なんつうことを考えておったわけです。長年ね。
ステーキ、昔はビフテキと言いましたが、そのまた昔はビステキと呼んだそう。
「今日は懐があったかいから、テキにしよ、テキに…」なんちゅうことを言ったわけですな。
焼いただけで、素材力だけぢゃないの?
それぢゃ料理なんて言えないんぢゃないの?
なんて、思っておりました。ステーキ協会の人見てないでしょうね。そんなんあるか知りませんが。
但馬牛のタタキ 葱 ニンニクチップ ポン酢
昔のね、谷崎潤一郎とか古川ロッパのエッセイ覗くと、牛肉を食べにわざわざ関西へ来てる。
牛肉処だったんです、関西は。神戸牛・近江牛・松坂牛が流通上もたやすく集まったのです。
居留地のあった神戸はもちろん洋食の華ひらくのは早かったですが、大阪のステーキ屋も、
特に北新地の集まり方は半端ではありません。 全盛期は一晩で何頭の牛が食べられてたか。
但馬牛刺身 たまり醤油 和辛子
薔薇の花のような、まぁ見事なサシの入り方です。明治5年に明治天皇が肉食宣言をしてから、
文明開化は進み、欧米化とは肉を食うことだ、と進歩人たちは我も我もと肉を食い出すのです。
すき焼きなんちゅうのもその当時できたもので、見よう見まねで日本的解釈したらできたんでしょう。
当時、早々刺身でやっとるんですな。山葵なんぞで。今のように血抜きや熟成技術が進歩して
いなかった時代、クサイ…とか言いながら食ったのでありましょうか。
私はいまだにこの刺身ってやつはどうも・・・。 いくらいい肉でも和牛のにぎりとか、苦手です。
生肉と飯粒を一緒に咀嚼して旨いですかへ?
アタシャ、いい肉は焼いて食いたい!
ステーキ屋のこんな前菜の技術はおもろいですね。ステーキはどうせ似たりよったり(悪意ないです)なので、
前菜~魚で個性化を図るしかない。歴代ステーキ屋はいろいろ頭を悩ましたのでしょう。
それに目の前でやるのだから、客を驚かさねばなりません。
車海老開き、マヨネーズソースみたいなのをうねうね…驚くほど塗りました。
『ステーキ・ロン』は新地で46年。元々は新歌舞伎座の西でやってた。なんば新地といわれた岡場所です。
独特ですな、新地のステーキ屋。ひと昔前の高級とはこんなんだぁ!といったイメージ。
焼いてくれるのは入店19年のコック、酒田氏。
屋号はオーナーが麻雀好きで、あの「ロン!」から来てるそうです。
谷啓さんのガチョ~ン、も麻雀の席で生まれたギャグ。
活車海老マヨネーズ焼き
クロッシュをして、しばし。車海老マヨネーズ焼きの完成。
割り醤油。マヨネーズほどの酸味はなく、黄身ソースといったとこやね。
プリリとした海老の身がよろし。が、このソースがベストかどうかは意見が分かれそう。
天火でグラタンのように焦げ目があってもいいね。
魚料理はアワビ。 ウネウネしてるやつのお命を頂戴する。 覚悟!
是奴をば、バター焼きに。
メガイアワビでしょうが、新地価格。一切れたりとも無駄にはできませぬ。
北新地を利用するような企業戦士は、こんな処でこんなもん食ってたんですよ、お母さん。
こうやって精力つけて、クラブのホステスとウハウハやって、成長期の経済を支えたんです。
バブルはじけて跳んだ人も多かったでしょうけど。
活アワビのバター焼き
しみじみ旨い。肉もいいが、こういうのが旨くなってきたら、棺桶もそう遠くないのだろう。
縁起でもない!
肝のエスカルゴバター
こういうところにフレンチ的な手法をチラリズム。ニクイね、どうも。
漁師町の猫がアワビの肝を食って、太陽に当たると光合成で耳の先が溶ける…と聞いたことがあるが
まことかどうか。確かめたことない。
いよいよ肉だが、その前に、青森産のニンニクを丁寧に焼く。重なり合って面倒くせぇ~。
ニンニクが食欲を誘う香りと、うま味成分を倍加させる。
ず~~~んnnnn !!!
出たよ。但馬牛ステーキ! 大人になって料理でオタオタしたくないが、多少ワナワナする。
上がヒレ、手前がサーロイン。 私はもちろんサーロインを所望。
両面手早く焼いて、一旦休ませ、じっくりと火を通す。
客のすぐ目の前の所作である。丁寧で迷うことなく。テーブルマジックみているようなもの。
野菜も同時進行させる。眼にも美しく。
ステーキが料理だとしたら、肉を焼くというルーティンの仕事を高いレベルでやり続ける、
いわば焼きの職人的な部分がかなり強い気がする。
レッドオクラ、グリーンアスパラ、カボチャ、レッドピーマン、トウモロコシ・・・整然と。
大層な気がするが、オーバーアクションにしなくてはステーキ、成り立たないのであろう。
トウモロコシの芯の部分が・・・
抜かれて、そこに魚のすり身が射込んである。 芸が細かいなぁ。
但馬牛サーロインステーキ
注文通りのミデイアム・レア。ニンニクが添えられて。
肉汁がたまらん・・・ 柔らかく蕩けて行く。 こちらのハートも思考回路もひき連れたまんま。
旨いものを食った時は陶然としている間に、斜め後ろから袈裟斬りにズバッとお願いしたいもんだ。
生きてるか死んでるかわからぬが、とりあえず、昇天~~♪ みたいな。 やりよりますな、但馬牛!
ステーキのうま味残る鉄板で、断ち落としの端肉と、太もやし、シメジ、マイタケを炒める。
旨くないわけがない。 どうも、いい死に方しないわ、こりゃ。
シメにガーリックごはん、赤だし、香の物。 ガーリックライス、いくらでもお代りしたい。
見事にやられた。 世の中、完全に焼肉がステーキ食ってしまった感があったが、なんのなんの。
焼肉は何処まで行ってもアナタまかせ。
ステーキには焼肉にはない繊細な技術の集積がある。
ステーキ・・・なるほど料理でございました。
ステーキ屋なんだけど、ホルモンも研究して出すなんて店できないかな。
客には嬉しいが、そこは精肉とホルモンの厳然たる線引きがあるのかいなぁ。
『ステーキ RON』 北区曽根崎新地1 永楽町通り