おはようございます。
七夕も終わりましたね。
福岡は梅雨も一休み。
久々の快晴でした!
織姫、彦星も無事に再会できたことでしょう~。
今日、7月8日は私の誕生日でーす。
昨日、ECCの先生から自宅に届いた
花束は部屋に飾っています。
ありがとうございました。
訪問者が昨日で5万人を突破しました!
月に4~5回程度しか更新しないブログなのに、(よって更新マークも出ないのに)
忘れずにご訪問して下さる方々、いつもありがとうございます。
すず
以下のお話はフィクションです^^ (ショートショートの続き)
七の会 (七恵編) 「駿くん、もう来てる?」
「うん」
真理恵の大きな声に、一瞬びくっとする。
ここのテーブルどころか、隣のテーブル、いや、後ろのテーブルにも聴こえちゃうじゃない。
駿、と聞いて、彼の肩がかすかに動くのをパノラマのように広がる鏡の向こうに見ていた。
「どこに座ってるの?」
「真理恵の斜め後ろ」
思わず声のトーンが低くなる。
「斜め後ろって、どこよ?」
そんな私の気持ちはお構いなしに真理恵の質問は続く。
もう、いいわ。
本人に聴こえても。
真理恵の大きな声が、かえって私を開き直らせた。
でも、もしかしたら、真理恵の作戦だったのかもしれない。
「駿なら、さっきから、真理恵の斜め後ろに座ってあっちのグループと話してるって、ほら!」
そういうと、私は後ろを振り返り、駿の背中を指さした。
鏡の中のもやっとした姿ではなく、5年ぶりに直接見る彼の後ろ姿だった。
写真でもない。
鏡というフィルターを通してでもない。
勿論、今でも夢に見ることさえある、思い出の中の彼でもない。
等身大の彼の姿は少し痩せたかな? という以外は5年前と変わらなかった。
やっぱり懐かしい。
今度会ったら、いや、もしも、偶然何処かでバッタリ会うことがあったなら、こう言おう、と心に決めていたことがある。
でも、26人が集まった今年の七の会、つまりは高校卒業と同時に始まった同窓会の席で言えるようなことじゃなかった。
七恵、覚えてる? 毎年、七夕になると心に描いた短冊にしたためてきた言葉。
心拍数が上がり、どうにも こうにも落ち着かないときにする私の癖だ。
こうして自分出自分に語りかける。
挨拶回りをする人陰が、鏡の中でテーブル間を何度も行ったり来たりする。
それぞれに昔の面影はあっても、この暗い照明の下では、はっきりしない。
鏡に映った姿では、特に、だ。
それでも私は、鏡の中の駿を一瞬で捉えた。
「もう、話した?」
「…ううん」
「挨拶くらい、ちゃんとしたの?」
「会釈はしたよ。でも、分かったかな? 私だって。もう5年も会ってないし」
「バカね。お互い好きだった相手でしょ? 5年やそこらで顔まで忘れてしまうわけないじゃない。例え七恵が駿くんと別れた後、ショックで急激に老けこんだとしても…よ! キャハハハ」
真理恵は自分で喋って自分でウケている。
お幸せだなぁ、真理恵って。相変わらず。
でも、真理恵のお陰で緊張の糸が切れたかも。
「それにしても、この店の照明、こんなに暗かったっけ?」
誰かがぼやく。
これじゃ、お互いの顔がはっきり見えないよね~と。
私達が七の会を結成し、この店へ毎年通い始めた頃は、太陽をイメージしたような、もっと明るい照明だった。
これって、最近流行のアジアン・テイストってやつだよね?
そんなやり取りが隣のテーブルから聴こえたと思ったら、真理恵ったら、「そうよ。私達もう、そんなに若くはないから、照明も暗めじゃないと、シワまでしっかり見えちゃって困るだろうってオーナーの心配りだよねぇ」
一同、どっと沸く。
それまで各々のグループごとに会話していた七の会が、一気に和気あいあいとなった。
「さぁ~食べよっか! 折角きたんだもん。食べて元を取るぞ~」
真理恵はいつになく張り切っている。
私もいつしか、鏡の向こうに見え隠れする駿から視線を外し、目の前に並んだ料理を頬張った。
…と、そのときだった。
駿が急に立ち上がったのだ。
前菜のサラダをもぐもぐしながら思わず上目使いになる。
駿は背が伸びてた。
社会人になっても、更に成長したのね、くそーっなんて思ってる場合じゃない。
だって鏡の中の駿の顔が見える。
見えてるってことは…そうなのだ。
駿は今、この瞬間に、こちら側のテーブルを観ているんだよね。
鏡の中の駿と、もしかして目が合った? そう思ったとたんに心臓は爆心音をたて出した。
滑らない筈の割り箸は手から転げ落ち、呼吸すら止まってしまいそう。
その後は、お料理と真理恵達とのお喋りに不自然なくらい集中し、一切、鏡は見なかった。
「駿くんったら幹事のくせに、こっちのテーブルに回ってこないよ。何なんだろうね、全く!」
時折、悪酔いした真理恵が叫んだけれど、5年ぶりに参加する七の会は、温かい雰囲気のまま、お開きとなろうとしていた。
「みなさーん! 最後に幹事の駿からご挨拶があります」
鈴木くんがパンパンと手を打つと、皆、担任の話を聞くかのように背筋を伸ばした。
この雰囲気。
なんだか高校生に戻ったみたい。
それでも座っている私の真横に立った駿の膝元から上へ向けて、私は顔を上げられずにいた。
よりによって、どうして、こんな所に直立するのよぉ。
どう見ても、ここって、中央じゃないよ。
挨拶なら、会場の前か、中央でやってほしい。
こんな、入り口近くの隅っこじゃなくて。
何より、駿に上から見おろされている感じが居心地悪くて仕方が無かった。
出かけにシャワーしてきたのに。
タバコの移り香、してない?
「え~っと、本日は、お忙しい所、お集まり頂きまして…っつうよーな、堅苦しい挨拶はナシ! えっと、このあと、恒例の2次会へと場所を移したいと思いますので、みなさん、宜しく~! おわり!」
短すぎる、けれど分かりやすい駿の挨拶に皆、どっと笑う。
「どうする? 2次会、行く?」
真理恵の問いかけに即答できず、先程から私の隣に立ったまま、挨拶を終えても動こうとはしない駿を盗み見た。
「明日、早朝から仕事だから…やめておく」
「じゃ、私も行かないってか」
そろそろ、静々、と立ち上がる。
正座に慣れてない両足が少しだけ駿がいる方へ よろめく。
決してわざとじゃないの。
それに駿だって簡単に、ほんの一歩、右へ避けることができる。
だけど、駿は石のように私の真横に立ちはだかり、スペースを開けようとはしなかった。
思わず出口とは反対側へ方向転換し、駿から離れようと慌てる私も又、それ以上、前へも後ろへも進めず、どうすることも出来なかったのだ。
七の会のお開きは、人の流れに逆らうようには出来ていなかった。
駿もまた、出口をふさいだまま、一向に前へ進もうとはしない。
その間にも七の会のメンバーが、押しくら饅頭のように出口へ向けて寄ってくる。
駿へ向けて人の波が押し寄せてくるかのよう。
何も意識したくない。
それなのに鼓動だけが、やけに早くなる。
どうしよう、どうしよう。
ねぇ、どうしたらいい?
私の鼓動は極限の状態に5分以上、耐えられるほど強くも無かった。
まるで金網にでも しがみ付いたかのように、何処へも逃げられず、おたおたしていた。
結局、私の隣に 駿が立ったまま、時間だけが流れていく。
5分? 3分? ううん、もしかしたら、ほんの30秒程だったのかもしれない。
それでも私には10分のようにも、時間が止まってしまったかのようにも思えた。
ただ、駿が隣に立っている。
それだけのことが、このまま永遠に続いて欲しいようで、そうでもなくて。
私の腕、すれすれに立っている駿ではなく、鏡の向こうの駿に語りかける。
もしも、また逢えたなら、その時は言おうと思っていた。
「今でも好きです」、と。
あの星の輝きと同じく、ただ、それだけが変わらぬ事実だと。
織姫と彦星。
たったひとこと。
待っていてほしい、必ず逢えるから。
その一言だけで、女の子は永遠に待っていられるのに。
例え年に一度だけしか逢うことが許されなくとも。
今しかない。
伝えるなら、今しかないのよ。
何も言わずに、このまま別れていいの?
ほんとに、いいのね…?
外へ出た。
七夕の夜は、ロマンチックでもあり、何処か哀しくもある。
年に一度しか、会えない織姫。
だから…だろか。
でもね、お互いの気持ちが通じあっている織姫は幸せよね。
頬に触れる夜の空気が少しだけ なま暖かく、心地よかった。
鈴木くんと駿が男同士でじゃれ合っている姿を 私はただ、ぼんやりと眺めていた。
言えなかったね。
結局、5年ぶりの同窓会で確信したことは、ちょっとだけ老けてカッコ悪くなった「彼」に幻滅することじゃなくてー。
当たり前だけど、外見なんて、どうでもよくて。
何が変わっても 駿って人が変わらず好きだということだけ、だった。
七恵の30回目の誕生日はー。
二度目の失恋記念日だね。
「それじゃ~2次会へ行くぞ~! 俺についてきてくれよ。行かない奴とは、ここでひとまず、さよなら。また、来年、七夕みたいに会おうなぁ!」
帰宅組の私達、みんなに向けて叫ぶ駿の姿は夜をバックにすると、輪郭しか見えなかった。
それに、ほら…
知らずしらずの内に涙目になっていたから。
でも、もう一度だけ、会えて良かった。
後ろを向いて、歩きだした駿の背中が夜霧の中で揺れ動く。
揺れは次第に大きくなり、そのまま一回転すると、何故だか ぴたっと静止した。
そしてー。
一歩、また一歩、と信じられないことに再び近付いてきたのだ。
「七恵、誕生日、おめでとう」
えー?
覚えていてくれた…の???
最後だけ、後戻ってまで優しくしなくていいのに。
七の会の席では、全く話しかけてもこなかったくせに。
駿は、そんな私の気持ちなんて無視して最後だから…と精いっぱい笑顔を作ってくれているかのようで。
それが駿が最も嫌う、「公共の場で永遠の約束をしたカップル」のようだったので、無理しているなって、余計に泣けてきた。
「あの・・・さ、七恵。卒業後、俺達の友情が、いや、愛情も、この先、ずっと続くように。
そう願って高校の同窓会、、、なーんて、云わば、皆の物に、『七の会』って俺が命名したんだってこと、ちゃんと気付いてくれてた?
七の会の七は、七恵の七だよ。
七恵の誕生日でもある。
いつか・・・、そう、いつか一人前になったら、こいつらの前でちゃんと言えると思ってた。
5年前は、まだだったんだ。自分に自信が持てなくて。七恵に今、はっきりと将来を約束出来ないなら、別れると言われたときは、もう、俺達だめかと思ったけど、今日、七恵に会って分かったんだ。きっと、俺達が今、望んでいる方向性、一緒だよ・・・な?」
私は黙って駿の言葉を聞いていた。
一言、ひとことを噛み締めるように。
「みんなぁ。 今まで親友の鈴木と真理恵以外には隠してきたけどさ。実は俺達、付き合ってまーす!
あ…勿論、近い将来は結婚するよ。
来年の七の会は、俺達二人の結婚披露宴ってことで。七恵、いい?
なんか、勝手に決めちゃたけど」
駿が はにかんだように笑う。
いつの間にか隣に立っていた駿の手が かすかに私の腕に触れる。
そんな駿の手を 私は、そっと…握り締めた。
終わり