自然の中では、木々の枝に硬い芽がつき、陽射しの伸びてくるのを待っている。鳥の鳴き声にも弾むリズムが感じられる。朝、起きると雨だった。少しづつではあるが、風のそよぎに、雨の匂いにも、水の音にも、其処此処に春の準備に余念がない。
宇宙の輝きにも、淡い霞が懸かっていくよう。だがもう少し、オリオンもシリウスもプロキオンさえ、天を翔けている。艶やかな舞を見せる昴さえも、羽衣を纏っている。今宵は、月の乙女の舞に、笛など重ねてみようではないか。
宇宙の光の滴を受けて、地上にはゆっくりと息吹く物あり。水仙が咲き、椿が綻ぶ。二月堂のお水取りが始まると、雪が最期の一指しを舞う。せせらぎが奔り、鳥の囀りに変わり、人々の胸の中にも温かな想いが満ちる。
蕗の薹が土や、雪を押し上げて、覗いて来るのも日数を指折るばかり。それでも残雪の中に、雷鳥やカモシカの雄々しい姿も見える頃。春を待つということには、耐える歓びがある反面、心が浮き立つ想いも少なくない。
祖母が冬を殊の他、大切にしていたことが思われる。子ども頃には厭でならなかった暮らしも、今は懐かしく偲ばれてならない。落葉掻き、薪拾い、風呂焚き、豆腐作りでの豆乳の味。生活は便利になったけれど、其処に還ることはできない。
晩秋に一輪咲いた薔薇。花弁が、澄んでいたのが印象的でした。