それぞれの人物描写が丹念に描かれており、悩みを持たない人間なんてこの世には居ないんだということがよくわかる。孤島という狭い空間、少ない人数の設定だが、実はこの世の縮図であることに気付かせる。今や日本のみならず世界がコロナ禍によって大変な状況。そんな時にデマを流しまくって人々の心を混乱させたり、あらゆる希望をぶっ潰そうとする輩が目立つ今日この頃。本作を観てハッピーな気分にはなれないが、意外に困難な現代を活きる方法の糧となりそうなのが今回紹介した映画鏡の中にある如く。古い映画であるが、今の時代だからこそ本作をお勧め映画として挙げておこう

 監督は前述したイングマール・ベルイマン。好き嫌いが分かれる映画監督であると思うが、人間の欲望をえぐり出し、困難な出来事を通して人生の厳しさを描き、家族でも理解ができない人間の相互不信、そして信じても大して救われない宗教等。暗い映画ばかり撮っている気がするが、そんな中でもほんの少しの希望の灯を見せてくれるのが良い。第七の封印野いちご処女の泉等がお勧め。
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする