久々の名古屋は、中日劇場へ。 山本一力の「だいこん」という江戸人情喜劇。
赤井英和の応援に来たのだが、主演石川梨華の母親役の、高橋惠子がよかった。
顔も芝居も声のトーンも全部好き。楽屋で会えるかと淡い期待、だがさっさと帰られたようでガックシ。
ああ、そうさ、アタシなんざただのミーハー。
楽屋を辞して、帰りに寄らざるを得ない店がある。 なんだか天気が悪い。
雷鳴と稲光。 前回御園座に来た時も豪雨だった。 今回は雨は持ち堪えたところで、
ひと駅歩いて、お目当ての店へ。
鼻の効くお方は、もうこの猪口見ただけでわかろうというもの。
こんなビジネス街のまん真ん中に、素晴らしい酒亭がある。 知らない人は名古屋を見直すだろう。
その名を「大甚本店」。
明治40年創業。今年で107年。
100年オーバーの老舗にしか出せない不動の存在感がある。
小皿、小鉢がいっぱい。
好きなのを選んで席に着く。
まずはビールをひとくち。
初めは外したくないので枝豆。可もなく不可もない、無難なところから。
文句などあろうはずなし。
小烏賊の煮付け。
なぜかここに来たら喰いたくなる。
さ、酒に切り替えよう。 賀茂鶴か菊正宗。
この背の高い染付の徳利が、明治時代のようでまた飲ませる。
燗の具合も文句ない。 ぬる燗も飛び切り燗もない。
こういう老舗ではずっとしてきた燗が一番いいのだ。
浅蜊とねぎのぬた。
八丁味噌で食べさせるのが名古屋らしい。
この味、悪くないのだ。
海老と胡瓜の酢のもの。
辛いミョウガが舌をリセットしてくれる。
一つだけ欲をいえば、名古屋弁が聴こえて来ないこと。
ビジネス街ということもあるのだろうが、よそ者率が高いんぢゃないだろうか。
お国なまりの一つも耳に飛び込んで来ないと、わざわざ名古屋に来た面白みがない。
あとは、時節柄しょうがないけど、中国人店員が多いこと。
でも受け答えも、料理に関してもまじめに働いているのは分かった。
なのでこいつは良しとしましょうか。
さあて、ぼちぼち次へ行かねば。
一晩でお腹に入る量など、知れたもん。
「お勘定!」
パチリと五ツ玉の算盤がまたいいなぁ。
世の中、トレンドだかなんだか知らないけれども、ここへ来ると
こざかしいそんなものは瑣末なことだということが分かる。
野暮でもいいではないか、小ざっぱりとして、ぶれないことが一番大事。
いつ来ても、なんだか気持ちのいい店、それが大甚本店。
この酒場があるだけで、名古屋人を尊敬する…は言いすぎか。
今回も、名古屋の酒飲みの懐の深さを垣間見せてくれた。
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