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納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 586 男たちの収支決算 ➊

2019年06月05日 | 1985 年 



'85年シーズン、順調に乗り切った人もあればまるで不本意な成績に終わった人もいる。それぞれの収支決算は直接的には来季の年俸となって現れるわけだが、ここに登場の5人はその決算が非常に難しい男たち。見方の違いによってプラスにもマイナスにもなる厄介な人々だ。ということは山あり谷ありのシーズンだったことを意味する。あなたはこの男たちの収支決算をどう見る?

野球以外の " ヘディング " で散々の1年。それでもファンは喜んだ
その昔、空白の1日という言葉があった。宇野選手(中日)は「空白の1年なんて言葉はありませんかね」と溜め息交じりに話す。今季、こと野球だけをを見れば41本塁打、フルイニング出場など充実した1年であり空白とするにはもったいないシーズンだった筈。しかし野球以外で世間を騒がしトータルすると本人としては「空白」にしたいようだ。野球以外・・今年は女性とお金にまつわる話が多かった。開幕前の4月に3年間連れ添った栄子夫人と協議離婚。「離婚すれば普通なら問題解決ですよね。ところが宇野の場合はここから問題を背負うことになったから気の毒だったよね」と事情を知る大越球団総務は当時を振り返る。

離婚した宇野の元には前夫人が残した三千万円もの借金が残った。仲人を務め離婚の調停にも一役かった大越総務は残務整理も手伝い最後は呆れた。「だってそうでしょう、宇野といえば曲がりなりにも年俸三千九百万円のプロ野球選手。それが奥さんの借金を肩代わりして今年は月二十万円で生活してきたわけだから」と。少しでも足しになればと11月には『ヘディング男のハチャメチャ人生』という告白本まで出した。「今シーズン41本塁打できたのは打つと貰える賞金があったから」と宇野は著書の中でも書いているくらい懐具合は寂しかった。これで一件落着しないのがウ~やんらしい。これも本に書かれているが「離婚してからはモテモテだった(宇野)」だそうで身軽で自由な独身になると、ついつい脇も甘くなる。

9月中旬、後楽園球場での巨人戦を終えると知り合いの女性が待つマンションへ足を運んだ。部屋でくつろいでいると突然ドカドカと恐ろしげな数人が乱入してきた。彼らは部屋に入ると「そのまま動かない!」と一喝。なんと麻薬捜査官だった。知り合いの女性は覚醒剤常習者だったのだ。状況を把握できず茫然とする宇野は身元確認を終えると解放された。宿舎に戻るとようやく事の重大さに気がついた。後の捜査で身の潔白は証明されたが、一つ間違えれば野球生命どころか日常生活をも断たれかねない重大事件で「もう女性はこりごり」と著書で告白している。「なんかね野球をしたのは30試合くらいで100試合は女性とお金と戦った1年だったような気がする」と宇野は今季を振り返った。

その野球でもやっぱりウ~やんはやってくれた。9月下旬の甲子園球場での阪神戦、「あんなジャッジが許せるか!」と審判の判定に激怒した山内監督が「おい、選手はベンチから出るな」と言って抗議に向かい放棄試合も辞さない構えだ。ところが監督が抗議の真っ最中にもかかわらず三塁側ベンチから一人の選手が自分のポジションに向かって俯きながら小走りしている。宇野である。遊撃付近の土を足で均し、ようやく顔を上げて周りをキョロキョロ。そして状況を察したのか顔を真っ赤にしてベンチに戻って来た。「監督が抗議してるなんて全然気がつかなかったよ。誰も注意してくれないし、ベンチの皆は大笑いしてるし参ったよ」と頭をポリポリ。

10月の大洋戦ではアウトカウントを間違えるチョンボも。一死一・三塁の場面で中尾選手は三振。その間に一塁走者の川又選手が一・二塁間に飛び出して挟まれた。それを見た宇野は何故か離塁して今度は宇野が挟まれた。その間、宇野は一塁走者の川又に向かって二塁へ行けと合図を送る。タッチアウトとなった宇野は井出三塁コーチに「井出さん川又を叱ってよ。せっかく俺が挟まれているのに奴はボーと見てるだけだった」と不満を漏らした。井出コーチは呆れて「中尾の三振でツーアウトだぞ。ウ~やんがアウトになったらチェンジだよ。そもそも二塁走者が残っても三塁走者が挟殺されたら意味ないだろ」と。宇野勝27歳。確かに今季を「空白の1年」にしたい気持ちは理解できる。



「オレ、今年1年すごい人生送っちゃったもんな」この人の場合決算不能です
ちゃんと分かっている。「オレ自身も今季の成績は内容が薄いなぁと自分でも知ってるよ。けどオレなりに精一杯やったつもりだけどね。まぁ来年やり返すよ」と中畑選手(巨人)は今季を振り返る。490打数144安打・打率.294・18本塁打。可もなく不可もなく、そんな数字だ。中畑は常日頃から " 三・三 が 九 " が目標だと公言している。つまり3割・30本・90打点を最低ノルマとし、特に打撃三部門うち打点を最も重視している。「打点は確実にチームにプラスになる。だから打点王が俺の目標(中畑)」と話す。その打点が今季は62打点に終わりクロマティ選手の112打点はもとより、チャンスに弱いと酷評された原選手の92打点にも遠く及ばない。

野球評論家の野村克也氏が中畑に関してあるデータを示した。今季セ・リーグで5勝以上あげた投手に対して中畑は打率2割そこそこしか打ててない。他方でいわゆる " 二線級 " 相手だと3割5分以上。「う~ん、いい投手を打ててない・・また一つ克服すべき来年の課題が増えたね(中畑)」と渋い顔。そう、中畑は自身のウイークポイントを素直に認める前向きな性格なのだ。その性格は多くのファンに支持されている。後楽園球場のライトスタンドでは歌番組のスクールメイツみたい、と言われるくらい歓喜・狂喜の大騒ぎなのだが、最高潮に達するのは中畑の打席の時。「あの応援は震えるほど嬉しい。でも今季は空回りしちゃったみたい(中畑)」と。

そして来年を見据える。「チャンスに弱い。データに表れている。俺なりに考えるとその瞬間にカァーと熱くなって力んじゃう癖が抜けない。熱くなるのは俺の長所でもあり短所でもある。良い投手に対してもそうで負けてたまるか、と力が入っちゃう。来年は意識的に力を抜くことが課題だな」と語った。今季は125試合に出場した。欠場した5試合は怪我が原因。7月16日の大洋戦で本塁突入した際に右足股関節を痛めた。「今年こそフル出場を狙っていたけどダメだった。これも来年の目標だね(中畑)」。ただし来季は自身の体調だけでなく若手の台頭というハードルも。駒田選手の成長が著しく、中畑が欠場していた間は一塁手として無難に代役を果たした。

中畑にはもう一つ別の顔がある。野球機構側が最も恐れていた選手会の労働組合結成に関して中心人物としての顔だ。単なる親睦団体だった選手会をストライキも辞さない強力な組織に変えた。数年来に渡り東京地方労働委員会に申請したが遂に労働組合として認定された。中畑はその初代委員長に就任した。「本音を言えば労働組合の委員長として目立つのは嫌。俺はグラウンドで " 中畑選手 " として目立っていたい。それにしても今年1年は個人的にもすごい人生だった。阪神の優勝を見て来年はジャイアンツの一員として心から優勝したいと思った。是非とも王監督を胴上げしたいね」と。駒田の成長で一時はトレード候補に挙げられ今オフは騒がしかったがそれも一段落。来季の捲土重来を誓う中畑だった。
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