Haa - tschi  本家 『週べ』 同様 毎週水曜日 更新

納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 447 キャンプ人間模様 ①

2016年10月05日 | 1985 年 



山田久志(阪急):ショック!左半月板損傷は投手生命にかかわる重傷
阪急の絶対的エースの山田がキャンプインを目前に2週間の絶対安静を言い渡された。山田のリタイアはそのまま上田阪急のV2への赤信号でもある。余りにもショッキングな診断結果だった。家でも松葉杖を使うよう命じられ山田自身も改めて自分の置かれた状況に「確かにこれまで経験した事のない痛みだったがこれ程の怪我だとは…」と事の重大さを思い知った。遡る事、昨年7月の日ハム戦で柏原の放った打球を右膝に受けて右膝蓋骨亀裂骨折の重傷を負った。治療に専念し広島との日本シリーズには間に合いシリーズ7試合中、3試合に登板した。第4戦で先発したが野手からの送球を飛び上がって捕球し着地した際に痛めていた右膝をかばって左膝を痛めてしまった。山田は痛みを堪えて第7戦にも登板したがその代償は大きかった。

リーグ優勝の余韻に酔いしれたオフの間も痛みは引かずV旅行先のハワイでものんびりと休養に努めたが改善しなかった。年が明けて恒例の南紀・勝浦での自主トレも例年より開始を遅らせた。この頃には上田監督も山田の異変に気づいた。山田が勝浦に松元トレーナーの派遣を要請したのだ。身体チェックを兼ねた温泉療法で日本シリーズで痛めた左膝の痛みはどうにか治まった。合同自主トレには1クール遅れて1月27日から参加し、傍目には軽快な動きに映ったが2日目のランニング中に離脱してしまった。「走るとガンガン響く」と痛みの再発に顔を歪めた。痛みの再発から3日間はまさしく絶望への転落だった。西宮市内の病院で診察を受け「膝内傷」と診断され、翌日には姫路赤十字病院で精密検査を受けた。「左膝内副靭帯炎」に加えて「半月板損傷の疑い」と診断された。日本一のサブマリンに選手生命の危機が訪れたのだった。

「自分一人だけ取り残されていくみたいで心細い」と話す山田の表情は暗い。それもその筈で半月板の怪我の怖さは過去の例が示している。掛布(阪神)は復帰に1年を要し尾花(ヤクルト)は昨年に手術に踏み切った。彼らはまだ若く治療に専念できる時間もあるが山田に残された時間は多くない。阪急の先輩でもある足立(現二軍投手コーチ)や安田(現ヤクルト投手コーチ)は半月板の怪我で引退を早めた。「コレで終わった選手も多い。今が選手生活17年間で一番つらいよ(山田)」と無念の思いを滲ませる。上田監督が山田の最終診断を聞いたのはオーナー主催の激励会の最中だった。「昨年のシリーズで痛めた時に事後処理をきちんと指示すべきだった」と反省の弁を述べる一方で「起きてしまった事をとやかく言っても仕方ない。こうなった以上は完全に治して万全の状態で帰って来て欲しい。こうした危機を乗り越えるのが我々の仕事」と言い切った。



藤王康晴(中日):田尾を放出してもオツリがくる !? 三塁・藤王で200万人動員の皮算用
キャンプ目前に突然の田尾放出。そこには藤王の存在が大きく影響している。甲子園を沸かせた大物ルーキー、プロ入りしてもその存在感は変わらなかった。殆どが代打での出場ながら34試合で打率.361 ・2本塁打・8打点は高卒新人としては合格点。ジュニアオールスター戦では4打数4安打し「王の再来」との触れ込みは嘘でない事を証明した。「130試合使えば王クラスの選手になれる」と打者を育てる事に定評がある山内監督の言葉に球団上層部が乗った。「1年早いが球団創立50周年は " 藤王イヤー " にしたい」と鈴木球団代表は熱く語る。スター選手に何処を守らせるか?それは田尾の抜けた外野ではない。「ファンに一番近いサードしかない(鈴木代表)」とチーム改造は着々と進行中だ。

田尾のトレード発表後の1月28日、藤王はナゴヤ球場での自主トレで外野の守備練習をしていたが首脳陣は既に三塁での起用を想定してキャンプでは内野の守備練習をさせるつもりだ。「サードは各チームの看板選手が守るポジション。長嶋さんしかり、原しかり、掛布しかり。しかしウチは外様の選手や外人選手ばかり。ファンも不満ですよ」とある球団幹部は言う。 " サード・藤王 " の誕生で昨シーズンは191万人だった観客動員数を球団初の200万人超えを達成したい腹づもりだ。藤王本人も球団幹部の熱い思いをしっかり受け止めて「今年は勝負の年」と言い切る。意欲の強さは昨秋から今年にかけての動きで分かる。シーズン終了直後の串間秋季キャンプは皆勤、続く磐田冬季キャンプも皆勤。暮れと正月は名古屋市内のジムに通うなど徹底的に身体を鍛えた。

「プロはやれば必ず給料が上がるんですね」と目を輝かせるのは初めての契約更改で四百万円から六百万円にアップした自分の事ではない。四千四百万円から六千万円に大幅アップした谷沢を目の当たりにしたのだ。高卒1年目の若者の素直な驚き、新鮮で鮮烈な感動でもある。「やるっきゃないっス」の決意の前では " 2年目のジンクス " など吹き飛ばす勢いだ。いわゆる2年目のジンクスの原因については様々な意見があるが要は1年目の実績にホッと一息つく気の緩みであろう。当然、他球団も研究し攻め方も1年目とは違ってくる筈だが藤王もその点は心得ている。山内監督も「藤王は同じ事を教えても他の選手と違ってキッチリ自分のモノにしている。大したもんだ。2年目のジンクスも心配ないだろう」と褒める一方で昨年の暮れに藤王が遊びほうけている、と耳にすると「若いうちから遊んだ奴に大成した選手はいないぞ」と直々に忠告した。
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