「間もなく発売」という告知を被災地熊本にある出版社HPを通じて知った時、「待ってました♪」と思った。裕次郎氏という当時まだ20代の若い著者の本を初めて手にしたあの日から、もう10年近い歳月が流れた。本の面白さと才能は本物だと思った。出版社に直接、注文し、発売前から楽しみに待った。今回、新聞掲載された長編『弱虫時計と君だけの神様』、そして書下ろしの『こっち向いて! たっけー☆☆』2冊同時発売となり、2冊一緒に出版社から手元に届けられた。ルール違反で申し訳ないけれど、最初に開いたページは『あとがき』だった。(あれ…?)と思った。(何だか違う人みたい)これが正直な最初の感想だった。嬉しい違和感だった。10年という歳月の間に何があったのだろう…。
現在、著者は35歳になっている(らしい。著書の中で自己紹介している)。35歳といえば、私は0歳だった甥っ子の専業子育てを3年間続けていた頃だ。子育てを経験することで全てが変わった。見えなかったことが見え、感じなかった種類の愛情を知った。社会から離れて数年、不安はあったけど、取りあえず社会復帰(正職に就けなかった結果というのもあったが)しようと、とあるスーパーにてパート勤務を始めた。色々と最初は泣きたいようなこともあったが、どんな相手にも(蒲鉾に対してさえ)優しい気持ちになれたのは、身内の闘病生活と共にあった子育て経験があったからこそだと思う。抜けられないトンネルなどないのだと、今なら言える。
『こっち向いて! たっけー☆☆』を読みながら、そんな当時を思い出していた。母親の気持ちになっていた。ルビがなく活字も小さいため、児童書として低学年のお子さんが直接読むには難しいかもしれない。しかし、そのことがかえって母による「読み聞かせ」というコミュニケーションを生む機会になるだろうと思う。「福生市の ゆるキャラ・たっけー☆☆ 明日はどんな活躍をするんだろう。誰の願いを叶えるんだろうね。今夜はここまでね。続きはまた明日。おやすみ」あのハリー・ポッターの作者も最初は我が子に自分で作った話を聞かせていたと言っていたっけ。
母親が我が子に伝えたいこと。これだけは忘れずに生きていってほしいと願うこと。それらが「こっち向いて!たっけー☆☆」には散りばめられている。七夕にちなんだ今の時期にピッタリな著書だ。幼い子から高齢者まで様々な人々が登場する。世代を超えて読まれるといいなぁと思う。
本当は こんなところで わざわざ時間を割いて紹介しない選択肢だってあったし、著者本人が読めば気を悪くするようなことまで馬鹿正直に書かずともいいのに…とも思う。でも…。20代から35歳までの間に劇的な心の変化が自分にあったように、彼の場合も…と思ったので、書いてしまったのだった。
スーパーに勤務していた頃、「いつも元気やね」「いつもニコニコしとるね」と言われた。アホだから、ともいえるし、辛い時期を乗り越えた直後だったから、ともいえる。黙っていたら、のほほんとしているだけ、に見えても、皆、それぞれ何かを抱えて生きている。それは幼い子供だって違いはない。今年の七夕の日、あなたも たっけー☆☆と出会えますように…
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