江川の1軍デビューは阪神戦でラインバックに逆転3ランを打たれて黒星だったことは知られているので、今回はプロの打者と初めて対戦した 「イースタンリーグ6球団拡大記念トーナメント大会」 の模様をとりあげる。
6月の1軍デビューより遡ること2ヶ月、春季キャンプも不参加で 心・技・体のいずれもアマチュアの
ままの状態にも拘らず半ば強制的にプロのマウンドへ送り出されました。試合の3日前「どうも球が
行かない、左腰も重いし肩の芯も出来上がってない…」と江川は現状をコーチに告げました。普通の
選手なら登板は回避されるでしょうが当時の江川の立場はそれが許される状況にありませんでした。
トーナメントの第2試合、対ロッテ戦は全民放各局が夕方のニュースで生中継しました。後楽園球場
には2軍戦では異例の3万2千人がつめかけ試合開始。ロッテの先頭打者・剣持は敵意ムキ出しで
打席に入り中前安打、2アウト後 四番落合が中堅越2塁打。五番新谷も左越2塁打で、いきなりの
2失点。続く2回は三者凡退でかたずけるも3回は一死後から4連打で3失点。結局 投球回数 3回・
投球数 65・打者 17人・被安打 8・奪三振 1・失点 5・自責点 4 がプロ初登板の結果でした。
江川は明らかに調整不足で全力投球からは程遠く、六~七分程度の力で投げているのが素人の目
でも分かりました。恐らく この時点で既に6月の阪神戦デビューが決まっていて、それに向けての
調整段階だったのでしょう。江川にとっては単なる顔見せ登板だったでしょうが相手のロッテは真剣
勝負でした。「国民的悪役」 を倒した高揚感からかロッテの各打者は、興奮気味に「高目は確かに
速いけど あれ位の投手は2軍にもいる(矢野)」「フォームが大人しいから怖さがない。カーブにキレは
無いしベルトから下の球は速くないよ(剣持)」「別に速くなかった(新谷)」など饒舌に語っていました。
しかし2安打した落合は「いい投手だよ」と一言だけ。やはり一流は一流を知るとでも言うのか何かを
感じ取ったのでしょう。