「無風」「平穏」「予定通り」・・・各スポーツ紙が今年のドラフトを表した見出しだ。それでも色々とドラマはあった。
テーブルに置かれたマイクが5本。事前の予想ではその場にはまばゆいライトを浴びた5人がいる筈だった。明治の五人衆…エースのサブマリン・森岡、松井は4年間で許した盗塁がゼロの強肩強打の捕手、堅守と勝負強い打撃が魅力の三塁手・大久保、平田は中大・尾上と大学球界一・二を争う遊撃手、そして栗山。ドラフト会議当日の合宿所食堂に用意された会見場には平田と松井が待機していた。しかし1位指名が終わった時点で5人の名前は呼ばれなかった。2巡目で平田が大洋と阪神が入札し阪神が交渉権を得たが3巡目が終わると松井はソッと席を外し自室へ籠もってしまった。予想もしなかった結末に食堂内に白けた空気が漂う中で「大洋に当たってくれたら良かった…」と平田がマイクの前でポツリと呟いた。
「ドラフト前は調子の良い事ばかり言っておきながらこれはないですよ・・」とマネジャーは肩を落としたが本当にそうなのだろうか?実は複数の球団が松井と大久保をリストアップしていたが明治大の場合は全ての決定権を島岡監督が握っている。社会人野球もプロ野球も事前交渉は島岡監督を通さなけらばならないのだ。あるスカウトがその間の事情をこう説明する。「平田や松井の話になると下位指名ではダメ。契約金は平田が8千万円、松井は5千万ですよ。昨年の原や石毛クラスなら球団もOKするけど正直そこまでの選手じゃない」島岡監督とすれば少しでも良い条件で教え子を送り出してやりたいという親心だろうが、少しばかりクスリが効き過ぎたようだ。今年は人材不足と言われていて少なくとも平田、松井、大久保の3選手は指名順位に拘らなければ指名する球団はあった。ドラフト外という道もあるが「本当に欲しいなら3位までに指名する筈。一流企業からの引き合いも多く頭を下げてまでしてプロへ行く必要はない」と話す島岡監督を説得するのは難しそうだ。
関西地区スポーツ紙の阪神1位指名予想は日刊とサンスポが右田(電電九州)、デイリーが槙原(大府)と書いた中でスポニチが『阪神、松本(秋田経付)を強行指名へ』と派手な見出しを打ってきた。「あいつはプロ入り拒否だろ」「阪神やで、江本もいなくなったしヤケクソで指名するんちゃうか」今シーズンは低迷続きで暗い話題ばかりだった阪神ファンにとって久々に明るいニュースであって、スポニチが売り切れたのは言うまでもない。当然この記事は東京九段のドラフト会議場まで届き小林チーフスカウトは記者に取り囲まれた。「スポニチが書いた事は本当ですか?」「ある時点まではスポニチさんが書いてる通りだったけど、もう断念しました。誰とは言えませんが松本君ではありません」と報道を否定した。ドラフト会議後のトイレで一緒になったスポニチの記者に小林スカウトは「惜しかったな、実は今日の朝まで迷いに迷ってた。でも松本家のガードが固くてね諦めたんだ」と肩を叩き「ご苦労さん」と一言。幻のスクープから3日後、同じスポニチに再び衝撃の見出しが躍った。
『松本に接触、西武がドラフト外で獲る』ドラフト会議の翌々日、降りしきる雪の中を西武・宮原スカウトが秋田県角館にある松本の実家を訪れた。他球団のスカウトが「やられた!」と臍を噛んだのは父親の善一郎さんが宮原スカウトを家に上げて3時間も交渉を行なったからだ。ドラフト前の挨拶に家を訪ねても「住友金属に入社する事が決まりましたから」と門前払いだった他の11球団のスカウトたちは地団駄を踏んだ。住友金属では法政大学の学閥が主流派で法政大出身の根本管理部長が深く食い込んでいて外堀から攻めていく作戦だ。西武はこれまでドラフトで指名した選手に一人として拒否された事のないチーム、さらにドラフト外でも駒崎や秋山など他球団が手を出せなかった選手も口説き落としている。善一郎さんの「プロ拒否宣言はしてみたものの、いざ指名されないのが分かると寂しいもんですね」とのコメントをどう読むか。6位で強行指名した名電高・工藤投手と共に今年のドラフトの目玉投手両獲りがあるかもしれない。
【金村義明 打率.258 127本塁打】 【右田一彦 12勝16敗5S】
【田中幸雄 25勝36敗16S】 【津田恒美 49勝41敗90S】
【槙原寛己 159勝128敗56S】
【宮本賢治 55勝71敗7S】 【山沖之彦 112勝101敗24S】 【金城信夫 32勝36敗5S】
【尾上 旭 .204 5本】 【伊東 勤 .247 156本】 【井辺康二 10勝12敗4S】 【源五郎丸 洋 一軍出場なし】
【藤高俊彦 入団拒否】 【高木宣宏 16勝18敗】 【加藤誉昭 .000 0本】 【田子譲治 2勝2敗】 【仁村 薫 .231 15本】
【山本幸二 .235 5本】 【月山栄珠 .125 0本】 【金森栄治 .270 27本】 【平田勝男 .258 23本】 【橋本敬司 5勝11敗】
【工藤公康 224勝142敗3S】
【中村 稔 .000 0本】