NHKカルチャーセンター「蕎麦チョイ通入門」。
通になるための道ははてしなく遠い。
だが、チョイと通にだったら、なれるかもしれない。
蕎麦屋で通ぶってみたって、チョイとだけなら微笑ましいもの。
そんなことで蕎麦の来歴やら、ヨタ話を私がしゃべり、
一流の職人の仕事を味わっていただこうという会。
講師なんてガラぢゃない、いいとこ案内人、コーディネーター、添乗員、コンシェルジュ…
配った資料には、「弁士」とした。 ちょっとうさんくさい弁士辺りが丁度いい。
淀屋橋1番出口上がって、待ち合わせ。
ビッグイシュー売りのおっちゃん、ちょいと邪魔するぜ。
米国総領事館を過ぎて、老松通りを西へ西へ。
ここは大阪天満宮の参道でもあり、かつて大塩平八郎や西山宗因が住んだ街で、
戦後、古美術・骨董の店が増え、今や90軒近くもあるという。
ウインドーを覗けど、私ごときの懐には合うわけもなく。
着いた先は、ご存じ「なにわ翁」。
初代がなんばで開業。82年の歴史を持つ浪花のうどんそばの店だったが、
3代目が「翁」高橋邦弘師の弟子となり、蕎麦一本に切り替えた。
2階にお邪魔し、主人勘田拓志さんを紹介する。
昨晩描いた、自作の蕎麦の絵で図解。
胚芽がこんな風にS字になっとるのですよ。
もっとも栄養価の高い胚芽の部分が、蕎麦の場合、中央内部にある。
米や麦は端っこにあるため、精米時にポロッと取れてしまうが、
蕎麦の場合、すべて蕎麦粉の中に含まれるので、
余すところなくビタミンB1などが摂れるという訳。
最初は、もっとも地味にしてもっとも大事な、木鉢(こね)の工程。
一級のプロのわざを、これだけの至近距離で見るチャンスはそうそうない。
アレルギーなら、咳込みそうな距離。 みなさん、真剣なまなざし。
「水回し」という作業。
蕎麦は水(と、つなぎ)だけで打つものなので、蕎麦粉の一粒一粒に
水を吸わせるように、まさに水を回して行く。
この際、蕎麦粉は熱を嫌うので、指先だけを使う。
ある程度、水を含んだら一つにくくり、
今度は捏ねて行く。
手早くやらないと、風邪をひく(乾燥してしまう)。
菊揉みというもっとも理に適った捏ね合わせ方は、
焼きものでも使われる方法。
団子にすると小ぶりのかぼちゃ大。
こうした菊のつぼみの文様になるから「菊揉み」という。
これを一端とがらせて、菊の文様を消して、木鉢の工程は終わる。
鉢には一粒の蕎麦粉も残っていない。
次は延し台へと移動。
さらしな粉をたっぷり打ちながら、これを手で丸く延して行く。
ある程度延したら、麺棒で丸く延し、
次に四角くしていく。
三本の麺棒を使うのは江戸流。
使っているのは、なんと、元ヤンキース松井の使うのと同じ、
バット職人、久保田五十一の手による麺棒。
ちょっと重く、使いやすいとか。 グリップエンドにはMizunoのマーク入り。
延しが終わったら、折り畳んで、次は最後の庖丁だ。
素人目にはもっとも難しく、ここが見せ場の切りの工程!
でもホントは、[木鉢・延し・庖丁] の中では、もっとも簡単な作業。
塗りの生舟にきれいに並べられた、蕎麦切り。
さぁ階下に降りて、早速いただきましょうか。
山葵の茎の漬けてあるやつ (正式名称わからず)
こういうのがくっ付いてくると、私好みの豊の秋はすいすい飲めてしまう。
そば味噌といえど、大きく二種類あって、江戸味噌を滑らかに捏ね合わせて作る、江戸老舗系と、
一茶庵系の味噌・ネギ・蕎麦の実などを合わせて、しゃもじに塗って焼くタイプ。
どっちも好きだい。
でも、お酒を飲まない人たちは、どうするんだろ・・・
小ぶりの蕎麦が出していただく。火にかけた鍋の中で一気加勢に掻きあげる。
山葵醤油で。様々なパターンがある。
木の葉型にしてあって、桶のお湯の中に泳がせてある古いタイプは
長いこと会ってないなぁ~。
清涼感ただよう、梅おろしそば。
今の季節にどんぴしゃ!
とろろおろしそば。
半分、花巻になっていて、海苔の香りと山芋がいい感じ。
山葵かと思ったのは、辛味大根。
そして、仕上げは看板のざるそば。
ひんやりと冷水で締められている。
歯応え、香り、申し分ない。
添えられた薬味は、つゆに溶くばかりぢゃ芸がない。
麺に山葵をちょいっと置くもよし、一味パラリもよい。
一口残しておいて、蕎麦湯でうめて食べれば、ミニかけそばができる。
好きなように楽しめるのが、蕎麦。
ただ、時分どきに来て、忙しいさなか酒だなんだと注文してはいけない。
昼は外して、おやつの時間辺りに出直した方がいい。
堂々と昼酒を飲めるのが、蕎麦屋のよさ。
飲めない人も、かたくなに拒否せず、ほんの少しどうでしょう…。