祖母がいなくなって、暫くは放心状態のふみこだった。それにしても、今わの際に祖母が云ったことも妙に気になり落ち着かない。ふみこは小さな時から身内や近所周りの者から、遠ざけられる存在だった。目の前にあることではなく、次に起きることが分かってしまうので気味悪がられた。それも数年先の事まで。
ふみこはその度に嘘つき呼ばわりされ、何年か経ってのことには誰も取りあわない。祖母は、口を引き結んでいるふみこに「言わん方がええ、その力は今は使こうたらいけん」悔しさに眼を怒らせ泣きそうだった。祖母はふみこの背中を指すってなだめ「神さんがふみこだけにおせてくれとるん、だいじにせにゃ」
ふみこは心奥底で、言葉が積み重なり繰られ織り込まれる度に視えて来る映像に怯えた。思うことがそのまま視え、そこに自分が居るのにも不思議だった。でも、行ったこともない場所なのだ。ふみこの記憶の残像であり、リョウを思い出せる印なのだが気づかないままでいた。祖母の傍は居心地が良かったのだ。
月の光が辺りを照らす夜だった。ふみこは、誰かに呼ばれたように庭に出た。月からのあまねく銀のしずくが、ふみこの身体に降り注ぎ包み込んでいく。楽の音が耳に冴えわたったかと思うと、御仏の姿が視えた。差し招かれる心地に、ふみこはついと手を伸ばした。月に往きたかった、何故か知らず募る想いで。
祖母がふみこの身体を強く引き戻し「今は往っちゃならん」朦朧とした意識の中で、祖母の必死な懇願を耳にふみこは寝床に連れ戻されていた。祖母ちゃん、兎がおったな白兎と玉兎言うたわ。昔のことじゃふみこ眠れや、という祖母の声を聴きながら胸にせり上がって来る想いを持て余していた。リョウ誰なん。
ふみこはその度に嘘つき呼ばわりされ、何年か経ってのことには誰も取りあわない。祖母は、口を引き結んでいるふみこに「言わん方がええ、その力は今は使こうたらいけん」悔しさに眼を怒らせ泣きそうだった。祖母はふみこの背中を指すってなだめ「神さんがふみこだけにおせてくれとるん、だいじにせにゃ」
ふみこは心奥底で、言葉が積み重なり繰られ織り込まれる度に視えて来る映像に怯えた。思うことがそのまま視え、そこに自分が居るのにも不思議だった。でも、行ったこともない場所なのだ。ふみこの記憶の残像であり、リョウを思い出せる印なのだが気づかないままでいた。祖母の傍は居心地が良かったのだ。
月の光が辺りを照らす夜だった。ふみこは、誰かに呼ばれたように庭に出た。月からのあまねく銀のしずくが、ふみこの身体に降り注ぎ包み込んでいく。楽の音が耳に冴えわたったかと思うと、御仏の姿が視えた。差し招かれる心地に、ふみこはついと手を伸ばした。月に往きたかった、何故か知らず募る想いで。
祖母がふみこの身体を強く引き戻し「今は往っちゃならん」朦朧とした意識の中で、祖母の必死な懇願を耳にふみこは寝床に連れ戻されていた。祖母ちゃん、兎がおったな白兎と玉兎言うたわ。昔のことじゃふみこ眠れや、という祖母の声を聴きながら胸にせり上がって来る想いを持て余していた。リョウ誰なん。