以前よりはマシになったとは言え、外国人選手との契約は現在でも日本人選手が交わす
統一契約書だけではなく、特約条項を盛り込んだ選手側に有利なモノです。先日、巨人の
オビスポ投手が日ハムへトレードされましたが、これはオビスポ投手が育成選手契約を
経ての本契約だったので通常の外国人選手の契約とは異なり、特約条項が無くトレードが
容易だった為だと思われます。一方、マニエル選手の場合は恐らくマニエル側に選択権が
あった為に近鉄が振り回されたのでしょう。外国人選手に都合の良い契約が結ばれるのは
そもそも獲得交渉の段階で選手側が優位に立っているからでした。
当時は日本の球団が外国人選手を獲得するには友好関係を結んでいるメジャー球団所属
選手を譲ってもらうケース(ex:巨人がドジャースからトマソンを獲得)。或いはメジャー球団を
介す必要の無いフリーの選手を獲得するケース。この場合は、いわゆるブローカーが日本の
球団と代理人との仲介をします。無理難題な契約内容が盛り込まれるのが後者のケースで
当時の外国人選手獲得は圧倒的にこのケースでした。球団関係者でも代理人でもない人に
丸投げする事も多く、無茶な内容が盛り込まれる事も多々ありました。そんなブローカーの
ひとりが記事になっている「トウキョー・トム」ことトム・福井氏です。
・・・先ずは自己紹介を。私は滋賀県の生まれで高校卒業後は社会人野球に進み、南米で結成された新興リーグに参加した
「東京ドラゴンズ」のメンバーとしてカラカスに渡ったのが昭和44年。このリーグは2ヶ月で破綻してしまい、チームも解散して
選手も散りじりになった。私はアメリカに留まる決意をして日系人の世話で日本人街のレストランでピアノを弾き、歌っていた。
このレストランには多くの日本人が来店していたが、その中に田宮謙次郎氏がいた。東映フライヤーズが日拓という会社に
経営されていた昭和48年のことで、成績不振で監督の座を退いた田宮さんは大リーグ視察にやって来ていて、私に通訳を
依頼しに来たのだった。通訳をする事で大リーグの球団関係者とも顔見知りとなり、いつしかトウキョー・トムと呼ばれるように
なり、日本の球団から外国人選手獲得に協力要請の依頼が来るようになった。広島が初の日本一を達成した時のギャレット、
長嶋巨人のジョンソンを仲介したのは私なのだ。実はギャレットもジョンソンも元々は近鉄に行く筈だったのだが私の手違いで
近鉄入りが消えたのだ。後年ジョンソンが「自分の希望は近鉄だったが…」と言っていたが、むしろ巨人で良かったのでは・・
当時は未だ日米間の球団同士で提携関係を結んでいるケースは無く、巨人とドジャースも
友好関係ではあるけれども業務提携にまでには至っていませんでした。そのために日本の
各球団は独自に外国人選手獲得ルートを確保しなければならず不慣れな球団は代理人や
ブローカーの言いなりになりがちでした。当時はまだアメリカ球界のシステムに精通している
日本の球団は少なく代理人とブローカーの区別もつかずに選手側の言いなりの契約を結ば
されるケースも多々ありました。前年に西武が現役大リーガーのスティーブと結んだ契約は
日本人選手には適用する事のない典型的な外国人選手仕様でした。
・年俸は手取り6千万円の3年契約で税金分は球団払い
(手取り6千万円は当時の最高額だった王選手を超える金額)
・日米間の往復航空運賃を年3回分まで家族の分まで球団負担
・家賃、光熱費、電話代、家族のタクシー代、子供の教育費 等 球団負担
・日本国内における事故、病気などに対する損害賠償保険料も球団負担
・3年目の選択権は選手側に
日本には代理人制度は浸透しませんね。当時のトラウマが日本球界に脈々と受け継がれて
いるのでしょうか。代理人の資格を弁護士に限定しているのも違和感があります。選手会は
弁護士以外の資格も認めるようNPB側に要求しているようですが拒否され続けたままです。
税理士や公認会計士の方が弁護士よりも適任だと思いますけど。アメリカでは野球に限らず
多く競技で、選手はアマチュア時代から代理人と契約し入団交渉をまかせて多額の契約金を
手にしています。日本では契約更改を一度で済ます事が「お金に綺麗」で良しとされますが
そんなのは交渉とは言えません。より良い条件を求める事はプロの選手として当然の行為で
「評価 イコール 金額」です。
現在、ソフトバンクの杉内投手が契約交渉で難航していますがこういう時こそ代理人を使って
いるメリットが有るはずなのですが、記者会見は杉内本人が対応するなど機能していません。
契約の詳細やメディア対応など煩雑な事を含めて全てを処理するのが代理人です。だからこそ
多額の成功報酬を得るわけで、アメリカでは選手以上に稼いでいる代理人も珍しくありません。
日本では、一人の代理人が担当できる選手は一人と決められているのも経営者側が代理人を
大金を得られるオイシイ商売にしないように画策しているのではと勘ぐってしまいます。