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納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 475 躍り出た新星

2017年04月19日 | 1985 年 



昨年のロス五輪で日本代表の主将として4割2分9厘と大活躍し金メダル獲得の立役者となった熊野輝光(阪急)。プロ入り時は既に27歳で女房持ちといささかトウが立っているが、その実力が間違いない事を3月3日の対阪神とのオープン戦で証明した。紅白戦6試合で打率4割7分(17打数8安打)と圧倒しスタメン1番に起用された。5回の第3打席で工藤投手の2球目を痛打すると打球は右翼手の真弓の頭上を越え場外へ飛び出す本塁打となった。9回には阪神期待の仲田投手と対戦しセンターへあわやの大飛球。試合後「ホームランはただ思いっきり振っただけ」と本人は涼しい顔だったが上田監督は「並みの新人なら第1打席の三振で萎縮してしまう。ところがアイツは三振以外の打席は全て芯で捉えていた。ええで」と手放しで喜んだ。

3日の試合で放った本塁打には金1万円也の懸賞金が出たが「女房には内緒の小遣いにします」と社会人出身らしくしっかりしている。更に一夜明けた翌4日、今度は2番に起用され結果を残した。阪神のローテーション入りが期待されている " 球道くん " こと中西投手と前田投手を相手に3安打の固め打ち。福本、蓑田に続く外野の残り1枠を巡る競争に名乗りを挙げたが、そんな熊野にも課題はある。守備に不安な面をのぞかせる。「捕球の仕方がまだアマチュアだ(大熊コーチ)」と手厳しいが本人も「守りが課題なのは分かっています」と自覚している。熊野の出現が刺激剤となれば昨季あと一歩で逃した日本一を手にする可能性が高まる。熊野の守備力向上が今季の阪急の命運を握っているのかもしれない。

ルーキー第1号を放ったのが熊野なら初勝利を上げたのは
小川博(ロッテ)。3日の対中日戦後に小川も1万円の懸賞金を手にして「ラッキー。今日は60点の出来だった。大事に取っておきます」と祝儀袋を覗き込む仕草をしておどけてみせた。確かにラッキーだった。1点リードされた4回から登板して3イニングを5安打2失点と今ひとつの内容だったが6回に味方が逆転して初勝利が転がり込んだ。しかし運も実力のうち。またキラリと光る場面もあった。5回無死一・二塁で谷沢を迎えると袴田捕手の内角攻めのサインに首を振り、外角へシンカーを投じて一塁ゴロに仕留めた。この度胸の良さが東都大学リーグで揉まれた所以である。

試合後の稲尾監督は「モッカに打たれたのは外人にはシンカーを投げておけば大丈夫というベンチからの指示が裏目に出た。うん、合格点」と細い目を更に細めた。小川の談話もやさ男の外見に似合わず「中日打線はそれほど怖いというイメージはなかった。勝利投手になったのはまぁ嬉しいですけどオープン戦ですから今ひとつピンと来ないですね。1日でも早く公式戦で勝ちたいですね。先発完投型が理想です」と頼もしい。青山学院大学からドラフト2位で入団した肝っ玉ルーキーはスター選手には不可欠な実力と運を共に兼ね備えた投手だ。

肝っ玉と言えば2年目の飛躍が期待されている
小野和義(近鉄)もそう。昨季は高卒新人ながら2勝して「二桁勝利も(岡本監督)」とローテーション入りの期待をかけられている。しかし早くも " 2年目のジンクス " なのか紅白戦では打ち込まれ精彩を欠いていた。ただ本人は「紅白戦だからぶつけちゃいけないし、外角ばかり投げてたら打たれて当たり前です」と気にする様子はない。その言葉を実証するように3日の対大洋とのオープン戦では打者11人から7三振を奪う快投を見せた。

投手に関しては一家言を持つ横浜大洋・近藤監督も「うん、あれはいい投手だね。コントロール、球のキレ、球威も一級品。何より度胸がいいのが一番」と小野を褒めた。確かに小野の球威は増している。新人だった昨季は体重が70kg だったが今キャンプイン時には76kg になっていた。球威が増したのもその影響があるだろう。また精神面では昨オフに寮から出て自活を始めた事で逞しくなった。「僕はまだ開幕一軍が保証されている選手ではない。先ずは信頼を得る事が目標(小野)」と気持ちは浮ついてはいない。投手陣再建が急務の近鉄にとって欠かせない戦力になりそうだ。

目下オープン戦4連勝中で連覇に向けて快調に飛ばす広島を率いる古葉監督。傍目には順調そのものの古葉監督の頭を悩ませているのが5人目の先発投手。北別府、山根、大野、川口に次ぐ予定だった津田投手が血行障害と右足首捻挫で出遅れているのだ。その悩みの種を一気に解決してくれそうな投手が出現した。左腕の
高木宣宏だ。24日の中日戦に先発した高木は3回までパーフェクト、4・5回に1安打ずつ許したものの5回を無失点・5奪三振に抑えた。「今日は高木に尽きる。スタミナ、コントロールも問題なし」と古葉監督の声も上ずる。昨秋から取り組んできたフォークボールもモノになりつつある。通算2勝の男が広島の連覇へのキーマンに躍り出た。

「開幕から一軍入り。そして最低でも5勝」と高木は語る。中日戦の余勢をかって3月3日の巨人戦に6回から三番手で登板したが力みが目立つ内容だった。先頭の松本に安打、そして盗塁を決められ原を四球で歩かせた後、中畑に2点タイムリーを許した。この結果に古葉監督は高木の開幕ローテーション入りをお預けとした。しかし「球は行くんですが微妙なコントロールが駄目でした。でも開幕までには何とかします」と高木の視線は俯く事なく前を向いている。4年前にドラフト3位で北陽高からプロ入りした時の童顔は変わらないが中身は間違いなく成長している。
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