洋食屋の匂いってのはたまんないね。フレンチやイタリアンより直接的に空腹信号を発する中枢神経をえぐってくる。甘いバターやコトコト煮込むドミグラスソースや揚げ油の匂いだ。
周防町の『ばらの木』も街路に誠にいい匂いをさせる一軒。ここには甘酸っぱい思い出があって、ちょいと年上のOLに、高校卒業の記念にと食事を奢ってもらった思い出がある。ほんの少し緊張して、ステーキとここの名物ドライカレーを食べたと思う。そのオネ~サンもさぞいい匂いをさせていただろうに、こっちは隣の女性には目もくれず、目の前の食欲の方に全神経を持っていかれていた。今、戻れたならそんなことはしないだろうけどさ。ばらの棘の如き遠き思ひ出。胸にチクッと滲みるよな。
もう50年近く続く店だから、オレみたいなさまざまな感慨を持って、ここに通うお客がいるのだろう。長いことやってる店ってのは、そんなストーリーがあるからおもしろい。
洋食屋のポークカツレツというのがいい。「銀座煉瓦亭」へは一時よく通ったもので、ウスターソースに辛子をつけてかぶりつく。衣と肉の接着の甘いところはあるが、ちょっと薄手の感じがとんかつとは違ってスマートな気がした。ばらの木のとんかつは分厚く、しっかり肉を噛みしめる感じ。本当はジャブジャブ行きたいところだが、皿に敷いたソースで上品に。だけど残ったソースにゃ白いごはんを少量移してグジャグジャとかき混ぜて平らげた。
ドライカレーなんてメニューには載っていない。カレーライスと書いているので注文して慌てぬよう。ステーキの断ち落とし肉、カレー粉がヒリリと辛い。これをアテにウヰスキーが傾けられるオジンになりたい。
ここの2階が「そうるめいと」というお好み焼き屋になっていて、昔パブみたいなことをやっていた時分、演奏に来たっけ。ここのお好み焼きももちろん悪くない。