今回は特に「和様の書」につき、自分の勉強のため、
同展示会でのガイド本やネット、あるいは辞書で調べたものを
記しておきたいと思います。
前回に続き、藤原行成筆「白氏詩巻」(白楽天(白居易)詩文集)の
第一篇「八月十五夜・・・」を臨書しました。
(全紙1/2大 画像処理でフィルター掛け)
(全紙1/2大 画像処理でフィルター掛け)
「八月十五夜同諸客翫月」
月好共傳唯此夜
境閑皆道是東都
嵩山表裏千重雪
洛水高低兩顆珠
清景難逢宜愛惜
白頭相(勤強)歡娯
誠知亦有明年會
保得清明強健無
この詩の解釈は
書家 小杉卓様のサイト「KOSUGI TAKU」に意訳が出ていましたので、
引用させていただきます。
月の美しさは、今夜にまさる夜はない
この平和な街こそが洛陽の都である。
神聖な山に積もる幾重もの雪、
滴り落ちる水の粒は宝石のようだ。
美しい景色に巡り合うのは簡単ではない、
いま目の前にいる人を愛し大切にすることだ。
歳をとっても共に楽しむことができる。
身をもって知った、歳を重ねるということを。
いつまでも美しく健康でいることなどできないのだ。
書家 小杉卓様のサイト「KOSUGI TAKU」に意訳が出ていましたので、
引用させていただきます。
月の美しさは、今夜にまさる夜はない
この平和な街こそが洛陽の都である。
神聖な山に積もる幾重もの雪、
滴り落ちる水の粒は宝石のようだ。
美しい景色に巡り合うのは簡単ではない、
いま目の前にいる人を愛し大切にすることだ。
歳をとっても共に楽しむことができる。
身をもって知った、歳を重ねるということを。
いつまでも美しく健康でいることなどできないのだ。
“八月十五日”でまず思い浮かべるのは、残念ながら無粋ながらの終戦記念日。
勿論そうではなく、陰暦の八月十五日の夜の月は、
日本も中国も特別に美しい名月として、これを詠った詩です。
書道としては、前回、字や線の“太細”の変化について書きました。
本作64文字を書くときどういう配列にするか、
例えば全紙(半切2枚分)の6行程度で書く案も考えましたが、
この書の素晴らしさの一つは“太細の配置”にあるのでは、
と思い直し、原本と同じ配置にしました。
また行成の漢字は、中国流のゴツゴツと角張った字に比べ、
丸まっていて穏やかかつ繊細で、
しかもこの繊細と大胆のコンビネーションが絶妙で、
全体としてはすっきりした感じになっています。
難しいことですが、ここが和様のポイント、
十分配意しながら臨書させていただかねばなりません。
和様の書のガイド本によれば、和様の書は平安の前期に、
三蹟(小野道風、藤原佐里、藤原行成)(年代順 100年弱のスパン)によって完成し、
それ以降日本の書は、仮名と漢字が融合した和様の書を中心に展開した、とありました。
この時代、政治的な動きで大きなことは、菅原道真の建議でなされた「遣唐使の廃止」です(894年)。
和様の起点と言ってもいいかもしれません。
その直後(905年)に我が国最初の勅撰和歌集である「古今和歌集」が出され、
この和歌集にはその前後に “真名序”(漢字)とともに“仮名序”とが添えられています。
撰者の一人 紀貫之によって書かれたこの仮名序は、
日本人による日本の歌の論を展開しようとしたもので
その主張や文学観はその後の日本文学全般を規定するほどの甚大な影響を
与え続けた、と。(百科事典マイペディア)
この時期このほかにも多くの和歌集が編纂されていますが、
中でもこの古今和歌集は多くの能書家が書写し、
「高野切」(一部は国宝に指定)に代表されるように
日本独特の「仮名の美」へと展開したとのことです。
また本作「白氏詩巻」と同年(1,018年)に出来たのが「和漢朗詠集」です。
和歌と漢詩を一緒にして編纂されたもので、
和歌は100年ちょっと前に出された古今和歌集などから、
また漢詩では白氏詩巻の当事者である白楽天のものが圧倒的に多いとのことです。
本書の詩句などは朗詠によって広い階層に浸透するとともに、
後の軍記物語や謡曲などに引用され仮名文学にも大きな影響を及ぼし
和漢混交文の成立に貢献した、とありました。(ブリタニカ国際大百科事典)
話をちょっと戻しますが、小野道風は菅原道真の書の影響を受けたとされています。
それに道風が生まれたのが「遣唐使の廃止」が決まった年というのも
何かの因縁なのかもしれません。
その道風を師と仰いだのが藤原行成、今回の書の主人公であります。
ところで“月見”と聞けばついつい“団子”と条件反射してしまいますが、
日本国語辞典によれば、
「陰暦八月十五日の夜、月見の佳節とし、月下に宴を張って詩歌を読む。
民間では月見団子・芋・枝豆・柿・栗などをそなえ、ススキや秋草の花を飾り、
月をまつる。」とありました。
詩歌を読むのは日本も中国も一緒かもしれませんが、
“月を祭る”というのは、(一般的な意味での)“和様”そのもの。
因みに今年の仲秋の名月は9月21日とか。
それから説明を読んで和様(片仮名ひらがな)についても勉強になりますとともに、勉強熱心なのに感心するのみです。
国宝の「白氏詩巻」などを見ると作者の解説「丸まっていて穏やかかつ繊細で、大胆さとのコンビネーションが絶妙で、全体としてすっきりした感じ」が良くわかりました。
作品はまさにこの行成流なのでしょうが、更に優しさが加味されているの感じます。