5月下旬から読み始めた「ローマ人の物語」。全43巻まであるので、一年くらいかけて ゆっくり古代ローマを旅する気分で読もうかなぁと第一巻を手にした時は思っていた。なにせ壮大な古代ローマの歴史。元々学生時代に興味があったギリシア哲学と堅実的なローマ人の考え方や生き方を比較するところから始まり、ハラハラドキドキしたハンニバル戦記、カエサルの活躍、その後のローマを堅実に平和共栄圏へと築き上げた各々の皇帝たちのストーリー。気がつけば、34巻(数日前に読了)を読み終え、一息ついていた。本という活字を通して古代ローマ建国から2000年以上も後の世界、しかも、ローマが繁栄した頃は弥生時代でしかなかった東洋の島国に生きる私が、彼らが生きた時代を追体験したかのような気分にさせられるって事実。記述好きなローマ人に感謝し、同時代を生きた歴史家や弁護士であったキケロ、統治者であると同時に文芸家でもあったカエサル、そして印刷技術を発明したドイツ人(一時期はローマに侵入しようと結構苦しめた部族でもあったんだ~と思ったりもして…)あらゆる人達のおかげで、特に著者である塩野さんのお蔭で、わくわく感や滅びゆくローマを目前にして哀愁の街を想像し、すごい体験をさせて頂いている。普段であれば、読書はしても、なかなか感想文を書くところまでは行きつかないのだけれど、折角だから数冊の本ごとに、要約を記しておこうと思ってしまった。子供の頃は、決して夏休みの「読書感想文」の宿題が大好き☆だったわけではないのだけれど…。読書は好きでしたよ。心の親友のような位置。そしてそれは今も変わらず。
迷走する帝国。そう、前書ですでに『終わりの始まり』が始まっていて、天災や経済破綻、ゲルマン族の侵入、など前兆は見えてはいた。その後、皇帝になった息子のガラガラは、寒い地域でガリア人好んだ長袖を着用していたことから、ガラガラというニックネームで呼ばれたらしい。彼はやる気満々20代の若さで皇帝になっている。彼がやったことで、「ほお~っ! この時代に、すでに」と感嘆の声を上げてしまったことの一つに、「希望すれば、だれでもローマ人!」という法律を作って実行したことだ。2000年近くも昔のことですよー。日本に定住したい、市民権を得たい、と希望したからといって、「はい、どうぞ~」なんて現代でもありえないこと! 勿論、これをやると、特に「誰でもOK」となれば、移民国家で数年暮らしたからわかるけど、ここには書けない不都合が生じることも稀にあるからで、ガラガラ帝がやったことは、人類皆兄弟姉妹、共生協和の時代だ~というのは簡単だけれども、なかなかミサイルが飛んできたり、世界中皆が同じ方向を向いて平和を望んでいるわけではないので、「良いこと」と信じて導入した素晴らしい法も、結果的にはローマが衰退していく要因の一つになってしまった…と、あとの時代を生きる私達に結論付けられてしまうのだけれど…。古代ローマの時代、ローマ市民権を得ることは、特別だった。特別だからこそ、ローマ市民は自分たちが帝国を…運営でも防衛面でもやる気があったし、特別感があった、だろうと思う。でも、それが 誰でも!となると、塩野さんがいうように、何も苦労して得るものでも、特権でもなくなってしまう。リレーもかけっこも勉強も競争があって初めて頑張った際、特別感や達成感が生まれる訳で、何の努力もなしに、与えられるものになったとしたら…? 女性に選挙権が無かった時代は、特別だったから、勝ち取ったからこそ皆、選挙に参加しただろうけど、現代の日本では生まれたときから与えられている。何の苦労もなしに、手にしたものじゃ、選挙に足が向かない人が居たとしても不思議なことではないのかもしれない。え…これって、日本も衰退、滅亡へ進む前兆ってこと?全くありえないこともない…かもしれない…歴史から学ぶことがある限り。
いずれにせよ24歳の若者、カラカラ皇帝は、善意によって始めたのだと思う。ただ、それは不幸なことに、塩野さんの言葉を借りれば、「ローマ社会の特質でもあった流動性を失わせてしまった」かつては教師か医者を志せば、解放奴隷でも市民権を得ることができた。(多くはギリシア出身でローマで家庭教師をしていた)「そして最後、ローマ市民と属州民の差別がなくなった代わりに、この二つが一緒になった一般市民階級の中で、二分化が起こったのだから絶望的だ。「ホネスタス」と「ウミウウス」の二分化である。直訳すれば、「名誉ある者」と「卑しき者」になる」(「ローマ人の物語 低迷する帝国 上巻」47ページ 14-17行目)
悲しきかな、人間は誰かを見下さなければ生きてはいけない生き物で、かつては出世の道が開かれたローマの奴隷たちも、(実際、皇帝の右腕となった実力者もいたっけ…今でいう官僚組織のさきがけ!)出世の道を絶たれてしまったことになる。著者の塩野さんも述べている。「そのような人々(奴隷に生まれた者)には、一生、うだつがあがらない社会にローマもなってしまったということであった」(同48ページ6行目)
最後にユリウス・カエサルが残した言葉を・・・・
「どんなに悪い結果に終わったことでも、それが始められたそもそもの動機は、善意によるものであった」
深いわ…ユリウス・カエサル…そして塩野さん…。その後のローマは73年間に22人の皇帝が立ち、時代を映し出すかのように、軍人出身の皇帝が生まれては殺され、消され、、、、といった「三世紀の危機」と呼ばれる時代となる。ペルシアが勢力を伸ばし、ローマ始まって以来、「敵国ペルシアにヴァレリアヌス皇帝が生きたまま捕らえられる!」という前代未聞の不祥事が勃発! のちに騎兵段出身の実力者皇帝、アウレリアヌスはパルミラ、ガリアの独立で3つに別れていた地域を再びローマ領土に!…と喜んだのもつかの間、突然の暗殺。せっかくまとまりかけたローマ帝国が再び混乱の中へ… そしてローマ人としてのアイデンティティーや多数の神、守護神として寄りそう神よりも、絶対的な神にすがるローマ人も出始めて… 不安な時代にこそ一神教であるキリスト教が勢力を拡大することになったんだ… 現代の世界情勢と重なる部分も多すぎて、しばらくじっくり考えたい。