一冊の単行本について、3度に分けて感想を書く! 複数の作家の小説(日記etc)が掲載されているから、ではありますが。どの作品も面白くて奥が深いのです。江戸川乱歩、内田百閒まで書いたので、その次は…
山川方夫(やまかわまさお)『昼の花火』
とても惜しいことに交通事故により34歳の若さで亡くなられたらしい。
『昼の花火』二人の男女が野球観戦をしている様子が描かれている。野球場の熱気、快音、歓声、拍手、灼熱の太陽…そういったものがパッと目の前に広がってくる。主人公の若い男性が見つめる先にいる彼女の横顔も。作家は昭和5年生まれで、ここに収められた作家さんの中では現代文に近く、さらっと読ませる。山川方夫氏に限らず、文章に無駄がない。シンプルで洗練されている。そして何よりも描かれる女性が魅力的である、ということ。彼女たちが小説の中で発する言葉は少なく、決して自己主張せず。だけど凛としていて。まさしく横顔で、或は何かを見つめる視線で心情を語る、というか…。昔の日本には結構いたのでしょうね、こういう日本女性。或は川端康成が描く小説の中の女性達も。収録作品は、『日向(ひなた)』『写真』『月』『合掌』
そして、芥川龍之介の「ひとこと」で笑ってしまう。
「わたしはどんなに愛していたおんなとでも、一時間以上話しているのは退屈だった」(394ページ6行目から抜粋)なんというか、作家らしいご意見!
もう一つ、芥川龍之介から抜粋! 特にプーチンやトランプに聞かせたい。
「我々に武器を執らしめるものはいつも敵に対する恐怖である。しかもしばしば実在しない架空の敵に対する恐怖である。(391ページ7~9行目)
山本周五郎 『大炊介(おおいのすけ)後始末』
明治36年生まれ。赤ひげといったら、ピンとくるのでは?。文体は夏目漱石同様、明治っぽいのにぐんぐん読ませる不思議。簡潔な文章で、たんたんと物語は進んでいく。それなのに、これだけ大炊介の苦悩が読者に伝わるなんて。ラストは泣いた。
岡本かの子『鯛』
あの、岡本太郎のお母さま! 小説家だったんですね!
特別好きという訳でもない鯛のお寿司を食べにくる客の秘密とは… こちらも読ませる! 後の時代に生まれてつくづく良かったと思う。それだけ多くの優れた小説を読む機会に恵まれるということだから。
10日程かけて一冊の単行本を読了。ここに収められたすべての作品に共通することは、
「簡潔さ。無駄のなさ。魅力的な日本女性(いわゆる大和撫子)」
推敲に推敲を重ねた結果なのか、それとも一気に書いたのか。両方なのか。作家が生きていたら聞いてみたいくらい。そして、石田衣良さんが何故、これほど凄い作家になったのか、その答えも分かった! 読書の幅の広さ! だ・か・ら! あれだけ様々な人物を難なく書き分けるのだわ、きっと。そうですよね? 衣良さん!